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7.到着

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王都をゆっくりと馬車で移動する誠一は、
街の往く人々から奇異の視線をもって見られていた。
愛らしい容姿の少年が気難しい表情で馬車を御している。
十分に注目に値することであった。

アルフレートのおぼろげな記憶頼りで、
何とか迷わずエスターライヒ邸に到着できた誠一であった。
その日、王都のエスターライヒ邸は大騒ぎとなった。
到着の遅れているアルフレートの捜索隊の検討等々が
なされていた矢先、一人で到着したためであった。

「アルフレート様、ご無事でなによりです」
執事頭であり、ここを取り仕切るミシャが
白い髭を震わせながら、代表して伝えた。

誠一は眉間に皺を寄せて、
美辞麗句で飾る彼の言葉を聞いていた。
この男は恐らく事情を知っているに違いないと
誠一は判断していた。
当代のアーロン・フォン・エスターライヒが
アルフレートの王都到着という最悪の状況を
想定していなかったとは思えなかった。

止めなければ永遠と続くかのような
空疎な言葉の羅列を誠一は遮った。
「ふむ、ミシャ爺、わかった、わかった。
それより魔術院への入学手続きは
滞りなくおわっているな?
それと護衛たちだが、死んではおらぬが
二度と会うことはあるまい。
野盗どもと誼を通じていた。
敢えて、追う必要もあるまいが、
父上には伝えておいてくれ」
一瞬ではあるが、少年とは思えない
底冷えするような視線と表情がミシャを突き刺した。

なるほど、確かに変わられた。
ミシャはアーロンの手紙に書かれていたことを
反芻しながら納得した。
天啓を受けし者、神の代弁者、精霊の愛し者、
内なる心に目覚めし者、言い方はさまざまであるが、
こういった啓示を受ける者たちの一部にある日、
突然、人格、品性が一変することがある。
有名な話であった。
しかもそれらの多くは、人ならざる力を
得る代償なのか、下劣な方に変わってしまうことが
多いようであった。
アルフレートの本領での行いを
知るにその例に漏れないとミシャ判断した。

事情を知らないメイドがミシャに話しかけた。
「魔術院でのアルフレート様の付き人ですが、
マリアがおってこちらに到着するのでしょうか?」
ミシャは、このメイドを殴り飛ばしたかった。
今、一番、触れたくない話題であった。
アルフレートの表情を恐る恐る覗き込んだ。

彼の表情は、憂いを帯びていた。
物悲しそうな声で眉を震わせていた。

「マリアは、亡くなりました」

そう呟くと視線を落とした。周囲はざわついた。
そして、その立ち振る舞いは、まるで泣くのを
我慢しているようにメイドたちにその姿は映った。

その一連の所作にミシャは、警戒を
最大限まで引き上げた。
海千山千の貴族どもと何ら遜色ない策謀家として、
アルフレートを見なした。
人格どうこうと言ったレベルでなく、
別人と入れ替わっているとしか思えなかった。

ミシャは内心を悟られまいと努力したが、
声が上ずってしまった。
「アルフレート様の付き人の件は、日を改めましょう。
到着したばかりで、お疲れでしょうから、
本日はお休みを取って頂きましょう」
ミシャがそう伝え、メイドたちに本来の業務に戻るよう伝えた。
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