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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編
即断(稲生)
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稲生は、この惨状を冷静に眺めていた。
多勢に無勢、そして、彼らを助けても徒労に
終わるだろうと判断していた。
九之池は、この惨状に気分を悪くしていた。
似たようなことを何度、経験しても慣れることがなかった。
「どうにもならないな。
見つからぬように大人しくしておくしかあるまいな」
アデリナがそう判断した。
「馬車や補給はどうしますか?」
稲生がアデリナに尋ねた。
吐気が収まったのか、九之池が稲生の側で
首を上下に振っていた。
恐らく自分も同じことを考えていたと
主張しているのだろう。
「何か変化があれば、それに乗ずるしかないな。
それが無ければ、背負っているものを諦めて、
歩くしかないな」
アデリナの言葉に九之池が鋭く反応した。
「なっ、そっそれは、このお宝を
諦めるということですか?
あんな目にあって、何の収穫もなしとは、無いわー。
絶対にないわー」
「馬鹿者、声が大きい」
突然、喚き散らした九之池を叱責するアデリナだった。
幸いなことに声は、住民たちへ風に乗って
運ばれなかったようだった。
「アデリナさん。
他人の不幸を利用するのはちょっとあれですけど、
今なら、村に住民が少ないのではないでしょうか?
このタイミングで忍び込めば、上手くいかないでしょうか?」
ルージェナが恐る恐る見解を伝えた。
眼前に映る住民たちの作業には、大半の住民が
参加しているように見え、かなりの時間を要するように見えた。
そんな話をしていると、稲生たちが身を隠す位置の
逆方向から、戦士の雄叫びが聞えて来た。
冒険者たちであろうか、数十人の武装した者たちが
住民たちの作業に突然、乱入した。
住民たちは、なすすべもなく切り倒され、
蜘蛛の子を散らすようにどろどろしたモノを
放置して逃散し始めた。
この情景に稲生は、すぐさま決断を下した。
隣でどちらに与すべきかうんうん、悩んでいる九之池に
声をかけた。
「九之池さん、悩んでいる暇はありません。
武器を持たぬとはいえ、彼等は知恵と欲で人を
釣って殺していました」
稲生は立ち上がり、アデリナに判断を仰いだ。
「ほほぅ、ヘタレの軟弱者にしては、言い切ったな。
ここは冒険者どもに協力するかな。
殺されかけたんだから、当然だろうな」
アデリナは立ち上がり、周囲を見渡した。
そして、続けた。
「殺すのが恐ろしいなら、適度な攻撃で逃散させればいい。
しかし、あの遺跡を管理・信奉する怪しげな団体だ。
殲滅するのが望ましいな」
アデリナの発言に九之池がおどおどしながらも答えた。
「しかし、丸腰ですよ。無理っす。
まともな状態では絶対にムリっす」
どうにも気の進まない九之池だった。
「なら、そこで転がっていろ。邪魔だ。
そもそもおまえは、ベルトゥル公国で
抵抗できない人間を何人も殺しているだろう。
その程度、調べていないと思っているのか」
アデリナが冷たい視線で九之池を睨みつける。
周囲には、風が血の臭いと人の叫びを間断なく運んできている。
めずらしく九之池が顔を歪ませて、アデリナを睨みつけていた。
「キサマに何が分かる。
訳も判らずこんなトコロに連れてこられて、クソガァ。
殺したくてコロシタクて、ころした訳じゃない」
ガチガチと音が聞こえるくらいに鳴らしながら、
身体を震わせて、九之池が言った。
そんな九之池を見て、稲生は、ああ、彼も
元の世界の道徳感や追憶、この世界での孤独に
悩まされているんだなと感じた。
「ふぉふぉふぉ、今はそれより、
彼等に協力すべきでしょう。
九之池殿の分は私が働きますので」
「わっ私も働きますから」
ヘーグマンとルージェナがそう言うと立ち上がった。
九之池は、身体を震わせながら、
フラフラしながら立ち上がった。
「いいよ、やるよ、あいつらを追い払えば、いいんだろ」
ふらふらしながら、歩き出した九之池。
そして、それにつられるように動き出した
他の面々であった。
稲生は九之池を追い越そうとして、ぶつかってしまった。
少しふらついた九之池を気遣って、稲生は話し掛けた。
「すみません、九之池さん」
「いのうさんよぉ、あんた、いい具合に染まっているよな。
目には目を歯には歯をかぁ。
逃げ回る人間を刃物で追い立てるとか無理ゲーだろうが。
余計なことを言うなよな、かっこつけてよ。
そんなにあの黒エルフとやりたいのかよ、
それともルージェナかよ」
言いたいことを言いたい放題に言うと、
九之池はふらつきながらも、拾った剣を振り上げて、
のそのそと歩き始めた。
ぽつりとその場に取り残された稲生は、
ほんの少しだけでも彼に共感したことを後悔した。
彼とは絶対に合わない。
殺し合う関係にまで拗れることはないと思うが、
一緒に行動していて、精神衛生上、悪いと思い、
この探索が終わり次第、早々に別行動をとるべきと判断した。
多勢に無勢、そして、彼らを助けても徒労に
終わるだろうと判断していた。
九之池は、この惨状に気分を悪くしていた。
似たようなことを何度、経験しても慣れることがなかった。
「どうにもならないな。
見つからぬように大人しくしておくしかあるまいな」
アデリナがそう判断した。
「馬車や補給はどうしますか?」
稲生がアデリナに尋ねた。
吐気が収まったのか、九之池が稲生の側で
首を上下に振っていた。
恐らく自分も同じことを考えていたと
主張しているのだろう。
「何か変化があれば、それに乗ずるしかないな。
それが無ければ、背負っているものを諦めて、
歩くしかないな」
アデリナの言葉に九之池が鋭く反応した。
「なっ、そっそれは、このお宝を
諦めるということですか?
あんな目にあって、何の収穫もなしとは、無いわー。
絶対にないわー」
「馬鹿者、声が大きい」
突然、喚き散らした九之池を叱責するアデリナだった。
幸いなことに声は、住民たちへ風に乗って
運ばれなかったようだった。
「アデリナさん。
他人の不幸を利用するのはちょっとあれですけど、
今なら、村に住民が少ないのではないでしょうか?
このタイミングで忍び込めば、上手くいかないでしょうか?」
ルージェナが恐る恐る見解を伝えた。
眼前に映る住民たちの作業には、大半の住民が
参加しているように見え、かなりの時間を要するように見えた。
そんな話をしていると、稲生たちが身を隠す位置の
逆方向から、戦士の雄叫びが聞えて来た。
冒険者たちであろうか、数十人の武装した者たちが
住民たちの作業に突然、乱入した。
住民たちは、なすすべもなく切り倒され、
蜘蛛の子を散らすようにどろどろしたモノを
放置して逃散し始めた。
この情景に稲生は、すぐさま決断を下した。
隣でどちらに与すべきかうんうん、悩んでいる九之池に
声をかけた。
「九之池さん、悩んでいる暇はありません。
武器を持たぬとはいえ、彼等は知恵と欲で人を
釣って殺していました」
稲生は立ち上がり、アデリナに判断を仰いだ。
「ほほぅ、ヘタレの軟弱者にしては、言い切ったな。
ここは冒険者どもに協力するかな。
殺されかけたんだから、当然だろうな」
アデリナは立ち上がり、周囲を見渡した。
そして、続けた。
「殺すのが恐ろしいなら、適度な攻撃で逃散させればいい。
しかし、あの遺跡を管理・信奉する怪しげな団体だ。
殲滅するのが望ましいな」
アデリナの発言に九之池がおどおどしながらも答えた。
「しかし、丸腰ですよ。無理っす。
まともな状態では絶対にムリっす」
どうにも気の進まない九之池だった。
「なら、そこで転がっていろ。邪魔だ。
そもそもおまえは、ベルトゥル公国で
抵抗できない人間を何人も殺しているだろう。
その程度、調べていないと思っているのか」
アデリナが冷たい視線で九之池を睨みつける。
周囲には、風が血の臭いと人の叫びを間断なく運んできている。
めずらしく九之池が顔を歪ませて、アデリナを睨みつけていた。
「キサマに何が分かる。
訳も判らずこんなトコロに連れてこられて、クソガァ。
殺したくてコロシタクて、ころした訳じゃない」
ガチガチと音が聞こえるくらいに鳴らしながら、
身体を震わせて、九之池が言った。
そんな九之池を見て、稲生は、ああ、彼も
元の世界の道徳感や追憶、この世界での孤独に
悩まされているんだなと感じた。
「ふぉふぉふぉ、今はそれより、
彼等に協力すべきでしょう。
九之池殿の分は私が働きますので」
「わっ私も働きますから」
ヘーグマンとルージェナがそう言うと立ち上がった。
九之池は、身体を震わせながら、
フラフラしながら立ち上がった。
「いいよ、やるよ、あいつらを追い払えば、いいんだろ」
ふらふらしながら、歩き出した九之池。
そして、それにつられるように動き出した
他の面々であった。
稲生は九之池を追い越そうとして、ぶつかってしまった。
少しふらついた九之池を気遣って、稲生は話し掛けた。
「すみません、九之池さん」
「いのうさんよぉ、あんた、いい具合に染まっているよな。
目には目を歯には歯をかぁ。
逃げ回る人間を刃物で追い立てるとか無理ゲーだろうが。
余計なことを言うなよな、かっこつけてよ。
そんなにあの黒エルフとやりたいのかよ、
それともルージェナかよ」
言いたいことを言いたい放題に言うと、
九之池はふらつきながらも、拾った剣を振り上げて、
のそのそと歩き始めた。
ぽつりとその場に取り残された稲生は、
ほんの少しだけでも彼に共感したことを後悔した。
彼とは絶対に合わない。
殺し合う関係にまで拗れることはないと思うが、
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