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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

情報収集(稲生)

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 稲生は、商館に戻ると、
九之池に関する報告書を読んだ。
特筆すべきことは書かれていなかったが、
性格に難があることは確かなようだった。
 後ろ盾は、一代伯爵のシリア卿という
野心家のようだった。

 報告書を一読したが、才籐のいうルージェナに
関する記述は、従者であるくらいしか情報がなかった。

 商館に駐在する職員に話を聞くと、
ベルトゥル公国の出張所なら、もう少し情報が
あるとのことだった。

「アルバン、以前、会ったルージェナですが、
どう思いますか?」
夕食後、稲生はアルバンに印象を尋ねた。

「九之池さんの慰みモノですか。
まあ、若いのに可哀そうですよね。
あんなのが相手じゃ。しかし、よくあることですよ」
と矯激な意見をしれっと話すアルバンだった。

「いやいや、何かしらの縛りはあるでしょうが、
そういう関係ではないでしょう」
あの二人がそういう関係だと想像してしまい、
吐気を催す稲生だった。
美女と豚、考えたくなく、稲生はそのような関係を
否定した。

「まあ、冗談ですが、あの娘は、それなりの教育を
受けていますよ。
それに魔術師としてもそれなりの実力はあります。
稲生様、もしかして、あの手の美少女系も
好みなのでしょうか?守備範囲がお広いことで」
とアルバンは断言した。
 特に最後の意見を力強く語ったアルバンは、
ドヤ顔で稲生を見た。

 稲生はイラっとしたが、表情には出さず、
近隣諸国について、アルバンと話し始めた。
「ベルトゥル公国での二国間で交渉は
長引いているようですね」

「はい、バルザースは絶対に領土の割譲は
認めませんから。
戦は、どちらが勝利したか
判断が難しい結末のようです。
バルザースに皇子が残っている以上、
レズェエフが最終的に譲歩するでしょう。
しかし、今のところ、珍しくレズェエフが
ごねているようです」
アルバンはどこから仕入いれてきたのか、
現在の状況を説明した。

「ふん、確かにそうだな。そこの従者の言う通りだ。
バルザースは、これ以上、開拓などで領土を
拡げることが困難だから、割譲はないな。
近隣をレズェエフ、キリア、ベルトゥル公国と
いった国々囲まれているからな。
一方、ベルトゥル公国に隣接する他の2国は、
人さえ居れば、国の後方に開拓で領土を
拡げられる地域がある」
突然、稲生の背中に密着して、話かけたアデリナだった。

「アデリナさん、それは少し刺激が強すぎますよ。
話すなら、席についてください」
と必死に冷静な態度を保とうと努力する稲生が言った。

「ん?本当にいいのか?なら、失礼した。
鉱物資源がいくら豊富とはいえ、無尽蔵なものではないし、
領土の拡張はどうしても近隣諸国への侵攻になる。
皇子と言う近年稀に見る当たりがいる機会に
領土を拡張したいところだろうが、
レズェエフごときに後れを取った。
バルザース帝国の方が焦っているのかもしれないな。
レズェエフへの出征があるかもしれない」

 稲生は、アデリナの話を聞いて、
バルザース帝国の皇子がどの程度の人物か尋ねた。

「あれに一対一で勝てる強者はまず、いないだろうな。
正直、我が王朝が誇る将軍が何人かで
ようやく勝負になるくらいだな。
そもそも本人が恐ろしく強い上に
強力な武具と防具を纏っているから。
稲生、おまえの小賢しい知恵など、
奴の前では用を成さないだろう。
もし、会敵するようなら、逃げろ」

「それほどですか。14柱に列する将軍が複数で
となりますと、あの獣と互角か
それ以上ということですね」
稲生は、昔のことを思い出しながら言った。
 
優秀な人たちの犠牲の上でようやく倒せた、
あれと互角以上となると、人ならざるモノとしか
稲生には思えなかった。
 
 そして、稲生は、獣によって、何度も失禁させられた
黒歴史が脳裏に蘇った。
流石に人間相手に失禁はするまいと思いたかった。

「そうだな、皇子が討伐に出ていれば、
一人で倒しただろうと言われていたからな。
当時、バルザース帝国には、皇子を含む3人の
召喚者がいた。そのうち、二人が確か、
獣の討伐に向かって、死んだらしい」

 稲生は、何も答えず軽く頷いた。
確かその二人には会っていた。
獣の討伐に向かって、敗れ、村には戻って来なかった。
一人は行方不明だったような気がしたが、アデリナの情報から、
この国では、死亡したとして扱われているようだった。

 3人は、軽くお酒を呑みながら、12刻ごろまで
話していたが、眠気を次第に感じ始めたため、
各々、部屋に戻っていった。
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