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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

冒険準備(稲生)

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馬車に荷台では、九之池が
幸せそうにいびきをかいて、熟睡していた。

「ふぁぁーよく寝た気分。
馬車の揺れって、電車の席で
寝る感覚に近くない?」
と寝ぼけながら、稲生に話かける九之池だった。
既に敬語を使っておらず、才籐と話すような感じであった。
昼夜逆転しているのにも関わらず、
健康そのものの九之池であった。

稲生は、この男が夜警の大半を
カバーするお陰で今のところ十分な睡眠を
取ることが出来ていたが、彼の警戒能力を
どこまで信頼したものか疑問を感じていた。

「確かに揺れは少し激しいですが、
ついうとうとしてしまいますね。
まるで電車で寝ているようですよ。
確か老公が伝えた技術が扱われているとか」
稲生は適当に話を合わせて答えた。

「懸架装置のことですよね。
よくもまあ、ここまで再現出来ましたと思いませんか」
九之池が素直な感想を述べた。

稲生は曖昧に頷くと、話題を変えた。
「シリア卿の今回の依頼は、
どういった意図があるんでしょうね。
レズェエフ王国軍と対陣しているにも関わらず、
今回の戦の英雄たる九之池さんと、
世に知れ渡る剣豪のヘーグマンさんを遺跡探索に
向かわせるとは、ちょっと驚きですよね」

「あーそれですか。多分、もうレズェエフ王国軍とは
話がついているみたいです。
バルザースとレズェエフの顔が立つように
対陣しているだけですよ。
とルージェナが言っていました。
まあ、多分、そこそこな規模の遺跡が見つかったから、
探索に行くように命じたんでしょうね。
要は、墓荒らしですから、騎士団はやりたがらないし、
冒険者は信用ならないと言うことで、
嫌がらせも含めて、命じたんじゃないですかね」

九之池が欠伸をしながら、身体を伸ばして、答えた。

遺跡とは態の良い表現で、所詮は盗掘作業だった。
王や皇帝の墓であれば、相当な金銀財宝、
そして、魔術を付与された特殊な道具が
手にはいることが多かった。
その為、遺跡が見つかると王侯諸侯は、
信頼できる冒険者を派遣し、攻略に当たらせていた。
ベルトゥル公国が隣接する連合王国は、
いまだに諸侯の集合体であり、諸侯の勃興が
バルザースやレズェエフに比べ、多く、
そしてベルトゥル公国との緩衝地帯に
建立することもあった。

遺跡に最も近い街に到着した九之池たちは、
何よりもまず、宿に宿泊して、旅の疲れを癒した。
街には、かなりの活気があった。
そして、様々な種族が街中を闊歩していた。

「九之池様、これはかなり期待できそうな感じです。
多くの諸侯が冒険を派遣していますよ」
とルージェナが街の活気の原因を説明した。

「いやいや、冒険者同士で争いになったら、困るよ。
妙に殺気だっている連中もいたし」
と九之池が心底、嫌そうに答えた。

「九之池殿、稲生殿、用心なされよ。
遺跡探索でなく、遺跡を探索する冒険者を
狙う輩もいますので」
とヘーグマンが説明をした。

諸侯より派遣される冒険者は、実力だけでなく、
資金が潤沢であった。
そのためか、探索より、その資金を
狙う悪質な冒険者も一定数いた。
「ええっ、めんどくさいなぁ。
冒険者ギルドでしっかりと管理して欲しいですね」
九之池は、ぼやきっぱなしであった。

「それより、九之池様、遺跡探索の許可証を
ギルドに貰う必要があります。
早く行きましょう」
とルージェナが急かした。

「確か黒豚だったか?チーム名は?
まあ、いいが、何でそんな名前にしたんだ?」
アデリナがルージェナに尋ねた。
ルージェナが何か答えようとすると、
それを遮り、九之池が答えた。
「正式名称は違いますが、
もう、それで広まってしまったので、もういいです」
言い終えると、肩を落として、
ルージェナとギルドに向かった。

「なんだありゃ?まあ、いいか。
稲生、おまえは、遺跡の探索は始めてだったな」
とアデリナが今度は稲生に尋ねた。

「はじめてになります。噂で聞く程度で
詳しくは、知りません」
稲生がそう答えると、アルバンも続いて、
同じように答えた。

「ふむ、そうか。
ヘーグマンを除くと全員が初心者だな。
となると、遺跡の深部に向かうより、
浅い階でまず、慣れることから始めるとするかな。
狭く、暗い通路での戦闘は、地上とは全くの別物だからな」
とアデリナが思案気な表情で提案した。
それから、探索に必要な道具の説明をアデリナが行い、
アルバンと稲生は、購入に向かった。
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