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29.勇気

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講師が入室すると、実技試験の概要の説明が
開始された。
個人で踏破するも複数人で臨むす全て良し。
始まりの迷宮の最深部へ到達し、その証となる魔石を
持ち帰れば、合格。刻限は3日間。
成績などなく、合格か不合格のいずれかのみの
評価であった。
そして、合格と共に冒険者のライセンスが与えられる。
そして、中等部への進級が晴れて認められる。

各自にガイドブックが渡されたところで、一旦、休憩となった。

誠一は、シエンナの方に目を向けるが、
ガイドブックを一心不乱に読んでいるようで、
席を移動する様子はなかった。

「あーもう、うぜえなぁ。ちょっと行ってくるわ」
ヴェルはそう言うと、勢いよく立ち上がり、
向かおうとした矢先、転んでいた。

「ふう、我慢。シエンナ次第でしょ」

「リシェーヌ、厳しさも必要だけど、
みんながみんな、君のように強い訳ではない。
一歩を踏み出すためのアシストが
必要な時もあるさ」
誠一はそう言うと、静かに立ち上がり、
向かおうとした矢先、転んでいた。

「二人とも甘すぎ。
さっきので十分にそれはしたでしょう。
あとはシエンナ次第。この話はお終い」

誠一は立ち上がると、わかったといい、席に座った。
ヴェルは不満げであったが、同じように席に座った。

「ご、ごめんなさい」
誠一たちの後方から、震える声が聞えて来た。

「ん、全然。シエンナが
何に謝っているのかわからないけど、早く座ろう」
リシェーヌがいつもと変わらぬ態度、声で
シエンナ話しかけた。
誠一は、厳し過ぎだろうと思った。
そして、どうすれば13歳の少女がここまで
なれるのだろうと驚いた。

「おっおう、そうだ!
それより「始まりの迷宮」では、同じことするなよ」
ヴェルをリシェーヌが睨みつけるが、
ヴェルの無邪気な言葉にシエンナは
ほっとしたような表情で頷いた。
「うん」

「シエンナ、僕らと一緒に
攻略ということでいいかな?」
誠一が念のために確認した。

「うん」

「あーもう。シエンナ、もういいでしょ!
誰もあなたを責めてないし。
あやまって、もやもやした気分も
少しは晴れたでしょう。
いつも皮肉屋のシエンナでいいよう。
こっちまで、調子狂うよ」
ダークグリーンの髪を掻きむしりながら、
珍しくリシェーヌが語気を荒げていた。

リシェーヌの珍しい態度を見て、
誠一は、ほっこりとした気分になった。
大人びているとは言え、子供らしい所も
あるものだと思った。

 リシェーヌは、誠一の表情に気づき、
一睨みすると、ガイドブックを読むふりをして、
顔を隠した。

 緊張していた面持ちだったシエンナは、
柔和な表情になり、誠一の隣に座ると、
誠一の耳元に唇を近づけ、
「ありがとう、嬉しかった」
と彼だけ聞こえるように伝えた。

 ガイドブックからその様子を
覗き見していたリシェーヌは、真っ赤な顔の誠一にだけ、
聞こえるように一言、「ロリコン」と伝えた。

誠一の顔は、赤から青へと忙しく、変化していた。
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