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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

依頼(稲生)

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稲生は、突然の連帯保証人の依頼に
心臓の鼓動が高鳴っていた。
何分、稲生には自由にできる金がない。
そのために彼の一つ目の頼まれごとが
大いに彼を悩ませた。
一先ず、保証人の件は、措いておいて、
九之池の件を聞くことにした。
「九之池さんのことですか?」

「そう、あのおっさん。
なんかおかしな方向に向かってないか?
そもそもあのルージェナって
娘もおかしいだろう」
と才籐が主張するが、稲生には
彼をどうこう判断するほど、
付き合いが深くないために
才藤の次の言葉を待った。

「いや、あの歳であれだし。
なんとういか小物感がめっちゃあるし。
どうも歪んでいるよな。
それを悪い方にルージェナが誘導してない?
そもそもおかしいだろう、出会いからして。
反逆罪だぞ、この世界では死罪だろ。
それが従者の立ち位置でいるっておかしいだろうし。
まあ、同じ国の誼で少しは気にかけておいてくれよ」
と結んだ。

稲生は九之池との会談を思い返していた。
決して好漢の類ではないだろう。
不躾に妻を見る彼のいやらしい視線も
稲生にあまりいい印象を与えなかった。

「少しはいいところがあるんだよ。
ただ、どうもな。あの歳で変われるのか
わからないが、変な方に拗らせなければと
思っただけだよ」
才籐はどうも稲生の表情が
珍しく曇っているために補足した。

「単純に才籐さんが野垂れ死にしたりしなければ、
問題ないのでしょう。
まあ、才藤さんと連絡がつかなくなったら、
考えておきますよ」
と稲生は、才籐の願い事が二つとも
どうも乗り気になれない内容のためか、
歯切れの悪い受け答えになってしまった。

「また、明日も来ますから、
その時にでも今後のことを含めて、
お話ししましょう。
では、才籐さん、お大事に」
と稲生は伝えると、部屋をでた。

「ふむ、明日も来るがあまり、
不躾な視線を送るなら、
そのときは覚悟しろよ、才籐とやら」
とアデリナが冷たい視線を才籐に送った。

商館への帰り道、稲生はアデリナに尋ねた。
「各国の召喚者の情報はありますか?」

「ああ、一応はある。
召喚者はこの世界に大きな変化を
もたらすことがあるからな。
情報は集めてある。
さっきの九之池の情報だろう。
商館で閲覧できるが、あまり大したことは
記載されていないな。
ベルトゥル公国初の召喚者だからか、
大切されているようだな。
能力のほどは、武術、学術、芸術、
どの分野でも役に立たな愚物らしいな。
冒険者の間ではそれなりに名が通っている。
確か「漆黒の豚」だったかな」
とアデリナが説明をした。

「はあ、豚ですか、よくそのようなチーム名を
付けましたね」
とあきれ気味の稲生だった。

「さあな、その理由は知らぬし、
本人の自由だろうよ」
と興味なさそうに答えるアデリナであった。
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