38 / 846
38.拷問部屋
しおりを挟む
ゆらり、室内の影がゆれた。
柔らかい風が舞うと、
魔術師ファウスティノ・ソリベス・セドゥが
室内に現れた。
尋問官が慌てて、立ち上がり、敬礼をした。
「よいよい、楽にしなさい」
声は優し気であったが、表情は険しいものであった。
元講師は、学院長を見ると、笑い声が収まり、
小刻みに震えながら、視線を合わせようとしなかった。
「ふーむ、優秀であった男がここまで
様変わりするとはのう。いまだに信じられぬ」
「きっ貴様は、その存在が我が君の
覇道の妨げになるぅー。
ここで死ねぇ」
歯の砕ける音がした。黒目がくるくる回り始めた。
元講師は、拘束具を引きち切った。
肥大化した肉体は、筋肉が隆起して、
血管が浮かび上がり、全身の毛が抜け落ちていた。
「ぐおおおぉー」
地下室に響き渡る雄叫び。
その響きの後に他の部屋からも雄叫びが響き始めた。
「これはいかん。他の部屋の尋問官に
逃げる様に伝えないさい」
「はっ」
尋問官は短く返答すると、すぐさま、部屋をでた。
「ぐぐぐぅ。貴様の大好きなこの筋肉を
見て尚、負けぬと思うか!死ね」
筋肉が収縮したと思うと、引き絞られた矢のように
学院長に向かって、元講師は突進した。
「大気よ、その動きを封じよ。空牢郭」
突然、元講師の動きが止まった。
そして、その場から、同じ姿勢で
全く動けなくなっていた。
「さて、どうしたものかのう」
彼の才能を惜しむ気持ちもある。
しかし、いかがわしい組織に属して、
学生を傷つけたことは許さざることであった。
学院長は疲れたような面持ちで、
情報を得るために彼の脳へ直接、
繋がる魔術を使うことを決心した。
恐らく脳を覗かれることで、
十中八九、半狂乱の態で死ぬだろう。
「おいおい、じいさん。
耄碌したのかよ、情に流されるとか、
あり得なくないか。
冷徹になれよ。罪は罪だろう」
ふと、学院長が耳を澄ますが、
他の部屋からの雄叫びは聞こえてこなかった。
聞えるのは、目の前にいる壮年の戦士の
笑い声だった。
「フリッツか。ふん、お主に言われるまでもない。
黙っておれ」
学院長はそう言うと、杖を構えて、フリッツを睨みつけた。
「あまりに干渉するようならのう、
王国の戦士とて、ただでは済まさぬぞ」
「おいおい、冗談だろっ。
本職の戦士に得物で挑むとか、ないわー。
バッシュを消耗させるために
城内の衛兵や戦士を犠牲にした
冷徹な男とは思えんぞ」
フリッツは、おどけているが、警戒を
解いていなかった。
室内は、静まり返り、両者微動だにせず、
光の揺らぎと両者の影の揺らぎのみ動いていた。
生まれながらにして、レジェンドレアの
勇者フリッツ、片やノーマルより
血反吐を吐くような努力で
ウルトラレアまで成長した大魔導士ファウスティノ。
バッシュ討伐時、お互いに協力し合ったが、
その後、志す先を違え、両者の仲は、良好ではなかった。
フリッツは、元女王に溺れ、王国の繁栄のため
というより、元女王に盾突く者には
老若男女問わず、苛烈に対応した。
その行き過ぎた行動にファウスティノは、
常々、異を唱え、津の間に溝が出来てしまっていた。
ファウスティノは、次代を担う若者の育成に
生きがいを感じ、多大な時間を割いていたが、
フリッツは、それをファウスティノの
才能の浪費と断罪し、国政に参加するように
何度も説得したが、首を縦に振らぬファウスティノを
道理の判らぬ偏屈者と見なしていた。
「何度も夢想するな。
半生を血の出るような努力でそこまで
上り詰めた男と将来を約束された天才の努力、
どちらが強いか試してみたいものだ」
柔らかい風が舞うと、
魔術師ファウスティノ・ソリベス・セドゥが
室内に現れた。
尋問官が慌てて、立ち上がり、敬礼をした。
「よいよい、楽にしなさい」
声は優し気であったが、表情は険しいものであった。
元講師は、学院長を見ると、笑い声が収まり、
小刻みに震えながら、視線を合わせようとしなかった。
「ふーむ、優秀であった男がここまで
様変わりするとはのう。いまだに信じられぬ」
「きっ貴様は、その存在が我が君の
覇道の妨げになるぅー。
ここで死ねぇ」
歯の砕ける音がした。黒目がくるくる回り始めた。
元講師は、拘束具を引きち切った。
肥大化した肉体は、筋肉が隆起して、
血管が浮かび上がり、全身の毛が抜け落ちていた。
「ぐおおおぉー」
地下室に響き渡る雄叫び。
その響きの後に他の部屋からも雄叫びが響き始めた。
「これはいかん。他の部屋の尋問官に
逃げる様に伝えないさい」
「はっ」
尋問官は短く返答すると、すぐさま、部屋をでた。
「ぐぐぐぅ。貴様の大好きなこの筋肉を
見て尚、負けぬと思うか!死ね」
筋肉が収縮したと思うと、引き絞られた矢のように
学院長に向かって、元講師は突進した。
「大気よ、その動きを封じよ。空牢郭」
突然、元講師の動きが止まった。
そして、その場から、同じ姿勢で
全く動けなくなっていた。
「さて、どうしたものかのう」
彼の才能を惜しむ気持ちもある。
しかし、いかがわしい組織に属して、
学生を傷つけたことは許さざることであった。
学院長は疲れたような面持ちで、
情報を得るために彼の脳へ直接、
繋がる魔術を使うことを決心した。
恐らく脳を覗かれることで、
十中八九、半狂乱の態で死ぬだろう。
「おいおい、じいさん。
耄碌したのかよ、情に流されるとか、
あり得なくないか。
冷徹になれよ。罪は罪だろう」
ふと、学院長が耳を澄ますが、
他の部屋からの雄叫びは聞こえてこなかった。
聞えるのは、目の前にいる壮年の戦士の
笑い声だった。
「フリッツか。ふん、お主に言われるまでもない。
黙っておれ」
学院長はそう言うと、杖を構えて、フリッツを睨みつけた。
「あまりに干渉するようならのう、
王国の戦士とて、ただでは済まさぬぞ」
「おいおい、冗談だろっ。
本職の戦士に得物で挑むとか、ないわー。
バッシュを消耗させるために
城内の衛兵や戦士を犠牲にした
冷徹な男とは思えんぞ」
フリッツは、おどけているが、警戒を
解いていなかった。
室内は、静まり返り、両者微動だにせず、
光の揺らぎと両者の影の揺らぎのみ動いていた。
生まれながらにして、レジェンドレアの
勇者フリッツ、片やノーマルより
血反吐を吐くような努力で
ウルトラレアまで成長した大魔導士ファウスティノ。
バッシュ討伐時、お互いに協力し合ったが、
その後、志す先を違え、両者の仲は、良好ではなかった。
フリッツは、元女王に溺れ、王国の繁栄のため
というより、元女王に盾突く者には
老若男女問わず、苛烈に対応した。
その行き過ぎた行動にファウスティノは、
常々、異を唱え、津の間に溝が出来てしまっていた。
ファウスティノは、次代を担う若者の育成に
生きがいを感じ、多大な時間を割いていたが、
フリッツは、それをファウスティノの
才能の浪費と断罪し、国政に参加するように
何度も説得したが、首を縦に振らぬファウスティノを
道理の判らぬ偏屈者と見なしていた。
「何度も夢想するな。
半生を血の出るような努力でそこまで
上り詰めた男と将来を約束された天才の努力、
どちらが強いか試してみたいものだ」
1
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる