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85.リシェーヌの行方3
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ファウスティノの表情は
重苦しく疲れているように誠一には見えた。
その表情を見て尚、誠一は、己の主旨を曲げなかった。
「リシェーヌが試練に立ち向かうなら、
俺はその横で助ける。
ここであなたに倒されようとも俺は曲げない。
曲げるのは、学院長、あなただ」
「困ったのう、若い者の熱い勢いは。
しかし、アルフレート君、君がナーシャの護衛に
就くとなるとフリッツが黙っておらぬ。
戦力にならぬばかりか、キチガイのようになり、
君とリシェーヌを惨殺するじゃろう。
それは誰にも止められぬ」
誠一はナーシャが誰の事か分からず、
アルフレートの記憶のページをめくった。
そして、大人たちがリシェーヌに何を
させたいか理解した。
それが表情に現れたのだろう。
ファウスティノが話を続けた。
「流石に君は14歳とは思えぬ洞察力じゃ。
その通りだ、彼女を囮、否、生贄に利用する。
ナーシャを失う訳にはいかないのだよ。
これを試練とリシェーヌは捉えて、
快く承諾してくれた。
君は彼女の意思を信じて、待っていなさい」
誠一は、心の底で叫んでいた。
じゃあ、何故、あんなに震えていた。
何故、あんなに泣きそうになっていた。
何故、お別れの言葉を紡いだ。
「どう言っても納得せぬようじゃのう。
流石にその歳で『神々への反逆者』を得ただけはある。
仕方なし。ここからは実力行使といくかのう」
普段の筋トレ用の杖でなく、魔晶石が派手に
散りばめられた杖を右手に持つと、
ファウスティノは魔術を唱えだした。
誠一も応戦しようと、補助魔術を展開し、
メイスを振り上げて、ファウスティノに
向かって横なぎに叩きつけようとした。
メイスは学院長を叩きつける前に止まった。
ファウスティノが誠一の腕を掴んでいた。
メリメリ、誠一の腕に軋む音がした。
ファウスティノに掴まれ、彼の指が誠一の腕に
めり込んでいた。
「ぐっ、くそ」
腕の痛みもさることながら、ファウスティノの動きを
全く誠一は捉える事ができなかった。
全く通用しない。
焦りが誠一の動きを雑にした。
「はっ離せ」
誠一はファウスティノの腹部に力任せに膝蹴りを入れた。
鉄板を蹴ったような衝撃が返ってきたが、
ファウスティノは、腕を離して、距離をとった。
「ふむ、補助魔術で強化した肉体へ
僅かばかり衝撃を感じさせるとは、
よう鍛えておる」
うっ嘘だ、このじいさん、補助魔術なんて
使ってないはず。
余程、己の鍛えた肉体に自信があったのだろうが、
それを僅かでも破られたのが余程、くやしかったのだろう。
誠一はにやりとした。
「アルフレート君、よろしくないな。
先生を疑うその姿勢は、学生としてよろしくない。
改めなさい」
誠一は嘲笑した。
「生徒を利用するような先生は、信用できないな」
ファウスティノは重苦しい表情のままであったが、
何の弁解もしなかった。
ぬめり、誠一の周りの空気が一変した。
彼の世界は無音に支配されていた。
纏わりつく不快な空気がファウスティノと
誠一を包んでいた。
対象を覆っているぬめりとした空気の動きが
誠一へ相手の一挙手一投足を伝えていた。
「これはエスターライヒ家に
伝わる奥義うちの一つじゃな」
淀んだ空気の中でファウスティノの杖の先端で
魔晶石が幾重にも弧を描き、動いていた。
それは星々の軌跡を描いているようであった。
「夜に煌めく星々よ、その軌跡の約定の力を
僅かながら、与えたまえ。
スター・トラジェクトリー」
淀んだ空気はファウスティノを中心として
回る星を模した魔晶石により、飛散してしまった。
本来は攻防一体の魔術なのうだろうが、
出力を抑えて、ファウスティノの周りのみで
発現したのだろう。
「神より授かりし神杖により発現する天体の運行を
模する魔術である。魔法に限りなく近い魔術じゃ。
『神々への反逆者』の称号を得た時、
記念に神が最後の力を与えると言い残して、
与えられたものである。
神々の世界では課金アイテムと呼ばれるそうじゃのう。
去り際にそう言っておったわ。
君はそう言ったことに相当、詳しいのではないのかな、誠一君」
あっけなく技を破られ、疲弊していたところに
衝撃の言葉を聞き、動揺の極致にいる誠一だった。
「君たちのような二つ名を持つ者たちは得てして、
構築された世界、VR、NPCと良く理解が及ばないが、
不愉快に感じる言葉でこの世界を表現する。
そして、何故か勝手に絶望して、闇に落ちていく。
この戦いの後でも学院に残るならば、
その辺りを聞いてみたいものだ」
ファウスティノの杖の先端に魔晶石が集まり、
槍を模したようになった。
「星槍の儀に耐えうるならば、
我が問いに答える機会があろう」
一条の光が誠一に向かって飛来した。
回避不能、防御不可、誠一の脳裏に
それらが過った瞬間、彼の意識は刈り取られていた。
「ふーむ、どうも非情に徹することができぬのう」
ファウスティノはそう呟くと、幾人かの講師を呼び、
誠一をエスターライヒ家の屋敷に運ぶように伝えた。
重苦しく疲れているように誠一には見えた。
その表情を見て尚、誠一は、己の主旨を曲げなかった。
「リシェーヌが試練に立ち向かうなら、
俺はその横で助ける。
ここであなたに倒されようとも俺は曲げない。
曲げるのは、学院長、あなただ」
「困ったのう、若い者の熱い勢いは。
しかし、アルフレート君、君がナーシャの護衛に
就くとなるとフリッツが黙っておらぬ。
戦力にならぬばかりか、キチガイのようになり、
君とリシェーヌを惨殺するじゃろう。
それは誰にも止められぬ」
誠一はナーシャが誰の事か分からず、
アルフレートの記憶のページをめくった。
そして、大人たちがリシェーヌに何を
させたいか理解した。
それが表情に現れたのだろう。
ファウスティノが話を続けた。
「流石に君は14歳とは思えぬ洞察力じゃ。
その通りだ、彼女を囮、否、生贄に利用する。
ナーシャを失う訳にはいかないのだよ。
これを試練とリシェーヌは捉えて、
快く承諾してくれた。
君は彼女の意思を信じて、待っていなさい」
誠一は、心の底で叫んでいた。
じゃあ、何故、あんなに震えていた。
何故、あんなに泣きそうになっていた。
何故、お別れの言葉を紡いだ。
「どう言っても納得せぬようじゃのう。
流石にその歳で『神々への反逆者』を得ただけはある。
仕方なし。ここからは実力行使といくかのう」
普段の筋トレ用の杖でなく、魔晶石が派手に
散りばめられた杖を右手に持つと、
ファウスティノは魔術を唱えだした。
誠一も応戦しようと、補助魔術を展開し、
メイスを振り上げて、ファウスティノに
向かって横なぎに叩きつけようとした。
メイスは学院長を叩きつける前に止まった。
ファウスティノが誠一の腕を掴んでいた。
メリメリ、誠一の腕に軋む音がした。
ファウスティノに掴まれ、彼の指が誠一の腕に
めり込んでいた。
「ぐっ、くそ」
腕の痛みもさることながら、ファウスティノの動きを
全く誠一は捉える事ができなかった。
全く通用しない。
焦りが誠一の動きを雑にした。
「はっ離せ」
誠一はファウスティノの腹部に力任せに膝蹴りを入れた。
鉄板を蹴ったような衝撃が返ってきたが、
ファウスティノは、腕を離して、距離をとった。
「ふむ、補助魔術で強化した肉体へ
僅かばかり衝撃を感じさせるとは、
よう鍛えておる」
うっ嘘だ、このじいさん、補助魔術なんて
使ってないはず。
余程、己の鍛えた肉体に自信があったのだろうが、
それを僅かでも破られたのが余程、くやしかったのだろう。
誠一はにやりとした。
「アルフレート君、よろしくないな。
先生を疑うその姿勢は、学生としてよろしくない。
改めなさい」
誠一は嘲笑した。
「生徒を利用するような先生は、信用できないな」
ファウスティノは重苦しい表情のままであったが、
何の弁解もしなかった。
ぬめり、誠一の周りの空気が一変した。
彼の世界は無音に支配されていた。
纏わりつく不快な空気がファウスティノと
誠一を包んでいた。
対象を覆っているぬめりとした空気の動きが
誠一へ相手の一挙手一投足を伝えていた。
「これはエスターライヒ家に
伝わる奥義うちの一つじゃな」
淀んだ空気の中でファウスティノの杖の先端で
魔晶石が幾重にも弧を描き、動いていた。
それは星々の軌跡を描いているようであった。
「夜に煌めく星々よ、その軌跡の約定の力を
僅かながら、与えたまえ。
スター・トラジェクトリー」
淀んだ空気はファウスティノを中心として
回る星を模した魔晶石により、飛散してしまった。
本来は攻防一体の魔術なのうだろうが、
出力を抑えて、ファウスティノの周りのみで
発現したのだろう。
「神より授かりし神杖により発現する天体の運行を
模する魔術である。魔法に限りなく近い魔術じゃ。
『神々への反逆者』の称号を得た時、
記念に神が最後の力を与えると言い残して、
与えられたものである。
神々の世界では課金アイテムと呼ばれるそうじゃのう。
去り際にそう言っておったわ。
君はそう言ったことに相当、詳しいのではないのかな、誠一君」
あっけなく技を破られ、疲弊していたところに
衝撃の言葉を聞き、動揺の極致にいる誠一だった。
「君たちのような二つ名を持つ者たちは得てして、
構築された世界、VR、NPCと良く理解が及ばないが、
不愉快に感じる言葉でこの世界を表現する。
そして、何故か勝手に絶望して、闇に落ちていく。
この戦いの後でも学院に残るならば、
その辺りを聞いてみたいものだ」
ファウスティノの杖の先端に魔晶石が集まり、
槍を模したようになった。
「星槍の儀に耐えうるならば、
我が問いに答える機会があろう」
一条の光が誠一に向かって飛来した。
回避不能、防御不可、誠一の脳裏に
それらが過った瞬間、彼の意識は刈り取られていた。
「ふーむ、どうも非情に徹することができぬのう」
ファウスティノはそう呟くと、幾人かの講師を呼び、
誠一をエスターライヒ家の屋敷に運ぶように伝えた。
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