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54.チーム戦8

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誠一は、その場にへたり込んでしまった。
腰に力が入らないとはこういうことを
言うのだろうと身をもって実感した。
動けない誠一を気遣って、リシェーヌが
誠一の側に来た。
誠一はリシェーヌの助けで何とか立ち上がり、
彼女の肩を借りながら、ロジェさんたちの方に
向かって歩いた。
誠一は、下着から上着まで汗、涙と尿で濡れて、
妙な臭いがしていた。
リシェーヌの身体に密着していたために、
リシェーヌにそのことをどう思われているか
心配でしょうがなかった。

誠一の暗い表情を不思議そうに見つめて、
リシェーヌは言った。
「ん?この匂いには、アルの思いが詰まっているね。
心配かけてごめんね」

いやいや、14歳の少女だよ。
この言葉で惚れそうな気分に
なってしまった誠一は必死に自分に言い聞かせた。

この娘、天然のたらしだ!惑わされるなと
色々と言い聞かせるが、心臓の鼓動は
大きくなるばかりだった。

やっとのことで誠一は口を開いたが、
それは照れ隠しより、酷いものであった。
「いやいや、思いというか色々な臭いが
混ざっているから、そんな臭いを
好むリシェーヌは変態さんだな」

驚きの表情で答えるリシェーヌ。
「えっこの匂いを好きとは言ってないよ。
でもアルが必死に思ってくれた証だから、
うん、この匂いは嫌いじゃないかな」

絶対無理、この娘に恋をしないなんて、
絶対に無理と誠一は心の中、叫んだ。

そんな二人のやり取りをロジェ、
キャロリーヌ、そしてバルドロは
温かく見守っていた。

ティモールは何か叫んでいたが、
取り巻きの冒険者たちに担がれて、
訓練場を後にした。
ファブリッツィオは、悔しそうに誠一を
睨みつけて、ティモールたちの後を追った。

「さーてと、そろそろ、仕事に戻るかな。
おい、アルフレート。
おまえ、臭いからその臭いで街中を歩くなよ。
ギルドにある井戸端で身体位拭いて、帰れや。
あとは適当な魔術師に金を渡して、
クリーニングして貰えや。じゃあな」
悪相は悪相ではあったが、愉快そうに笑って、
バルドロは訓練場を後にした。

「あのバルドロさんって、一体?」
誠一はロジェに尋ねた。

「あーあの男か。あれは一種の天才だな。
大魔術師ファウスティノ・ソリベス・セドゥとはまた、
違った努力の天才だよ」
誠一にはさっぱり分からなかったが、
キャロリーヌが補足してくれた。
「右脚を失わなければ、最強クラスの
僧侶だったでしょうね。
己の信条に準じて、失ったんだけどね。
彼はティモールとは真逆の存在よ。
人の何十倍も努力しないと、
成長できなかったから。
小さい頃は、鈍臭くって、有名だったらしいわ。
それが、ある時から急にね、成長したみたいなの。
諦めずに努力は人を裏切らないっての
証明するような存在よ。
ちなみにノーマルランク最強の人だから」

「そう!それだ。大魔術師は努力の結果が
如実に現れて、成長したけど、
奴は何倍もの努力をして、やっと成長したからな。
ただ、成長したときの伸びが
凄まじかったらしい。
よく諦め無かったと思うよ」

誠一は、理解した。
おそらく何倍もの経験値が
レベルを上げるのに必要だったが、
レベルが上がった時の成長率が
異常に高いということなのだろう。

「つまり、大器晩成と言うことですね」
誠一がそう纏めると、二人は大笑いしてしまった。

「確かにそうだな、その通りだ。
だが、大器晩成なんて言葉は、
彼にはどうもそぐわないな。
アレな性格だし」

「そうそう。大器晩成なんて大仰な言葉は
似合わないかな。
でも彼の努力と諦めない精神は本物よ」

二人の言葉にふくれっ面の少女が一人いた。
「そんなことない。バルドロは凄いよ。
あの司祭様が自ら鍛えた人なんだから。
それに成長する過程で色んなことを
経験してるから、
冒険者の人達にあれだけアドバイスできるんだよ」
少女はめずらしく語気を荒げて、主張した。

誠一はそれに少し何故かイラっとしてしまった。
それが表情に露わてしまったのだろう。
「何?アルも依頼をこなす前に
色々とアドバイスを受けたでしょ」

「それはわかっているけど、あの言い草じゃ
全て台無しになるよ。
思いはどうであれ、その言葉が
受け入れられるよう努力することも大事だよ。
言えばいいという訳じゃないから」
誠一は面白くない気分に囚われてしまい、
ついつい意地悪なことを言ってしまった。
とにかくバルドロを褒めたくなかった。

「それは、その何か意味があってのことだよ。
私たちの年齢ではまだ、わからないことだよ」

どうあってもバルドロのことを悪く言わない
リシェーヌにイラつきが収まらず、
反論しようとした時、背中に気持ちの良い重りを
感じた。
そして、誠一の前で綺麗な腕が交錯した。

キャロリーヌが後ろから誠一を抱きしめていた。
リシェーヌを前にして、不覚にも下腹部が
脈動するのを抑えられなかった。
「きゃ、キャロリーヌさん、一体、何を!」

「はいはい、それまで!
アル君、あんまり好きな娘に
意地悪するのはあんまり見ていて、
おもしろくないなー。
君はわかっているでしょ。
何故、あんな物言いをしているのかね」
図星を突かれた誠一。
恐らくバルドロは、冒険者の脳裏に
少しでも自分の助言が残るように
あんな言い方をしているのだろうと。
そして、その助言に助けられた冒険者が
暴言を吐かれるのを分かった上で、
彼のデスクに向かっていることも。

「それにリシェーヌもあんまりアル君の前で
他の男を褒めちぎるのはどうかなー。
他の女性の所に行っちゃうよ。
ねーアル君!
今も随分とドキドキ、
うーん、興奮してるでしょ」
後ろから誠一の腰回りを眺めて、
にまにまするキャロリーヌだった。

「むぅ」
どう反応していいか分からずに
リシェーヌは唸ってしまった。

「このアホウ。
さっさと、アルフレート君から離れろ!
しょうもないことを教えるな」
キャロリーヌに拳が落ちたと思いきや、
ささっと、誠一から離れて、躱した。

「まあいい。アルフレート君、
君の言い方は感心しないな。
鑑定眼で見れるのは人の能力までだ。
もっと広くその人物のひとなりを
知るように努めないとな。
それとリシェーヌは、盲目的になるのでなく、
悪い点は悪いとちゃんと見る様にしないと。
悪い所に目を覆うはよろしくないぞ」
リシェーヌと誠一は大人しくロジェの言葉に頷いた。

「ふううーちょと、ロジェ!
単なる痴話喧嘩をそんな生臭坊が
言うようなつまらない話で纏めないでよね」

キャロリーヌの言い草に二人は顔を
見合わせて、笑ってしまった。
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