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106.新学期1

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 長い休暇が過ぎ、新しい学期が魔術院でも始まった。
街には、ダンブルの反乱による傷跡は
いまだに生々しく残っていた。
そして、領地へ上手く逃げ込んだダンブルが
反対勢力の集結に成功し、地方で独立の構えを
取っていた。
噂では魔人や魔獣を引き込み、戦力の増強を
図っているとのことであった。

 誠一の所属するクラスではリシェーヌの休学が
講師より発表された。
勇者としての資質を持つリシェーヌは、
ヴェルトゥール王国の旗頭の1人として、
出征したとのことであった。

めずらしくファブリッツィオが
講師の言葉に噛みついた。
「真実を話してください。
もしそのようなことなら、我がストラッツェール家が
既に知っているはず。
全く耳に入らないなどあり得ないです」

講師はファブリッツィオの剣幕に
たじろいてしまったが、それ以上の事は言わず、
全てを学院長へ放り投げた。
「私が聞かされていることはそれだけだ。
他は知らない。
知りたければ、学院長に聞きなさい。
以上。では講義を始める」
強引にこの話題を閉じると、講師は講義を始めた。
学生の多くは講師の話にあり得える話と納得していた。

 その日の杖術の講義中、めずらしくファブリッツィオが
誠一を相手に訓練をしていた。

「はあっ!」
激しく打ち合う二人だった。

暫く打ち合っていたが、杖が重なり押し合いになり、
二人の動きがその場で止まり、二人の汗が地面に滴り落ちた。

「はぁはぁ、アルフレート。
貴様はリシェーヌがここを去った本当の理由を
知っているのだろう!
彼女はどこへ向かった。教えろ」
ファブリッツィオの杖を押す力が更に増した。

「ぐっ、知らない。
知ろうとも思わない。
何も俺は求められなかった。
唯一、俺のやることは、彼女が助けを
求められる位に実力をつけることだけだ」
誠一はファブリッツィオの杖を押し返した。

睨み合う二人。

再び、ファブリッツィオが話し出した。
「貴様では力不足だ。
だから、彼女を失ったのだろう!
彼女から手を引け。
そして、我がストラッツェール家に
貴様の知りうること全てを話せ。
いいな!これは忠告だ。
俺に話さずともいずれ王国を去った貴族、
残った貴族、そいつらが情報欲しさに
お前に群がるだろうよ」

「くそったれ!そんなこと知るかっ!」
誠一の予想外の声の大きさと鋭さに
周囲は組打ちを止めて、二人の方を見た。

周囲からの注目を浴びて、二人も一旦、
組打ちを中止して離れた。
場は静まり返り、時節、空を駆ける鳥の鳴き声が響いた。

講師は諦めたような素振りで、講義を打ち切った。
「今日はここまで!全員、次の講義に備えなさい」

どの学生も一言も話さずに何となく学舎の方へ
移動を始めた。
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