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16.噂

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数日後、誠一は初等部で
今までにない微妙な雰囲気を感じた。
それは、周りから自分が避けられていることであった。
急に周りがよそよそしくなっていた。

「んーん、なんだろ?」
昼食を一人で食べている時に
誠一は周りに目をやった。
周りの生徒は中等部の生徒も含めて、
目を合わせることを避けていた。

そんな中、一人の少年が誠一の正面に座った。
ヴェルナー・エンゲルスという魔法戦士を
目指している少年だった。
緊張の面持ちで誠一を見つめている。
その状態で過ぎること30秒、突然、頭を下げた。

「すまん、僕のせいだ。
周りに余計なことを話してしもうた。
噂におひれはひれが付いて広まってしまった。
許してくれ」
頭を上げずに誠一の言葉を待つヴェルナー。

周りのざわつきが気になったが、
誠一は一体何のことか事情が掴めず、
ヴェルナーに頭を上げる様に伝え、
事情を問い質した。
彼の説明で誠一は、事の事態を理解した。
先日、誠一が話した自分の身の上のことを
初等部の何人かに話してしまったようだった。

「俺は、ここだけの話だぞ、絶対に話すなと言ったんだ」
必死になって、弁明するヴェルナーだった。

誠一は苦笑いをしてしまった。
人の口に戸は立てられぬとは、どの世界でも
共通なことであると納得してしまった。
そして、口留めをしていなかったため、
特にヴェルナーを責める気にもならなかった。

「まあ、いいです。
しかし、ヴェルナーさんは一体、
何人に話をしたんですか?
中等部の方々まで、知っているような雰囲気ですけど」

「んーん、3人だけだぞ、、
いえ、3人だけございます、アルフレート殿。
その三人も中等部に繋がりがあるとは思えません」

誠一は苦笑いをしてしまった。
ヴェルナーが怪しい敬語を使い始めたからだった。
「敬語はいいですよ、ヴェルナーさん」

「ん?そうか、じゃあ、そうする。
アルフレートじゃ長いから、アルな。
それと俺は、ヴェルでいいから。
んで、どう言うこと?説明して」

誠一は苦笑いをしてしまった。
ヴェルのぞんざいな言葉遣いが
あまりにも自然だったからだった。

「いえ、あまりに噂が広まるのが早かったので。
それと中等部に噂が広まっていますから、不思議に思ったんですよ」

「あれだぁぁー。他に二人いただろ。
あのむっつり娘に違いない。
普段、大人しい癖に妙にアルに絡んでだじゃん。
俺は無実だったんだ」
断言して、嬉しそうに吠えるヴェルだった。

「いえいえ、人の事を不用意に他人へ
話すことはよろしくないです」

誠一が話を続けようとすると、
ヴェルが「ぎょあー」と妙な声を発して、
その場に蹲った。
その後ろには、賢者の称号を
目指す少女がこめかみに青筋をたてて、立っていた。

「わっ私じゃないですから、絶対に違いますから。
これと違って、誰にも話していませんから」
おかっぱボブに整えられた髪、黒い瞳、同世代と比較して、
小柄な体形の少女が表情とは真逆にふるふると震えながら、答えた。

「ぐうぅ、そう言えば、おまえ、クラスに
話す相手がいないからな。そりゃそうだ」
誠一は暴言を吐くヴェルの頭を小突いた。

「確かシエンナさんですよね。
彼の叫びと主張は気にしないでください」
シエンナはほっとしたような表情になった。

「となるとじゃあ、リーダーしかいないじゃん。
ないわー。それはないわー」
ヴァンは、疑うことすら、あほらしいと言う感じで答えた。
シエンナも同様と言った感じで頷いた。

 その人物は、緑の国に僅か数人しかいない侯爵家、
そして高名な騎士を幾人も輩出したストラッツェール家の二男、
ファブリッツィオ・ストラッツェールのことであった。
 騎士を目指すべく学んでいたが、突然、退学して、
魔術院へ入学し、学んでいた。
そのため、同期生より2歳ほど歳上であり、
面倒見の良い性格も相まって、現初等部の中心的な立場にいた。
容姿端麗、品行方正、明朗活発、博覧強記、彼の在り様を
表現するには、世界の語彙では足りないと
言わるほど15歳にしては、優秀な人物であった。
 
誠一は、ふと、ファブリッツィオたちの座っている方に
目を向けた。
彼を中心にして、上品な笑い声が尽きることなく響き、
華やかな雰囲気に包まれていた。
そのグループだけ別世界のように誠一は思えた。
そこは学院の人間関係における人気の序列構造の
最上位に位置するグループであった。
そのなかにリシェーヌもいたが、時節、笑う表情は硬く、
どうも居心地が悪いように見えた。

「おいおい、アルさんよぉ。
リシェーヌでも盗み見しているのかいな。
見惚れすぎだぞ。それより、悪評をどうすんだよ」
ヴェルが誠一を小突いた。

「まあ、気にしないことにします。
放校となると話は別ですが、
悪意にさらされている訳でもありませんし、
実害はないので、放っておきます」

あの華やかな集団から、纏わりつくような不快な視線が
たまに送られて来るような気がしたが、
誠一は気のせいだと思うことにした。
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