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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編
面会(稲生)
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稲生は、バルザース帝国のアンカシオン教を
訪ねていた。
残念なことにメープルは、会議中であった。
アデリナは道案内だけのはずであったが、
稲生と共に才籐の面会について来ていた。
アルバンは、途中の市場で調達したいものがあるのか、
市場のなかに消えていった。
受付で才籐の現状を聞き、
稲生はどう声をかけるべきか悩んでいた。
受付に案内されて、一歩一歩と近づくが、
足取りが次第に重くなっていた。
コンコンと案内をした助祭がドアをノックした。
先ほどの説明だと、どうやら、突然の入室で
修羅場があったらしいとのことだった。
ドアを開けて、稲生とアデリナを
部屋に案内すると、助祭は部屋を出て行った。
アデリナは、稲生の右後ろから才籐を覗いた。
「よう、稲生か。よく来たなと言いたいところだが、
そんなことは、この状況なら言われないのは、
おまえもわかっているよなぁ」
と才籐が稲生やアデリナが話し出す前に突然、言った。
「いや、才籐さん。これは、その」
と稲生が何かを話そうとすると、
「おいおい、妻子ある身で、そこのエルフと
旅を楽しんで来たんだろう。
おいおい、奥さんと子供さんが
可哀そうだろうよ。ああっ!
なんでお前だけそんなに美人と縁があるんだよ。
どうしてだよっ。腕なんて組んで
そんなに密着して、見せつけやがって。
リンさんに言うぞ、こら」
止め止めもなく喚き散らす才籐だった。
稲生は、いつの間にか密着しているアデリナに驚き、
「いや、才籐さん。これは、ですね。その」
と稲生が何かを話そうとすると、
「アデリナと言います。
才籐さん、これから稲生ともども
よろしくお願いします。
私は、バルザースの帝都にいますので、
彼とはバルザースにいる間だけ一緒に居られるんです」
とあの普段の冷たい表情など想像できぬほどの
幸せ一杯で答えた。
「ぐっ、稲生、おまえ、碌な死に方しないぞ。
いや、碌な死に方しろ」
才籐はちらちらとアデリナを見ながら、稲生に言った。
しばらく沈黙が3者を支配していたが、
才籐がぽつりと話した。
「で、今日はどうしてここへ来たんだよ?
この女性の件とは別だろうな。まあ、いいや。話せよ」
「その才藤さん、一先ず、また会えたことを
うれしく思います。
調子は、そのどうでしょうか?」
と稲生が尋ねた。
「ふん、何かおまえとアデリナさんが
いちゃいちゃしているのを見せつけられて、
調子が悪くなったよ。
まっ、俺はどうなるのかな。
これじゃ、この世界で生きていくには
きつ過ぎるだろう。どうなんだろうな」
稲生はその言葉に答える術を持っていなかった。
どのように話しても気休めにしかならず、
そして、才籐は、受け入れないような気がした。
「わりぃ、何か暗い話をしちまって。
稲生、一応、伝えておくわ。
左脚の原因は、もどき絡みだよ。
妖精もどきのせいだよ。
本当は死ぬかもしれなかったが、
あるエルフから渡された魔晶が左脚の損傷だけで
留めてくれた。
お前が昔、話した老公の技能集団の
裏切り者だろうあれは?」
と才籐が真剣な表情で稲生に尋ねた。
「すみません、私はそのもどきとは
会ったことがありませんので、
メリアムさんにお会いした時に確認しておきます」
と稲生は自分の見解を述べずに才籐に伝えた。
「まっ、そうだな。
稲生、すまないが、同郷の誼で
二つほど頼まれてくれないか?」
稲生は才籐を見て、その表情が本気なことを
確認し、頷いた。
「アデリナさんが聞いても大丈夫ですか?」
と稲生は念のため、尋ねた。
「ああ、構わないな。稲生が依頼を
受けた証人になるだろう。
ここ、帝都に店を構えているビルギットというエルフがいる。
もしもだ、俺に何かがあったら、
そこの俺の借金の返済を頼む。
少しづつでいいから返済してくれ。頼む。
俺の遺品の受け取りを稲生にしておくから、頼む。
それと、あとはおっさんのことだ。
稲生、どう思う?」
訪ねていた。
残念なことにメープルは、会議中であった。
アデリナは道案内だけのはずであったが、
稲生と共に才籐の面会について来ていた。
アルバンは、途中の市場で調達したいものがあるのか、
市場のなかに消えていった。
受付で才籐の現状を聞き、
稲生はどう声をかけるべきか悩んでいた。
受付に案内されて、一歩一歩と近づくが、
足取りが次第に重くなっていた。
コンコンと案内をした助祭がドアをノックした。
先ほどの説明だと、どうやら、突然の入室で
修羅場があったらしいとのことだった。
ドアを開けて、稲生とアデリナを
部屋に案内すると、助祭は部屋を出て行った。
アデリナは、稲生の右後ろから才籐を覗いた。
「よう、稲生か。よく来たなと言いたいところだが、
そんなことは、この状況なら言われないのは、
おまえもわかっているよなぁ」
と才籐が稲生やアデリナが話し出す前に突然、言った。
「いや、才籐さん。これは、その」
と稲生が何かを話そうとすると、
「おいおい、妻子ある身で、そこのエルフと
旅を楽しんで来たんだろう。
おいおい、奥さんと子供さんが
可哀そうだろうよ。ああっ!
なんでお前だけそんなに美人と縁があるんだよ。
どうしてだよっ。腕なんて組んで
そんなに密着して、見せつけやがって。
リンさんに言うぞ、こら」
止め止めもなく喚き散らす才籐だった。
稲生は、いつの間にか密着しているアデリナに驚き、
「いや、才籐さん。これは、ですね。その」
と稲生が何かを話そうとすると、
「アデリナと言います。
才籐さん、これから稲生ともども
よろしくお願いします。
私は、バルザースの帝都にいますので、
彼とはバルザースにいる間だけ一緒に居られるんです」
とあの普段の冷たい表情など想像できぬほどの
幸せ一杯で答えた。
「ぐっ、稲生、おまえ、碌な死に方しないぞ。
いや、碌な死に方しろ」
才籐はちらちらとアデリナを見ながら、稲生に言った。
しばらく沈黙が3者を支配していたが、
才籐がぽつりと話した。
「で、今日はどうしてここへ来たんだよ?
この女性の件とは別だろうな。まあ、いいや。話せよ」
「その才藤さん、一先ず、また会えたことを
うれしく思います。
調子は、そのどうでしょうか?」
と稲生が尋ねた。
「ふん、何かおまえとアデリナさんが
いちゃいちゃしているのを見せつけられて、
調子が悪くなったよ。
まっ、俺はどうなるのかな。
これじゃ、この世界で生きていくには
きつ過ぎるだろう。どうなんだろうな」
稲生はその言葉に答える術を持っていなかった。
どのように話しても気休めにしかならず、
そして、才籐は、受け入れないような気がした。
「わりぃ、何か暗い話をしちまって。
稲生、一応、伝えておくわ。
左脚の原因は、もどき絡みだよ。
妖精もどきのせいだよ。
本当は死ぬかもしれなかったが、
あるエルフから渡された魔晶が左脚の損傷だけで
留めてくれた。
お前が昔、話した老公の技能集団の
裏切り者だろうあれは?」
と才籐が真剣な表情で稲生に尋ねた。
「すみません、私はそのもどきとは
会ったことがありませんので、
メリアムさんにお会いした時に確認しておきます」
と稲生は自分の見解を述べずに才籐に伝えた。
「まっ、そうだな。
稲生、すまないが、同郷の誼で
二つほど頼まれてくれないか?」
稲生は才籐を見て、その表情が本気なことを
確認し、頷いた。
「アデリナさんが聞いても大丈夫ですか?」
と稲生は念のため、尋ねた。
「ああ、構わないな。稲生が依頼を
受けた証人になるだろう。
ここ、帝都に店を構えているビルギットというエルフがいる。
もしもだ、俺に何かがあったら、
そこの俺の借金の返済を頼む。
少しづつでいいから返済してくれ。頼む。
俺の遺品の受け取りを稲生にしておくから、頼む。
それと、あとはおっさんのことだ。
稲生、どう思う?」
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