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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

帰国(稲生)

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「フェルビ殿、この地には、他の連合の諸侯も
冒険者を派遣しているのかな?」
アデリナが尋ねた。

「ああ、3か国ほど派遣している。
死体をあの穴に放り投げている連中と
逃散した連中を追っているチームがそうだ。
物品を漁っている他の冒険者たちは、
ベルトゥル公国の貴族様お抱えの冒険者か
噂に騙されて訪れた連中だろうよ。
貴様らはこれからどうするのだ?」

視線が虚空を彷徨っている九之池は、
フェルビの言葉に全く反応しなかった。
無礼な態度であったが、見事なくらいにフェルビを
己の意識から外している九之池に獣人たちは、驚いていた。

「旅支度を整えて、一旦、公都に戻りますかのう」
九之池の代わりにヘーグマンがのほほんと答えた。
その答えは九之池にとって、非常に魅力的な言葉であった。
そのため、すぐさま、反応し賛成の意を示した。

「そうです!そうです。
それがいいですね、稲生さんやルージェナもそう思うでしょ!」

突然の九之池の勢いに獣人の面々は、驚いたが、
了解の意を示した。
そして、獣人を代表して、フェルビが答えた。
「了解した。後の処理は任せて貰う。
貴様らの荷物などは、野盗の類の冒険者どもが
持ち去っていなければ、集落にそのままあるだろう。
では、いずれ戦場で見合うことを
楽しみにしているぞ、ヘーグマン。そして、九之池とやら」
豪快な笑いと共にその場を獣人たちと離れていった。

「九之池さん、大丈夫ですか、あんな約束してしまって!
また、シリア卿の顔が真っ赤になるんじゃないですか?
一応、忘れないように公都に戻るまでに今回の探索と約束を
纏めてから、対策を立てないと」
ルージェナが九之池に捲し立てた。
九之池は、それを煩わしく感じたのか、不快気に答えた。
「わかっているよーそんなこと言われなくても
ちゃんと考えているからっ」

心配しているルージェナを除いて、
全員が胡散臭げな視線で九之池を見つめていた。
彼は自分を疑う視線を敏感であった。
しかもその視線に反発するでなく、下を俯き、
視線を逸らすだけであった。
彼の視線には地面に生えた草が映っていた。
そして、みなの視線が外れるのをじっと待っていた。

「まあ、一先ず、無人であろう村に戻って、
公都へ向かう準備をしましょう」
稲生が雰囲気を変えるためにそのように言うと、
村に向かって歩き出した。
その最後尾を何事がぶつぶつと呟きながら、
歩く九之池であった。
その視線には相変わらず、地面の草が映っていた。

無人の村は、全くと言っていいほど、人の気配がなかった。
冒険者すらいなかった。死体がそこかしこに転がっていた。
そのなかにローブを着た死体がいくつか転がっていた。
おそらく指導者であったのだろう。
血の臭いが風に乗って時節、九之池たちは、
否応なしにその臭いに包まれた。

「さっさと、こんなところは、離れましょう」
九之池は、臭いに顔を歪ませながら、そう言うと、
珍しく率先して、荷物の準備と馬車への運び込みを行った。

他の面々も九之池の積極性に驚きつつも準備を急いだ。
村の何を調べるもなくこの地を九之池たちは、後にした。
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