起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

脱出(稲生)

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「さて、ビビっている諸君。
状況は明確になったな。
我々は遺跡の餌のようだ。
ルージェナの魔力が続く限り、
炎の魔術を行使して貰おう。
他のメンバーは炭化した個所を
斬るなり叩きつけるなりしろ。
火傷したところを攻撃されたら、
激痛に耐えられないだろう」
と言って、アデリナはニヤリとした。
そして、手本を見せるかのように斬りつけた。

空気が震えた。
そして、どこから発したのか、甲高い悲鳴が聞こえた。

「ルージェナ、やれ」と短くアデリナが言うと、
「はっはい」
と返事をして、二本目の槍を放った。

アデリナに続いて、ヘーグマンも大剣で、斬りつけ始めた。
稲生、九之池、アルバンも我に返ったのか、
ヘーグマンに続いて、各々、攻撃を始めた。

悲鳴は耳をつんざくような絶叫となっていた。
そして、床が上下前後左右に蠢き始めた。

「グロロォ」
嫌な音が聞こえて来た。

「稲生さん、あれって」
九之池がひたすら棍棒を
振り下ろしながら、稲生に話しかけた。
「あれですよね。漂う空気の酸っぱさが
何よりの証拠ですよね」
稲生が賛同した。

「稲生様、これは、酔っ払いが
吐くやつですよ、やばいっすよ」

アデリナが手を止めた。
そして、臭いのする方を見つめていた。
「全員、臭いと逆の方へ全力で走れ。
先頭はヘーグマン、最後尾はわたしだ。
九之池、遅れずにヘーグマンについて行けよ、いけっ!」

酸味を帯びた生臭い臭いが強くなり始めていた。
各々、道具を仕舞って、担ぐと、
ヘーグマンを先頭に動き出した。
ブツブツと何かを唱えていたアデリナが
最後に少し遅れてから、動き出した。

「ルージェナ、何かあの人、ブツブツと
言っていたけど、大丈夫かな?
もしかして、気がふれてない?」

「いやいやいや、九之池さん、あれは闇の精霊に
命令をしていたんです。
あんなに明確に顕現するなんて、
滅多に見られないですよ」
興奮して話すルージェナであった。

1時間ほどの強行軍で、まず、九之池が限界に近づいていた。
誰しもがかなりの汗を出しているが、九之池は群を抜いていた。
額に汗を流し、服は、絞れば、水が出そうなくらいに
汗でびしょびしょに濡れており、乾けば、塩の跡が残りそうであった。

 小休止とアデリナが言うと、九之池はホッと一息ついた。
アデリナの方に視線を向けると、
服が肌にびったりと汗で貼りついており、
魅力的な肢体を醸し出していた。

「はぁはぁはぁ」
呼吸が更に乱れる九之池だったが、
女性二人の鋭い視線を浴びると、一瞬にして、静かになった。

「そろそろですかねぇ。
念には念を入れるのがよろしいかと」
とヘーグマンが全員に語り掛けた。

「そうだな。それがいいだろう。
ルージェナ、炎の魔術を走ってきた方向に撃て。
他のメンバーは、どこでもいいから、
思いっきり、攻撃しろ」
そう言うと、アデリナは、精霊に語りかけ始めた。
そして、ルージェナは炎の魔術を展開し始めた。

「ふううぅーテイテイっ。無の境地ぃー。暑い」
妙な掛け声で床を棍棒で叩き始める九之池。

「ふう」
若干、九之池の掛け声に脱力しつつも、
側面を切り刻む稲生。

「ったく、人使いが荒い」
ブツブツと不平不満を言いながらも
剣を地面に刺しまくるアルバン。

無言で大剣を縦横無尽に振り回すヘーグマン。

「グロロォ、ゲロォー」
嫌な音が再び、大音響で聞こえて来た。

「よし、行くぞ」
アデリナが指示をすると、一同、走り出した。
彼らの背中に生暖かく、生臭いの空気が吹いて来た。
彼等の視線に小さい光が見えていた。
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