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20.休日の過ごし方

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誠一は久しぶりにミシャの管理する屋敷に滞在していた。
初等部後期筆記試験が終わり、実技試験が開始されるまで間、
休みとなるためであった。
魔術院では、ヴェル、シエンナ、
そして、リシェーヌが彼の周りを賑わし、
それなりに活発な学院生活を過ごすことできた。
その反面、ファブリッツィオを中心とするグループから、
陰に陽に小賢しい嫌がらせが誠一にとって、煩わしかった。

「アルフレート様、この休暇は、
どのようにお過ごしになられますか?」
屋敷に戻ると、誠一は身体を鍛えることと、
魔術を研鑽すること以外に特に何もせず、
誰かと会うこともなさそうであった。
ごく普通の貴族の息子であれば、バカンスを楽しんだり、
両親の元へ戻るであろう。
ミシャからすれば、現当主より見限られた息子とはいえ、
友人がいる様にも見えず、訓練に没頭している
アルフレートの行動は、13歳の少年に到底、思えなかった。

「特に予定もないし、することも無いから、
日々、訓練かな。
敢えて、注文するとしたら、味や見栄えより、
バランスの良い食事にしてください」
誠一は、そう言って、屋敷を出ると、走り始めた。

ここ数日間、ミシャはアルフレートを観察していた。
変人には違いなかったが、当代の手紙に
書かれていたような犯罪者には思えなかった。
「まだまだ、警戒と観察が必要ですな」
アルフレートの後ろ姿を見ながら、呟くミシャだった。

 屋敷の周りを走っている誠一は、
奇異の眼で使用人や執事から見られていることに気づいていた。

「くっそー、俺だってどこかに遊びに行きたいよ」
と心の中で叫んでいるが、友達がいない。
誠一にとって、ヴェル、シエンナ、リシェーヌたちは、
友人と言うより、弟や妹のようであった。

外見は、13歳であったが、誠一は21歳であった。
当然のことだが、歳相応の会話は学院では望めなかった。
そして、なるべく目立たぬよう13歳らしい振舞いするが、
誠一にとってはかなり疲れることであった。
気分が沈みがちなるが、その気分を振り払うために
限界までトレーニングに没頭して、2,3日が経過した。

「坊ちゃま、正門にどうも不審者というか、
坊ちゃまに御用のある子供が訪ねてきておりますが、
如何いたしましょうか?
不在と伝えて、追い払いますか?」
使用人の一人が走り回っている誠一を捕まえて、伝えた。

「はぁはぁ、名前は?どんな特徴の人?ふう、何人?」
晴天の中を走り回っていたために汗で
びしょびしょであった。
金髪の美少年が前髪を軽く振って、額の汗を拭うと、
振り落ちた汗が反射して、綺麗な軌跡を描いた。
 使用人の一人は、その仕草と雰囲気に見惚れていた。
なんて美しい所作なのだろう、話し方は時節、
子供らしさが全くないが、一体、何故、このような方が
廃嫡されたのかと不思議に思った。

「すみません、どうしました?」

「はっ、すみません。ヴェルナー・エンゲルスと
申しておりました。
突然の訪問など、礼儀を弁えぬ輩は直ぐに追い払います」
何故か使用人は、訪問者がアルフレートに
相応しくない人物と勝手に思い込み、
良く分からない使命感に目覚めていた。

「いやいや、それには及びません。
彼は、魔術院での同期生です。
このまま、門に向かいます。連絡、ありがとう」
誠一は、そう言い残して、正門に向かった。
その後姿に惚ける使用人だった。

 誠一が到着すると、正門付近で言い争う声が聞えてきた。
「だーかーら、俺は、魔術院でアルと同期生の友達だって」
額に汗を流し、叫ぶ少年。
「何とでも言える。どこで名前を知ったか知らぬが、
紹介状も持ち合わせていないような下民を
会わせるわけにはいかない。帰れ」

誠一は、こっそりと隠れて、事の成り行きを観察していた。

「下民?これでも男爵家だぞ、ざけんな」

「男爵家の者が突然の訪問なんぞ余計に怪しいわ」
ヴェルは首根っこを押さえつけられた。
流石に拙いと思い、誠一は慌てて、彼等の元に向かった。

「おっ、アル。なんとか言ってくれ。ったくどういう事だ」
誠一が目に入ると、開口一番、ヴェルが訴えた。

「ん?どなたでしょうか?」
出来る限り慇懃に話し掛けると、
門番は、にんまりとし、ヴェルは真っ赤になって、
何かを言おうとした。

「というのは冗談です。彼は友人です。
ヴェル、今日はどうしました?」

門番は慌てて、ヴェルを放し、あたふたと
弁明をしようとした。

誠一は、それを制した。
「弁明にはおよびません。
あなたは自分の役目をはたしただけです。
少々、お互いに熱くなっていたようですので、
それだけ気を付けてください」
門番は敬礼をすると、ヴェルにも敬礼をした。
ヴェルも反省したのか、頭を下げた。

「まあ、ここで話すのもなんですから、どうぞ」
とヴェルを屋敷に招き入れた。
何かを感じ入ったのか、門番は、二人の後ろ姿を眺めていた。

ミシャ自ら、お茶とお菓子を二人に運んできた。
大方、ヴェルの品定めでもしているのだろうと
誠一は思ったが、特に皮肉を言う訳でもなくヴェルに話しかけた。
「さて、ヴェル、今日はどんな用件で?」

「おっおう、実技試験の前に近くの森や洞窟を
探索して訓練しないか?
リシェーヌやシエンナを誘ってくれ。
それと念のため、俺の兄貴たちに護衛を頼むからさ」
面白そうなイベントだったが、念のため、
ミシャの顔色を窺った。
特に否定的なことは感じられなかったので、
了解の旨を伝えた。

「じゃっ、明後日に迎えに来るけど、
それまでに二人を招集しといてくれや。
俺は、野宿できるように兄貴たちと準備しておくわ」
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