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112.帰郷4

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「リゲル様、アルフレート様の所在は
現在、不明です。如何いたしましょうか?」
付き人の話を聞いて、リゲルは激怒した。

「俺が見に行くと言ったら、行くんだよ。
おまえのように棒を振り回すだけが
能の奴に期待してると思うか?
ラムデール、いるな。さっさと案内しろ」

ドア越しの廊下に向かって怒鳴りつけた。

「はっ、了解いたしました。馬車を回します」
廊下より鮮やかな紅い髪の男性が直立不動の姿勢で答えた。

「くふう、そうだ。励めよ!
励めば、弟と妹には手は出さない。
少しアルフレートを脅してからかってやるか!
ベイス、ディリアム、ロムデール、適当に人数を揃えろ。
出るぞ」
リゲルと共に日中から、享楽に耽っていた
取り巻き立ちも立ち上がり、気だるそうに各々、準備を始めた。

ラムデールを先頭に総勢、50名を超す一団が
リゲルの馬車を中心にエスターライヒ家の邸宅を出た。
ラムデールの表情は険しく、優れなかった。
街往くこの一団が通ると、人々は拝跪して、
その場をやり過ごしていた。
そして、彼等の表情が物語っていた。
決して、尊敬の念を次代の領主に向けていなかった。
侮蔑、恐怖、忌避、負の感情が人々に渦巻いていた。
馬車に乗るリゲルには、見えなかったが、
多感なラムデールはそれらの思いを敏感に感じていた。
エスターライヒの氏を名乗る以上、
自分も同じように見られていると思うと
忸怩たる気持ちでいっぱいになっていた。

「おい、ラムデール!
こんなぼろ宿の前で止まって、何を考えている?」
ベイスがイキって怒鳴りつけた。

「ここに宿泊しています」
虎の威を借りる狐とはこいつのことを
言うのだろうなと思いつつも事を
荒立てずに収めようと丁寧に対応した。

「ちっ、まあいい。俺が引きずり出してやるよ。
所詮、ひよっこの魔術師風情だろ。
当主リゲル様に捧げる一番槍だ、野郎ども行くぞ」
リゲルへの阿諛追従を忘れず、聞こえるように
大声で喚きたて、宿の入り口から突入しようとした。

宿ではこの乱痴気騒ぎを誠一たちが聞いていた。
「アルフレートの弟君は、随分、君と違って阿呆なのだな。
あんなごろつきを集めて、騒ぎ立てるとは、伯爵家の名が泣く」
ロジェが率直な感想を伝えた。

アルフレートの記憶にあるリゲルは、
臆病で小賢しい小心者であった。
嫡子という立場と取り巻きたちのせいで
箍が外れてしまったのだろう。

「まーでも到着して、直ぐにこの宿を見つけるんだから、
単なる阿呆の集まりじゃないでしょ。
道中、つけられていた訳でもないし。
ちょっと、一人、毛色の違うのがいるね。
アル君、あの紅髪の少年、知っている?」

「あー確かにちょっと、他とは雰囲気が違いますね。
アル、あの少年はちょっと注意が必要かも。
結構、鍛えている感じだね」

キャロリーヌとシエンナの視線の先の男を
小窓から覗くと、アルフレートの記憶にある
男の面影があった。
確か自分が屋敷から出て行くときに
最後まで何かを叫んでいた少年だった。
確か幼少の頃よりアルフレートに
一歩及ばないが、勝気な性格故なのか、
勉学、武術等々で頻繁に勝負を
挑んできた少年であった。
確か同じ年齢であったはずだった。
そんなことを考えながら、外を覗いていたら、
ラムデールと視線が合ってしまった。
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