上 下
37 / 846

37.実技試験結果

しおりを挟む
初等部の学生の間では、実技試験合格者0
という結果で話されていた。
如何なる理由があろうとも始まりの迷宮からの
帰還者は0であり、帰還を証明する魔石を
持ち返った者が皆無であったからである。
参加者に死亡者はいなかったにせよ、
重傷、軽傷の違いはあるが、参加者全員が何かしらの
怪我を負っていた。

 重傷者には、学院の講義室を開放し、
簡易のベッドを設置し、衝立と薄いシーツで
仕切りを製作して、治療にあたっていた。
誠一もそこへ寝かされていた。
強力な身体能力を一時的に得たが、
全身がその負荷に耐え切れず、悲鳴を
あげた結果であった。
意識不明の状態が続いていた。
となりのベッドに寝かされているヴェルが
たまに声をかけるが、反応は無かった。

 夜を迎えると、意識のある重傷者も
いつの間にか眠りについていた。
真っ暗な闇の中を安否確認のために
治癒魔術に長けた講師が定期的に見回っていた。

とことこ、暗闇に響く靴音と
ほのかに光る杖が廊下を移動していた。
重傷者の眠っている講義室の前で、光は消え、
ドアを開ける音が響いた。
とことこ、靴音は、誠一のベッドの前で止まった。

「アル、ありがとう。志半ばで死ぬのかなと思った。
うん、これはお礼だから、好きとかじゃないから」
少女は意識を取り戻さない金髪の少年を
じーっと見つめていた。
意を決して、瞳を閉じ、ゆっくりと屈むと、
少年の唇に自分の唇を軽く重ねた。

唇が離れると、少女は顔を真っ赤にしながら、
もう一度、意識の無い彼に言った。
自分の気持ちを押し殺すようにその言葉は、
やっとのことで絞り出された。
「本当に好きとかじゃないから。
ありがとう、アルフレート。
ううん、セイイチと言った方がいいのかな」
真っ赤な頬を一筋の涙が伝わり、
彼の頬を濡らした。
彼女は誠一の頬からそれを拭うと、
とことこと靴音を響かせながら、講義室を後にした。
 朦朧とした意識の中にある誠一は、
唇に何かが触れた感触だけが妙に生々しく残っていた。

何かを語り掛けられていたような気がするが、
ほとんど聞き取れなかった。
しかし、誠一というフレーズが聞えたような気がした。
考える気力もなく、誠一は再び、深い眠りに落ちた。

主城の地下室に拘束された講師たちは、
各部屋で各々、夜を徹して、尋問を受けていた。
尋問を受けている部屋は、魔法の明りが
灯されていたが、到底、部屋の雰囲気を
明るくする一助にはなっていなかった。

「いい加減にこちらの質問に答えろ!」

「神の対峙には、強力な武具が必要なのです。
神はおわしますが、決して世間で
語られるようなものではありません。
敬う必要はありません」

「バッシュの手の者か?」
尋問官の何気ない一言に彼は激昂した。

「ぎいいぃ、キサマ、我らが君を
あのような下賤な者と一緒にするなぁー。
奴の名を口にするなぁ。不快、不快、不快」

狂ったように叫び始める元講師。
目は血走り、唾をそこら中に吐き出し、
身体を震わせていた。

「では、その我が君について、教えて貰えないかな」
尋問官が改めて、問うた。

「我が君は全能にて、全知なり。
選ばれしクラスの者しか知り得ないわ!
キサマ如きノーマルランクの者が
知ろうとするなど、おこがましいわ」
部屋中に響き渡る笑い声、その声は尋問官が
何を言おうとも収まることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

最強九尾は異世界を満喫する。

ラキレスト
ファンタジー
 光間天音は気づいたら真っ白な空間にいた。そして目の前には軽そうだけど非常に見た目のいい男の人がいた。  その男はアズフェールという世界を作った神様だった。神様から是非僕の使徒になって地上の管理者をしてくれとスカウトされた。  だけど、スカウトされたその理由は……。 「貴方の魂は僕と相性が最高にいいからです!!」 ……そんな相性とか占いかよ!!  結局なんだかんだ神の使徒になることを受け入れて、九尾として生きることになってしまった女性の話。 ※別名義でカクヨム様にも投稿しております。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

処理中です...