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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編
体調不良(九之池)
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九之池は、公都の街中を意気揚々と歩いていた。
出征から戻って、体力もかなり回復したためだけでなく、
どうやら、爵位と邸宅が授与されると内示を
受けたからであった。
友人がいる訳でもないため、喜びを話す相手もいないが、
一人で喜びを噛みしめながら、街の露店で買い食いを楽しんでいた。
ふと、視線を感じた九之池は、周囲を見渡すと、
3人ほどが自分に注目をしていることに気づいた。
「えっ、ええええええ、なんで?
なんで、ここに稲生さんがいるんですか?
それに執事さんも」
と心底、驚いた九之池であった。
一人は見たことのない人物であったため、
普段なら、もぞもぞする九之池だったが、
驚きの方が勝り、気にならなかった。
「お久しぶりです、九之池さん。
街中で噂になっていますよ」
とにこやかに答える稲生。
「諸国の情勢を伺うための旅で
ここにも訪れました。
九之池さんがいらっしゃるので、
まあ、色々とお話を聞けるかと思いましてね。
立ち寄りました」
と続けた。
「いやいやいやいや、僕なんて何にも知りませんよ。
情報なんて全然、入ってきませんから」
と九之池が慌てて、答えて、稲生の右腕に
身体を預ける様に絡める黒いエルフを
足元から頭のてっぺんまでを絡みつくような視線で
盗み見た。
黒いエルフは、眉間に皺をよせ、稲生へ更に密着した。
白昼堂々とよくもまあと呆れるアルバンであった。
「いえ、そんなことはないですよ。
爵位も授与されるのですから。
遅れましたが、おめでとうございます」
と稲生が如才なく答えた。
稲生たちはここに到着したばかりではないようだった。
ある程度の情報収集をここでしているようだった。
そんなことには全く気がつかず、
九之池は、やっと、この件を話せる人物に
会えて喜んでいた。
「いやいやいや、困っているんですよねー。
僕ごときが爵位なんてね。
ほら、稲生さんなら、分かるでしょ。
前世界の会社で昇格がうっとうしいってやつ。
それと同じ感覚なんだよね。断れるなら、断りたいよ。
責任ばかり、増えて大変じゃん」
出来る限り深刻な表情をしながら、
心に思うことと真逆のことを言う九之池であった。
しかしながら、自然と緩む頬はどうしようもなかった。
「そうは言いましても市井の噂を聞く限りですと、
大変なご活躍であったと。
助かった兵たちも大変感謝しているとの話ですよ」
そんな九之池の表情に気づいている稲生だったが、
そんなことはおくびにも出さずに答えた。
アルバンは、これは同じ召喚者でも
役者が違い過ぎるなと、九之池の方を見ながら、
ため息をついた。
黒いエルフことアデリナは、先ほどのから、
自分を盗み見る九之池の視線に我慢できなくなり、
九之池と稲生の当たり障りのない挨拶に突然、割り込んだ。
「おい、さっきから、気持ち悪いんだよ。
ちらちらと見やがって。
それに心にもないことばかり言うな。
気持ち悪い。
そんなに嫌なら、爵位を断って他の褒賞を
望めばいいだろうよ。
ふん、先ほどから、心にもないことばかりを
ねちねちと言うな、気持ち悪い。
稲生、おまえもいい加減、気づいているんだから、
さっさとその不毛な会話を終わらせろ」
九之池は、ぷるぷると震えていた。
この黒エルフの言うこと言うことが一々、
的を得ているからだった。
「いっ稲生さん、この人は?」
やっとの思いで、それだけを口にした。
顔は真っ赤で汗がだらだらと流し、
震える九之池だった。
「この方は、キリア王朝の武人です。
将軍職に就いているのですが、自由気ままな方で、
ほとほと困っています」
と稲生が紹介した。
「そっそうですか。
稲生さん、すみません、少し気分が悪いので、
今日はこれで。
改めて、シリア卿の許可を貰いましたら、
屋敷へ招待しますので、では」
と言うと九之池は、ふらふらと稲生たちから
逃げ出すように街中を歩いていった。
「ぷっぷぷっ。流石にリン様とは違いますね。
アデリナさんは、容赦がありませんでしたね」
心底、可笑しそうにアルバンが言うと、
「ふん、気持ち悪い。あれが、巷で噂の英雄殿か。
キリアの英雄殿の方がまだ、マシだな」とアデリナが答えた。
稲生も九之池にはあまり良い印象を
持っていなかった。
妻を弄るように盗み見ていたあの男の表情が
どもう気に食わなかった。
この世界でなければ、会話を
交わすこともなかった男であっただろうと思っていた。
「まあ、一先ずは、九之池さんにも
接触が出来ましたし、次はもう少し色々と話を
聞いてみましょう。
アデリナさん、彼をあまり刺激しないでくださいね。
それと少し癇癪を抑えてください」
アデリナは不服そうであったが、
情報収集が目的であることは忘れていなかった。
不承不承であったが、頷いた。
出征から戻って、体力もかなり回復したためだけでなく、
どうやら、爵位と邸宅が授与されると内示を
受けたからであった。
友人がいる訳でもないため、喜びを話す相手もいないが、
一人で喜びを噛みしめながら、街の露店で買い食いを楽しんでいた。
ふと、視線を感じた九之池は、周囲を見渡すと、
3人ほどが自分に注目をしていることに気づいた。
「えっ、ええええええ、なんで?
なんで、ここに稲生さんがいるんですか?
それに執事さんも」
と心底、驚いた九之池であった。
一人は見たことのない人物であったため、
普段なら、もぞもぞする九之池だったが、
驚きの方が勝り、気にならなかった。
「お久しぶりです、九之池さん。
街中で噂になっていますよ」
とにこやかに答える稲生。
「諸国の情勢を伺うための旅で
ここにも訪れました。
九之池さんがいらっしゃるので、
まあ、色々とお話を聞けるかと思いましてね。
立ち寄りました」
と続けた。
「いやいやいやいや、僕なんて何にも知りませんよ。
情報なんて全然、入ってきませんから」
と九之池が慌てて、答えて、稲生の右腕に
身体を預ける様に絡める黒いエルフを
足元から頭のてっぺんまでを絡みつくような視線で
盗み見た。
黒いエルフは、眉間に皺をよせ、稲生へ更に密着した。
白昼堂々とよくもまあと呆れるアルバンであった。
「いえ、そんなことはないですよ。
爵位も授与されるのですから。
遅れましたが、おめでとうございます」
と稲生が如才なく答えた。
稲生たちはここに到着したばかりではないようだった。
ある程度の情報収集をここでしているようだった。
そんなことには全く気がつかず、
九之池は、やっと、この件を話せる人物に
会えて喜んでいた。
「いやいやいや、困っているんですよねー。
僕ごときが爵位なんてね。
ほら、稲生さんなら、分かるでしょ。
前世界の会社で昇格がうっとうしいってやつ。
それと同じ感覚なんだよね。断れるなら、断りたいよ。
責任ばかり、増えて大変じゃん」
出来る限り深刻な表情をしながら、
心に思うことと真逆のことを言う九之池であった。
しかしながら、自然と緩む頬はどうしようもなかった。
「そうは言いましても市井の噂を聞く限りですと、
大変なご活躍であったと。
助かった兵たちも大変感謝しているとの話ですよ」
そんな九之池の表情に気づいている稲生だったが、
そんなことはおくびにも出さずに答えた。
アルバンは、これは同じ召喚者でも
役者が違い過ぎるなと、九之池の方を見ながら、
ため息をついた。
黒いエルフことアデリナは、先ほどのから、
自分を盗み見る九之池の視線に我慢できなくなり、
九之池と稲生の当たり障りのない挨拶に突然、割り込んだ。
「おい、さっきから、気持ち悪いんだよ。
ちらちらと見やがって。
それに心にもないことばかり言うな。
気持ち悪い。
そんなに嫌なら、爵位を断って他の褒賞を
望めばいいだろうよ。
ふん、先ほどから、心にもないことばかりを
ねちねちと言うな、気持ち悪い。
稲生、おまえもいい加減、気づいているんだから、
さっさとその不毛な会話を終わらせろ」
九之池は、ぷるぷると震えていた。
この黒エルフの言うこと言うことが一々、
的を得ているからだった。
「いっ稲生さん、この人は?」
やっとの思いで、それだけを口にした。
顔は真っ赤で汗がだらだらと流し、
震える九之池だった。
「この方は、キリア王朝の武人です。
将軍職に就いているのですが、自由気ままな方で、
ほとほと困っています」
と稲生が紹介した。
「そっそうですか。
稲生さん、すみません、少し気分が悪いので、
今日はこれで。
改めて、シリア卿の許可を貰いましたら、
屋敷へ招待しますので、では」
と言うと九之池は、ふらふらと稲生たちから
逃げ出すように街中を歩いていった。
「ぷっぷぷっ。流石にリン様とは違いますね。
アデリナさんは、容赦がありませんでしたね」
心底、可笑しそうにアルバンが言うと、
「ふん、気持ち悪い。あれが、巷で噂の英雄殿か。
キリアの英雄殿の方がまだ、マシだな」とアデリナが答えた。
稲生も九之池にはあまり良い印象を
持っていなかった。
妻を弄るように盗み見ていたあの男の表情が
どもう気に食わなかった。
この世界でなければ、会話を
交わすこともなかった男であっただろうと思っていた。
「まあ、一先ずは、九之池さんにも
接触が出来ましたし、次はもう少し色々と話を
聞いてみましょう。
アデリナさん、彼をあまり刺激しないでくださいね。
それと少し癇癪を抑えてください」
アデリナは不服そうであったが、
情報収集が目的であることは忘れていなかった。
不承不承であったが、頷いた。
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