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31.始まりの迷宮 最深部
しおりを挟む最深部に到達するまでにこの迷宮では、
普段、見られない魔物を倒していた。
流石に普段と様相の違うことを感じ、
4人は適度な緊張を保って、到着した。
最深部へ繋がるドアの前に立った4人は、
開けることを一瞬、躊躇した。
例年なら、最初に到達したチームが
部屋の中の魔物を倒しているはずであった。
「きゃあーああっー」
「誰か誰か、助けて」
「嫌だ死にたくない」
「ごおおおぉー」
部屋の外まで聞こえる怒号、悲鳴、咆哮。
「なっなんなの、これ」
ドアノブに手をかけたシエンナが呟いた。
「やばい雰囲気ぽいな。
シエンナ、悪いけど、魔石で講師に状況を
伝えに行ってくれ。
リシェーヌとヴェルは外で待機な」
シエンナの手をノブから引き離し、
ドアを開けると誠一は突入した。
その後をリシェーヌ、ヴェル、シエンナの順で飛び込んできた。
「なっ、お前ら何してんの!
今、さっき言っただろう。鶏かっ!」
室内の惨状より、三人の行動に驚き、
つい、怒鳴りつけてしまった。
「鶏が何のことかは、後に聞くとして、
アレはアル一人じゃ到底、無理でしょう」
リシェーヌは、そう言うと、己に補助魔術を唱えた。
「シエンナ、攻撃魔術はいいから、
続く限り補助魔術を展開して。
逃げ纏う連中にもね。
ヴェルは、彼等を避難誘導して。
アルは、アレの注意を私と一緒に引きつけて」
軽やかな足取りで、化け物に向かうリシェーヌであった。
慌てて、その後を追う誠一。
四肢に隆起する筋肉、見るからに強靭そうな肉体、
手に持つ棍棒は、魔術師たちの持つ杖の何倍もの
太さであった。
化け物の後方には、気絶しているのか、
死んでいるのかわからない同期生たちが積まれていた。
「アル、あれはオーガの低位種だから、
ゴブリンマスターより弱い。
けど、ロジェさんやキャロリーヌさんの攻撃を
受けてない。私たち倒すのは無理。
可能な限り脱出させたら、
他は先生方に任せて、撤収ね」
そう言うと、リシェーヌは更に速度を上げて、
逃げ纏う生徒を庇うようにオーガの前に立ちはだかった。
オーガの鈍重ではあるが、
破壊力抜群の一撃を躱すと、
リシェーヌは、オーガの踝辺りに杖で
鋭いが軽い一撃を加えた。
「ぐおっ?」
小首を傾げるオーガだった。
そして、リシェーヌを注視すると、
下品な笑い声をあげ、棍棒を振り回し始めた。
ひらりひらりと躱すリシェーヌ、それはまるで
剣舞を見ているかのようであった。
後方では、ヴェルが混乱する生徒を
捕まえてはドアの外に放り出していた。
この期に及んで、実技試験のことを
心配する阿呆にはきつい一撃を加えていた。
「ぐおおおぉー」
攻撃が当たらず、イライラが募り、
怒りに任せて、雄叫びをあげるオーガ。
そして、扉から逃げ出す食料を見ると、
更に怒り狂い、リシェーヌを無視して、
ヴェルの方へ動き出した。
オーガは、リシェーヌの攻撃を受けるが、
気にした風もなくその歩みを止めずに進んでいた。
血走る目、溢れ出る涎、自分の何倍もの
体躯の化け物がゆっくりとだが、ヴェルに近づいていた。
彼は、動けなかった。
彼の後方には、腰を抜かした生徒、数人と
歯を震わせながらも魔術を唱え続けるシエンナがいた。
魔力を魔石で補充し、脳の限界以上に
唱えているのだろう、鼻血が噴き出し、目が充血していた。
くそっくそったれ、そう吐き捨てると、
ヴェルは短槍をオーガに向かって、放り投げた。
ぺしっ、短槍は棍棒で叩き潰された。
ヴェルは両手で盾を構え、踏ん張りが
効くように足を構えた。
顔は涙と鼻水でびしょびしょであった。
失禁し、彼の足元に小さな湖を作っていた。
「アル、リシェーヌ。
頼む、助けてくれー、死にたくないよう」
情けない声で必死に叫ぶが、大地に根を
生やしたようにヴェルはその場から動かなかった。
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