起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見！もふもふ生活開始の気配（原題.真説・森の獣

森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

稲生争奪戦勃発(稲生)

　鍛練場では、手合わせが始まる以前に、
修羅場となっていた。

「稲生様から、まず、あなたは離れなさい」
とメープル。

「はあ？なんであんたに命令されなければ
いけないのさ、ぽっちゃデブが離れな」
そして、それを煽るアデリナだった。

「きぃいいいぃぃー。気にしていることを！
稲生様は抱き心地が最高だと
言ってくれましたから！
鶏ガラは黙ってなさい」
と怒りに我を忘れるメープルだった。

「くすっ、私を見て、鳥ガラ？
稲生は私の肢体からいつも目が離れないわ。
もちろん、ベッドでもね」
と言って、にやりと笑った。

「はあああー私だって、私だって、
ベッドで睦言を交わしています」
と喚き散らすメープルだった。

　稲生は、全く身に覚えが無い訳でも
ないために沈黙を貫いた。
そして、これ以上、周りの好機の目線に
耐えらなくなり、
「二人とも落ち着いて、落ち着ていください」
と言った。

　アデリナは元々、落ち着ているため、
稲生から、離れて戦闘体勢を取った。

「稲生様、少々、離れてください。
少しあの黒エルフを教育します」
と言うと、右腕で不規則に動き始めた。

「司祭の本気か、これは楽しみだ」
とアデリナが呟くが、表情は真剣そのものだった。

　稲生はアデリナを見て、真性の戦好きだと思った。
メープルもアデリナの雰囲気から、
それなりの実力者と判断したのか、容易に仕掛けなかった。

　睨み合う二人だったが、メープルの右腕が
地を這い、アデリナを追うように突然、動き出した。

　アデリナは、後方へ大きく距離を取り、
右腕の動作範囲を見極めようとした。

　その場から、動かず、メープルは、右腕を操作していた。

「ふむ、そういうことか」
一人、納得したように追跡してくる右腕から
距離をとるアデリナだった。

　鍛練場の際まで追い込まれたアデリナは、
精霊に助力を求めた。

　四肢の筋肉が隆起し、血管が浮き出ていた。
心の精霊が求め応じて、黒エルフの持つ限界まで
筋力を活性化させたのであろう。

「逃がしませんよ」
とメープルが言うと、伸びて、
細くなっていた右腕の先端が
髪のように細くなり、幾千、幾万に
分岐して、アデリナを囲い込もうとした。

「ふんっ」
　一声、叫ぶや否やアデリナは
その囲みを掻い潜り、メープルに肉薄した。
右腕に持つ小太刀は、メープルの心臓を
最短で一刺しするように構えられていた。

　メープルの左腕で大きく振るわれた槌矛が
ほんのわずかだが、アデリナの突進の速度を鈍らせた。
その刹那の瞬間であろう、メープルの右腕が
アデリナの小太刀の刃を握り潰していた。

　アデリナは小太刀を放って、そのままの勢いで
メープルの腹に思いっきり膝蹴りを加えた。

「ぐぼっ、稲生様の前でぇぇー
よくもこんあ言葉を吐かせましたね」
と言うメープルの叫びとともに
アデリナが地面に叩きつけられていた。

　そのまま馬乗りになり、なられるを繰り返して、
転がりながら二人は争っていた。