転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組！だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業？それとも社畜？誰か助けて

77.温泉まったり物語2

　食事が終わり、誠一は庭園を一人で散策していた。
全てが懐かしく、珍しく望郷の念を
強く感じてしまったためであった。

外に設置してあるベンチに腰をかけて、
ぼーとしていると、目の前に突然、
スターリッジが現れた。
無言で見つめ合う二人であった。
どちらも目を離さない。
誠一は、何故か目を逸らした瞬間、
殺されそうな気がしていた。

「ふっ、貴様、一体何者だ。
信じられないことだが、何故、
この地域独特の文化を知っている？
否、普通に扱える？
知識として知っていても
実際にそれを扱うことは難しいだろう」

「何のことを言っているのかわかりませんが？」
この男は自分を観察している。誠一は警戒した。

「ふん、今回の件が詫びを含めてのことは
無論だが、ここを選んだのは貴様を
よく知るためだ。
調べによると貴様はここの文化に
触れたことはないようだな。
浴衣の着こなしから、箸の扱い、独特の挨拶、
卒なくこなし過ぎだろう。
そして、天啓を受けた日を境に著しく変わった性格。
お前付きの若い女の使用人の死。
その直後の廃嫡。
道中で消えた騎士たち。
14歳の餓鬼とは思えない行動。
貴様一体、何が目的でお嬢様に近づく？」
誠一が口を挟む間もなく、一気呵成に
話すスターリッジであった。
そして、その内容に気圧されていた。

心を落ち着かせるために夜空を見上げた。
漆黒の夜空に星々が輝いていた。
果たしてあれもゲームのグラフィックスなのだろうか、
あまりの迫力に誠一は本物の様に錯覚してしまった。
改めて、スターリッジと目を合わせた。
所詮は造り物、圧倒されるいわれはない。

「私は、アルフレート・フォン・エスターライヒ以外の
何者でもありませんよ。
天啓を受けて、魔術師を極めんとしているだけです。
エスターライヒ家は、代々騎士の家系、
嫡子としては不都合でしょう。
そのために弟にその座を譲っただけです」

「この俺を前にして、その落ち着きよう。
そして、女を見る好色な目。
観察すればするほど、どれ14歳のガキとは思えんな。
お前の存在があり得ないんだよ」
夜空を見上げて、誠一は大きく深呼吸をした。

「何といわれましても言いようがありません」

「まあいい。
ボスや奥様はあまり問題視していないようだが、
お嬢様に纏わりつくなら、常に監視されていると
思っておくんだな」
言うべきことを言い終えたのだろう、
スターリッジは足音一つさせずに暗がりに消えていった。
「一つ、教えておく。
一度、領地に戻ってみるといい。
面白いものが見れるぞ」
闇の中から声のみが聞え、
そして、また、闇と静寂が誠一の周りを包んだ。

おそらく記憶にしかない現嫡子である弟が
何かと問題を引き起こしているのだろうと思った。
脳に刻まれている記憶だけで、誠一には
それらのことを反芻しても記憶のページをめくり、
読んでいるようで実感が何も湧かなかった。