起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見！もふもふ生活開始の気配（原題.真説・森の獣

森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

逃亡の結末(九ノ池)

公都に戻ると、九之池は冒険者ギルドに
直ぐに向かい、依頼完了の旨を受付に伝えた。
「漆黒の豚さん、一件、未完了ですが？」
と受付の女性に問い質されて、経緯を九之池は説明した。
「現地で確認は行いましたか？
まさか、村の噂だけで、戻って来たんじゃないですよね？
流石にそれは困りますよ」
と真顔で受付が言った。

「いや、そのあの、でも、そのあー」
とまともに答えられない九之池に代わりに
ルージェナが答えた。
「戻ってきた理由は、2点あります。
1点目は、内容が内容だったので、
一度、ギルドに相談するのが得策かと判断しました。
2点目は、2名での任務だったので、
噂話から、人数を整えるべきと判断しました」
とルージェナが簡潔に説明を伝えた。

「ふん、あんたには聞いてないけどね。
まあ、いいわ。ギルドから別の冒険者を向かわせるわ」
と居丈高に受付が答えた。

「ふがふが、ありがとうございます」
何とかお礼を言う九之池。

受付の女性は、気味悪そうに九之池を
一瞥し、ルージェナに
「あんたさぁ、なんでこれとつるんでいるの？
もっと別のチームでもやっていけそうじゃない？」
ルージェナは軽く会釈して、九之池と受付を後にした。

10日ほど経つと、派遣された冒険者たちの
死亡が伝えられた。

シリア卿は、邸宅の執務室でヘーグマンを
相手に九之池を罵っていた。
「あれは、俺をどこまで苦しめる気だ！
厄介事ばかり持ち込みやがって。
訳の分からない廃村の魔獣討伐だと？
今はそれどころでないのが
あのバカ伯爵には、分からないのかっ」

死亡した冒険者は、シリア卿と
折り合いの悪いある伯爵のお抱えだった。
依頼を放置して、逃げ帰った召喚者の監督者である
シリア卿の揚げ足を取るつもりが、
逆に死亡してしまった。
物笑いの種となってしまい、逆上した伯爵が
取り巻きとシリア卿を王宮で囲み、彼に難癖をつけた。
そのことが大公の耳に入り、召喚者に
解決させるように勅命が下った。

「シリア卿、亡くなった冒険者たちは、
評判はあまりよろしくありませんでしたが、
実力は一流でしたぞ。
それに派遣されたのは、3チーム合計17人です。
聞き及ぶ範囲では、それなりの実力者たちです。
九之池殿とルージェナの二人では荷が重いかと」
とヘーグマンはシリア卿を落ち着かせるように
ゆっくりと話した。

「ふん、奴が集めた冒険者だろうが。
報酬の分配をめぐって殺し合いでもしたんだろうよ。
確か九之池のチームは、黒豚だったか？
奴に人員を集めさせる。いいな？」
己の意見に若干の不安を抱えつつ、
ヘーグマンに今後の方針を伝えた。

「はい、よろしいかと。
私も同行をいたしましょうか？」
とヘーグマンが言うと、

「おいおい、我が伯爵家の最高軍事顧問が
するようなことではないだろう。
それに奴がリーダだとすると、黒豚がチーム名？
ヘーグマンをそんなバカげたチームに
入れさせる訳にはいかないだろう」
と一笑に付した。

「いえいえ、私も参加することで、
周囲へシリア様のこの件に関する意気込みが
伝わるのは決して、悪いことではございません」
とヘーグマンが説明をした。

「ふむ、それもそうだな。
では豚を呼べ。指示を出す」
とシリア卿が九之池を呼びつけた。

数分後、呼びつけられた九之池とルージェナが
畏まった雰囲気でシリア卿の前に立っていた。