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18.後始末
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てくてく、何気なしに誠一の側に
リシェーヌが来ると、彼の右手を掴み、
青空に向かって高らかに上げた。
「勝者は、アルだね。
2歳も歳上で名門ストラッツェールの二男を
倒すって凄いことだよ」
「ぐわわっーなんてことを宣言するんだっ」
と誠一は心の中で叫んだ。
リシェーヌの宣言で更に顔が歪むファブリッツィオを
覗き見すると、完全に敵認定されたとしか思えなかった。
講師は慌てて、リシェーヌの発言を取り消そうとした。
「こらこら、此処は学び舎であった。
勝負事を決する場所ではない。
ファブリッツィオ、立ち上がり戻りなさい。
3人も戻りなさい」
ある筋から言い含められていたとは言え、
今の状況を上手く有耶無耶にしないと、
あの華やかで親に力のあるグループから睨まれてしまう。
そう思うと身が竦んでしまった。
わが身の可愛さ故に必死に弁解し始めた。
「アルフレートのようなやり方は、ふむ、下劣な方策だ。
ここでは、まず、正々堂々としなさい。
君らの年代から、卑怯者の誹りを
受けるようなことはするべきでない。
君たちは、反逆者バッシュに連なる者ではないからね、
いいねわかったかな。
今、あったことは、卑怯者の所業だ。
忘れなさい、いいね!」
挙動不審な態度で繰り返し念を押す様に
講師は伝えた。誠一は呆れてしまった。
講師の態度は、確実に生徒たちに今の光景を
覚えさせたとしか思えなかった。
そして、これは楽しい暇つぶしの恰好の話題に
なるだろうと予想した。
講義が終わると、各々、次の講義に向かった。
ヴェルはいつの間にか誠一から離れて移動していた。
その代わりにシエンナが何故か誠一の隣を
てくてく、歩いていた。
「アル、あなた、凄いわね。
よくもまああんなに完膚なきまで叩きのめせるわね。
ちょっとは、彼の力が恐ろしいと思わなかったの?」
「シエンナ、あまり僕に関わらない方がいいよ。
巻き込まれるからね」
誠一は、シエンナの質問には答えずに彼女の身を案じた。
「確かに。でも目標のためにはアルと学んだ方が
路は短い気がするから。
それにアルなら何とかするよね」
誠一はついつい、シエンナが妹のように思えて、
頭をポンポンと軽く撫でてしまった。
「なっ!同じ歳なのに。
小さいからって、くぅううぅ」
シエンナは、まんざらでもなかったため、
顔を真っ赤にしながらも本気では怒っていないようだった。
「私も」
突然、逆方向から声がした。
「私が勝者の判定をしたんだよ。えらいでしょ」
リシェーヌだった。
いやいやいや、リシェーヌさん。
あなたはあの場でしてはいけないことをしたのですよ。
という突っ込みは、心の奥底にしまい、
期待いっぱいのリシェーヌの頭を同じように撫でた。
「これって、意外となんかうれしいね」
リシェーヌがそう感想を述べた。
昼食時まで特に何事もなく進んだ。
何故か誠一の両側を二人の可愛い少女が占拠していた。
それも相まって、周囲の注目を浴びる誠一であった。
「あっ、ヘタレが来た」
「うーん、リシェーヌ。
ちょっとそれは違うかな。
こうもり君になりきれない半端者かな」
リシェーヌとシエンナが容赦ない言葉をヴェルにかけた。
その言葉で昼食のプレートを持ったまま、
一瞬にして固まるヴェルであった。
流石に誠一は、ヴェルの心情を慮った。
誰でもあのグループに目をつけられるのは、
恐ろしかった。
門地も秀でた才能もない下級貴族の息子である
ヴェルナー・エンゲルスにとって、下手すれば、
両親や親族にも迷惑がかかるかもしれないのに
誠一のところへ来るだけでも大したものだと感心した。
「ヴェル、どうした?座って食事を取ろう」
誠一は明るく声をかけた。
「すまねえ。ビビっちまって。
両親にも迷惑がかかるかもと思うと、
どうもびびっちまって。
今もこれから何か起こるんじゃないかと正直、怖い」
ヴェルは少し、声を震わせながら答えた。
「ヴェル、もう諦めた方がいいよ。
既に目をつけられているって。
既に君と親しく話していた連中は
君に近づかないでしょ。分かっている癖に。
それで一人が恐ろしくてここに来たんじゃないの?」
シエンナの容赦ない言葉にヴェルは下を
俯いて何も話さなくなってしまった。
「大丈夫。ストラッツェール家が
こんなことで動くことはないから。
ファブリッツィオの不明を恥じて、
彼が叱責される。
あれの母親は狂ったように怒り出すだろうけど、
大したことないから」
そう言うと、リシェーヌにしては、珍しくニヤリとした。
弱いが必死に抗い、弱さに向き合える素直な少年。
才能豊かで我が道を進む少女。
目標への最短距離を模索し、学ぶ少女。
誠一は、この三人の成長を元の世界に戻るまで
見守るのも悪くないと思った。
リシェーヌが来ると、彼の右手を掴み、
青空に向かって高らかに上げた。
「勝者は、アルだね。
2歳も歳上で名門ストラッツェールの二男を
倒すって凄いことだよ」
「ぐわわっーなんてことを宣言するんだっ」
と誠一は心の中で叫んだ。
リシェーヌの宣言で更に顔が歪むファブリッツィオを
覗き見すると、完全に敵認定されたとしか思えなかった。
講師は慌てて、リシェーヌの発言を取り消そうとした。
「こらこら、此処は学び舎であった。
勝負事を決する場所ではない。
ファブリッツィオ、立ち上がり戻りなさい。
3人も戻りなさい」
ある筋から言い含められていたとは言え、
今の状況を上手く有耶無耶にしないと、
あの華やかで親に力のあるグループから睨まれてしまう。
そう思うと身が竦んでしまった。
わが身の可愛さ故に必死に弁解し始めた。
「アルフレートのようなやり方は、ふむ、下劣な方策だ。
ここでは、まず、正々堂々としなさい。
君らの年代から、卑怯者の誹りを
受けるようなことはするべきでない。
君たちは、反逆者バッシュに連なる者ではないからね、
いいねわかったかな。
今、あったことは、卑怯者の所業だ。
忘れなさい、いいね!」
挙動不審な態度で繰り返し念を押す様に
講師は伝えた。誠一は呆れてしまった。
講師の態度は、確実に生徒たちに今の光景を
覚えさせたとしか思えなかった。
そして、これは楽しい暇つぶしの恰好の話題に
なるだろうと予想した。
講義が終わると、各々、次の講義に向かった。
ヴェルはいつの間にか誠一から離れて移動していた。
その代わりにシエンナが何故か誠一の隣を
てくてく、歩いていた。
「アル、あなた、凄いわね。
よくもまああんなに完膚なきまで叩きのめせるわね。
ちょっとは、彼の力が恐ろしいと思わなかったの?」
「シエンナ、あまり僕に関わらない方がいいよ。
巻き込まれるからね」
誠一は、シエンナの質問には答えずに彼女の身を案じた。
「確かに。でも目標のためにはアルと学んだ方が
路は短い気がするから。
それにアルなら何とかするよね」
誠一はついつい、シエンナが妹のように思えて、
頭をポンポンと軽く撫でてしまった。
「なっ!同じ歳なのに。
小さいからって、くぅううぅ」
シエンナは、まんざらでもなかったため、
顔を真っ赤にしながらも本気では怒っていないようだった。
「私も」
突然、逆方向から声がした。
「私が勝者の判定をしたんだよ。えらいでしょ」
リシェーヌだった。
いやいやいや、リシェーヌさん。
あなたはあの場でしてはいけないことをしたのですよ。
という突っ込みは、心の奥底にしまい、
期待いっぱいのリシェーヌの頭を同じように撫でた。
「これって、意外となんかうれしいね」
リシェーヌがそう感想を述べた。
昼食時まで特に何事もなく進んだ。
何故か誠一の両側を二人の可愛い少女が占拠していた。
それも相まって、周囲の注目を浴びる誠一であった。
「あっ、ヘタレが来た」
「うーん、リシェーヌ。
ちょっとそれは違うかな。
こうもり君になりきれない半端者かな」
リシェーヌとシエンナが容赦ない言葉をヴェルにかけた。
その言葉で昼食のプレートを持ったまま、
一瞬にして固まるヴェルであった。
流石に誠一は、ヴェルの心情を慮った。
誰でもあのグループに目をつけられるのは、
恐ろしかった。
門地も秀でた才能もない下級貴族の息子である
ヴェルナー・エンゲルスにとって、下手すれば、
両親や親族にも迷惑がかかるかもしれないのに
誠一のところへ来るだけでも大したものだと感心した。
「ヴェル、どうした?座って食事を取ろう」
誠一は明るく声をかけた。
「すまねえ。ビビっちまって。
両親にも迷惑がかかるかもと思うと、
どうもびびっちまって。
今もこれから何か起こるんじゃないかと正直、怖い」
ヴェルは少し、声を震わせながら答えた。
「ヴェル、もう諦めた方がいいよ。
既に目をつけられているって。
既に君と親しく話していた連中は
君に近づかないでしょ。分かっている癖に。
それで一人が恐ろしくてここに来たんじゃないの?」
シエンナの容赦ない言葉にヴェルは下を
俯いて何も話さなくなってしまった。
「大丈夫。ストラッツェール家が
こんなことで動くことはないから。
ファブリッツィオの不明を恥じて、
彼が叱責される。
あれの母親は狂ったように怒り出すだろうけど、
大したことないから」
そう言うと、リシェーヌにしては、珍しくニヤリとした。
弱いが必死に抗い、弱さに向き合える素直な少年。
才能豊かで我が道を進む少女。
目標への最短距離を模索し、学ぶ少女。
誠一は、この三人の成長を元の世界に戻るまで
見守るのも悪くないと思った。
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