起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

文字の大きさ
上 下
90 / 267
森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

最前線の状況2(才籐)

しおりを挟む
「なめるな、その程度の魔獣で
俺を屠るつもりかっぁ」
と大剣を片手で振り回し、獣に向かって振り下ろした。

 城壁から、この様子を眺めていた軍師は、
アルフレード皇子に抑揚のない声で話かけた。
「いけませんね、あの男、死にますが、よろしいですか?」

 アルフレード皇子は驚いたように軍師を見つめた。
数々の魔物を屠ってきた軍の勇者が
あの程度の獣に倒されるはずないと思っていた。
 アルフレード皇子にとって、キリアの大森林に
生息していた獣ですら、倒せたと自負している
自慢の将たちであった。

 アルフレード皇子の内心を見透かしてか、
優劣に関しては語らず、アファバを死から
救出する方策のみを語った。
「至急、軍を繰り出して、あのあたりを乱戦に
持ち込みなさい。
さすれば、あのお腹の減っている獣は、
もっと柔らかくておいしそうな兵に飛びつくでしょう」

「いえ、私は、アファバがあの魔獣を
屠ることを信じています。
そして、我が軍には、彼が負けるとは
誰も思っておりません」
とアルフレード皇子は真摯な表情で
軍師を見つめて、断言した。

 軍師は、ため息をついて、諦めたのか、
それから何も言わなかった。
 軍師の態度はいつものことなので、
周りの諸将は特に気にした風もなく、
アファバと獣の戦況を見守っていた。

「ふっ、ふははは、これは面白い。
おもしろいモノを渡された」
とアグリッパは繰り広げられる眼前の戦いを見て、そう言った。

 お互いに似たような雄叫びを上げながら、
大剣と牙、爪を交えていた。

 遠目にはお互いの力が拮抗しているように
見えるが、当のアグリッパには、
獣が圧倒していることがはっきりと理解できた。

 獣は、一思いに殺さず、素体となったモノの
習性なのか生餌で遊んでいた。

 アファバは、雄叫びを上げて、何度も獣に
大剣を振るったが、大剣が獣を捉えることはなかった。
 如何ともし難い絶望的な速度の差があることを
歴戦の戦士であるアファバは理解していた。
そして、この場を生きて逃れることができないことも。

「くそがぁ、俺もここまでか。
ふん、まあ、よい。あの男に従って、
随分と糞みたいな人生が一変したからな」
 全身を死なない程度に切り刻まれていたが、
アファバは、大剣を構え、何事かを呟いていた。

「使うか。あの女を抱いた代償を」

 アファバは、そう言うと、片手で剣を
青空へ高く掲げ、片手で無数の魔晶を天高く放り投げた。
無数の光が反射し、彼の周りを光の筋が覆った。

「捧げよ捧げよこの魂を。
アルフレード皇子に捧げよ、がああっー」

 膨大な魔術の渦が男を包んだ。

 その直後、アファバは、人ならざる速度で
様子を見つめていた獣に突進した。

 耳を劈くような凄まじい咆哮が辺りを支配した。
それはどちらが発したのか、両者が発したのか、
間近にいたアグリッパですら、分からなかった。

 アグリッパの側でぴちぴちと動く斬り飛ばされた
一本の獣の前足。
 獣はそんなことお構いなしに何も言わなくなった死体を
貪っていた。

 アグリッパは、歓喜に震えていた。
まさかこれほどとは、予想だにしていなかった。
時節、聞こえる骨を噛み砕く音、
そして、先ほど欠損した前足が、ゆっくりとだが
確実に生えてきている。
 人知を超える速さに加え、骨すらかみ砕く力と
あり得ない回復力を垣間見て、
バルザース帝国侵略の最大の障害である皇子を
屠れることをアグリッパは、確信した。

 両軍の諸将は、それぞれの事情で突然、
登場した獣の登場に大いに悩ませた。

 バルザース帝国軍は、城壁があるとはいえ、
あのような化け物を相手にすることに。
レズェエフ王国軍は、果たして、獣が陣内で
暴走しないだろうかと。

「仕方ありません。これは、討伐ではありません。
魔物を不利な方へ誘い込んでの有利な状況下での
戦いとはいきませんので」
と軍師が無言のままのアルフレード皇子に話しかけた。

「わかっている。しかし、勇敢な戦士を失ったことは、、、」
と絞り出すように答えると、その場をイラーリオに任せて、
部屋に戻っていった。

 一騎打ちから、2~3日、散発的な争いは
あるが、大きな変化なく過ぎた。

 両軍の動きが硬直気味の中、
時節、激しい暑さの中、弱い雨が降った。
城内の兵士たちは、蒸し暑さと淀んだ空気に苦しみ、
士気は目に見えて落ちて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...