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63.隊商の護衛7

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ヒステリックな声がもう一つ増え、
更に酷いことになっていた。
ヴェルは完全に我関せずの態度で耳を塞いでいた。
誠一はそうもいかず、二人の言い分を
聞いていたが、どうにも収拾がつきそうになかった。

「何よ、シエンナだって、
アルの右手を胸に当ててでしょう」
リシェーヌしては珍しい甲高い声で非難した。

「はっ、生き死の戦いでよそ見するなんて、
随分と余裕ね。
私は早く戦いに参加するためにそうしただけ、
他意はないわ。詠唱をミスったのはアルだもん」
シエンナがとんでもないことを主張した。

「じゃあ、私だって、動けないのを良いことに
アルがしたんだし、悪いのはアルでしょう。
私に当たらないでよ」
リシェーヌがとんでもないことを主張した。

「ふーん。初キスがあんな濃厚なやつなんだ。
リシェーヌってエロいね」
シエンナが顔を歪ませた。

「えっ、違うぞ」
突如の援護射撃がヴェルから飛んできた。

突然の発言に三者三様の表情となった。

誠一は、不思議そうに。
リシェーヌは、憤怒の形相に。
シエンナは、泣きそうに。

ヴェルは、己の失言を悟り、真っ青になった。
そして、違う違う、嘘、嘘と繰り返した。

シエンナは、右手を上げて、
リシェーヌの右頬を思いっきり引っ叩いた。
「うん、一発は受けるよ。でも次は受けない」
いつものリシェーヌの声だった。

その声を聞くとシエンナは堰を切ったように
泣き出した。
そして、よしよしという感じでリシェーヌが
シエンナを軽く抱きしめた。

何もできずにおろおろする男二人であった。

隊商の許に戻ると、スターリッジが
シエンナに目を向けていたが何も言わず、
ロジェと事後処置について話していた。
どうやら、今日はここで夜営をするようであった。
そして、翌日、素材や希少な物を取れるだけ取って、
近場の村に後を任せることにしたようだった。

 ほとんど危険はないために
モリス商会の人員でそれらを集めるようであった。

その夜の事であった。
「横に座っていい?」
シエンナが遠慮がちに誠一に話しかけた。
「うっうん」
歳相応の余裕もなければ、対応もできない誠一だった。

「お昼はごめんね、リシェーヌにも謝ったよ。
ちょっと焦っちゃった。
アルとリシェーヌが二人っきりで
過ごしてるなんて思ってもいなかったかし、
道中、凄く仲がいいしね。
何か二人の距離を縮める何かが
あったのかなと思うとね」
はっきり好きとは言わないが、シエンナが自分に好意を
寄せていることは察することができた。
どう答えていいか分からず、曖昧に答えた。
「誤解を招く行動が多かったことは認めるけど、
リシェーヌとは何事も無かったよ。
今日だって、緊急の際の行動だしね」

その言葉を聞いて、シエンナは寂しそうに笑った。
好きでなければあんなに必死になって
行動できる訳ないとそんな思いが込み上げて来た。
そして、誠一の瞳をじぃーと見つめた。

満天の星空が夜を支配し、暗闇に明かりを灯していた。
見つめられている誠一は金縛りにあったように
身動きがとれなかった。
ほのかな明かりがシエンナの表情を照らしていた。
彼女は目を閉じて、誠一の唇に自分の唇を重ねた。
唇が離れると、夜空に向かって宣誓するように言った。

「私、譲らないから。あなたも魔術の技量もね」

シエンナは立ち上がると、馬車の方へ戻っていった。

誠一はどのような態度を取っていいか分からずに
呆然とそこへ座っていた。
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