上 下
17 / 846

17.懲罰

しおりを挟む
「せああっー」
気合と共に杖を誠一に向かって、振り下ろすヴェル。
それを難なく躱す誠一だった。
あの日以来、何かとつるむことが多い二人であった。

「くそっ、研究室に閉じ籠っているような
引き籠り魔術師に負けられっかよー。
俺は戦士を目指しているんだ」
叫べども当たらない者は当たらず、誠一に躱されていた。

「おーい、魔法戦士だろう」
とヴェルの発言に突っ込みを入れて、腹部に一撃を打ち込んだ。

「ぐぅ、俺が魔術師ごときに一撃を加えられるとは」
最早、自分も魔術を学ぶ身であることを
忘れているヴェルであった。

講師から、止めの指示が飛ぶと、一同、
お互いに一礼すると、その場に座った。

「くそう、くそっ、流石は代々、
騎士を輩出するエスターライヒの長男だな」
年相応の表情で悔しそうにヴェルが言った。

誠一は、息を整えながら、ヴェルに助言した。
「本気で戦士の道も極めたいのでしたら、
徹底的に基礎を叩き込んだ方がいいですよ。
本職の戦士ほど多彩な武器を
扱えるようになるのでなく、
2種類くらいを選択するのがいいのでは」

「そうか、なら、槍と剣だな。
アル、よろしく!教えてくれ。
実家で訓練を受けていただろう。
槍なら、この杖術の抗議でも訓練できそうだしな」

「まあ、可能な限りで協力しましょう。
剣は分かるとして、何で槍もなんですか?」
多くの武器から槍を選ぶ理由が誠一には、
なんとなく想像できたが、
念のため、ヴェルが選択した理由を尋ねた。

「んー、何となく槍の先端に魔術を込めて
疾走するとかかっこいいじゃん」

予想通りの回答だった。ロマン枠で槍だった。
誠一も魔法戦士を目指すなら槍を同じ理由で選択していた。

二人が槍のロマンについて熱く語っていると、
講師が両腕を組んで二人を呼んだ。
「ほほう、槍か!槍、いいね。
しかし、ここは杖術の講義だ。
しかもあれだけの訓練の後でまだまだ、
二人には余裕があると見える。
よし!二人は特別に訓練を追加する。立て」

普段の豪放磊落な雰囲気の講師が
嗜虐的な表情で二人を見つめていた。
雲一つない晴天の下でその表情は、
更に強調されていた。

講師は、杖を構え、まず、直立する二人の右腿へ
一撃を加えた。

「リシェーヌ、ファブリッツィオ。
この二人の相手をしなさい。
まずはファブリッツィオとアルフレート、始め!」

二人は相対して杖を構えた。
初撃は、力任せに横なぎに杖を
振るったファブリッツィオであった。
誠一は杖で受けるが右脚の踏ん張りが利かずに
その場に膝をついた。

そして、容赦なく誠一の脳天に
向かって杖が振り下ろされた。
杖の両端を持ち、その一撃を防ぐが
そのままファブリッツィオは杖を押し込んだ。
二人の年齢は2歳差、この世代の2歳差は大きく、
誠一は押し込まれて、地面に両手を
つくような状態になっていた。

周りがざわめいた。その姿は、
まるでファブリッツィオに土下座を
しているようであった。
「ふん、剣技を得意とするのは、君だけじゃない。
僕も2年間とはいえ、それなりに養成所で
鍛えてきたつもりさ。
まだまだ、これからだろう、訓練は!立て、ぎゃっ」

ざわめきが静まり、誰もが息を飲んだ。

ファブリッツィオの右脛が誠一の杖で叩かれていた。
そして、右足を上げたファブリッツィオの左脛に
誠一からの追撃が加わった。

「ひぎゃあ」
悲鳴をあげて、仰向けに倒れるファブリッツィオ。
その姿は蛙の死んだふりのようであった。
そして、誠一は、立ち上がり、杖を向けて、
ファブリッツィオを見下ろした。

誰の眼にも勝者は明らかであった。
しかし、沈黙が周囲を支配していた。
誰しもが、講師すら予想だにしなかった結果に
どのような態度を取っていいか分からなかった。

この状況に一番、困っていたのは誠一であった。
自分より歳下の連中につい熱くなってしまい、
策を弄してしまった。
さてどうしたものかと周囲を見渡すが誰も視線を
合わせようとしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

引きこもりが乙女ゲームに転生したら

おもち
ファンタジー
小中学校で信頼していた人々に裏切られ すっかり引きこもりになってしまった 女子高生マナ ある日目が覚めると大好きだった乙女ゲームの世界に転生していて⁉︎ 心機一転「こんどこそ明るい人生を!」と意気込むものの‥ 転生したキャラが思いもよらぬ人物で-- 「前世であったことに比べればなんとかなる!」前世で培った強すぎるメンタルで 男装して乙女ゲームの物語無視して突き進む これは人を信じることを諦めた少女 の突飛な行動でまわりを巻き込み愛されていく物語

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

処理中です...