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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編
夜の約束(稲生)
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エイヤより、伝えられた稲生の任務に
ついて、リンは激怒して、彼に暴言を吐いた。
聞く耳を持たぬリンの口撃にエイヤは辟易した。
エイヤが執政官からの直々の命と言うことを
前面に押し出したことで、
稲生は任務を受けざるを得なかった。
無論、断れば、俸給が停止されるという
切実な問題を突きつけられたためでもあったが。
稲生がリンを何とか落ち着かせ、
殊勝な態度で任務を拝命したために、
エイヤはリンの暴言の数々を聞かなかったことにして、
彼等の屋敷を後にした。
子供たちは、リンのピリピリした雰囲気を
恐れて近づかず、かといって、
普段からは考えられないリンの雰囲気に
心配で外へ遊びにも行かずに部屋で大人しく、
過ごしていた。
その夜、子供たちを稲生が寝かしつけてから、
稲生は、ベッドでリンの横へ座って、話しかけた。
「リン、仕方ありません。俸給が止まるとなると、
貯えもほとんどありませんから、
子供たちが苦労してしまいます。
私の場合、戦場でなく、九之池さんや才籐さんからの
情報収集ですから、それほどの危険は伴いませんよ」
と言って、リンのダークグリーンの髪を撫でた。
「稲生は弱いから、道中に盗賊が出たら、
どうするのよ?
それにあの稲生はかっこいいし、もてるから」
とリンが最後の言葉を濁すように言った。
気のせいか、顔がほのかに赤いように稲生は思った。
稲生は、つい、噴出してしまった。
そして、リンを安心させるように断言した。
「確かにここ最近、治安が若干、
悪くなっているような気がしますが、
十分な準備をしますので、心配しないでください。
幾つかの魔術を魔晶に封印して貰います。
リン、協力をお願います。
子供たちのこともお願いします。
それとですが、、、まあ、前の世界もですが、
女性にもてないことはリンも
良く知っているでしょう」
と若干、憂いを帯びた表情で稲生が答えた。
「それは稲生が異性からの好意に
気づいていないからだよ。
結構、評判はいいよ」
と面白くなさそうにリンが言った。
「うーん、困りましたね。
必ず戻ってきますし、信じてください」
と稲生は真摯な眼差しでリンの瞳を見つめた。
見つめられたリンは不貞腐れたような表情で、
「こんなことなら、研究とか開発に
お金を使わずに貯めておけば良かった」
と言った。
稲生は軽く、リンを抱きしめると、
「確かにお金で拘束されるとは思いも
しませんでしたが、あれらの研究や開発は、
将来、必ず役に立ちますから、継続してください」
と言って、微笑んだ。
リンは不安をかき消すようにぎゅーと
強く稲生を抱きしめ返した。
稲生とアルバンの二人は、キリア王朝と
バルザース帝国の国境沿いにいた。
王都からここまでの旅路で、稲生は想像以上に
街道を覆う雰囲気が暗いことに驚いていた。
「暗い噂がどうも蔓延していますね。
根も葉もない噂でないところに悪意を感じますね。
アルバンどう思う?」
リンがアルバンを稲生の護衛にと譲らず、
同行する事になったアルバンであったが、
意外に旅を楽しんでいるようだった。
「そうですね。確かに作為的な感じはします。
どうも悪い方へ誘導されている気がします」
とアルバンも賛同した。
同じ場所で起きた事件の話であっても
「魔物が現れて、人々を襲っていた。
多くのけが人が出た」と
「魔物が現れて、人々を襲っていた。
しかし、王朝の将軍が倒した」
では、人々の印象が変わる。
どちらも事実だが、稲生の耳に入った噂は、
圧倒的に前者のようなものが多かった。
「内政のことに思いを巡らしても仕方ありません。
執政官殿の手腕に期待するしかありませんね。
次の町に宿泊して、帝都を目指しましょう」
と稲生が言うと、アルバンは久々の宿が
嬉しいのかにこりと笑って、
「了解いたしました」と言った。
ついて、リンは激怒して、彼に暴言を吐いた。
聞く耳を持たぬリンの口撃にエイヤは辟易した。
エイヤが執政官からの直々の命と言うことを
前面に押し出したことで、
稲生は任務を受けざるを得なかった。
無論、断れば、俸給が停止されるという
切実な問題を突きつけられたためでもあったが。
稲生がリンを何とか落ち着かせ、
殊勝な態度で任務を拝命したために、
エイヤはリンの暴言の数々を聞かなかったことにして、
彼等の屋敷を後にした。
子供たちは、リンのピリピリした雰囲気を
恐れて近づかず、かといって、
普段からは考えられないリンの雰囲気に
心配で外へ遊びにも行かずに部屋で大人しく、
過ごしていた。
その夜、子供たちを稲生が寝かしつけてから、
稲生は、ベッドでリンの横へ座って、話しかけた。
「リン、仕方ありません。俸給が止まるとなると、
貯えもほとんどありませんから、
子供たちが苦労してしまいます。
私の場合、戦場でなく、九之池さんや才籐さんからの
情報収集ですから、それほどの危険は伴いませんよ」
と言って、リンのダークグリーンの髪を撫でた。
「稲生は弱いから、道中に盗賊が出たら、
どうするのよ?
それにあの稲生はかっこいいし、もてるから」
とリンが最後の言葉を濁すように言った。
気のせいか、顔がほのかに赤いように稲生は思った。
稲生は、つい、噴出してしまった。
そして、リンを安心させるように断言した。
「確かにここ最近、治安が若干、
悪くなっているような気がしますが、
十分な準備をしますので、心配しないでください。
幾つかの魔術を魔晶に封印して貰います。
リン、協力をお願います。
子供たちのこともお願いします。
それとですが、、、まあ、前の世界もですが、
女性にもてないことはリンも
良く知っているでしょう」
と若干、憂いを帯びた表情で稲生が答えた。
「それは稲生が異性からの好意に
気づいていないからだよ。
結構、評判はいいよ」
と面白くなさそうにリンが言った。
「うーん、困りましたね。
必ず戻ってきますし、信じてください」
と稲生は真摯な眼差しでリンの瞳を見つめた。
見つめられたリンは不貞腐れたような表情で、
「こんなことなら、研究とか開発に
お金を使わずに貯めておけば良かった」
と言った。
稲生は軽く、リンを抱きしめると、
「確かにお金で拘束されるとは思いも
しませんでしたが、あれらの研究や開発は、
将来、必ず役に立ちますから、継続してください」
と言って、微笑んだ。
リンは不安をかき消すようにぎゅーと
強く稲生を抱きしめ返した。
稲生とアルバンの二人は、キリア王朝と
バルザース帝国の国境沿いにいた。
王都からここまでの旅路で、稲生は想像以上に
街道を覆う雰囲気が暗いことに驚いていた。
「暗い噂がどうも蔓延していますね。
根も葉もない噂でないところに悪意を感じますね。
アルバンどう思う?」
リンがアルバンを稲生の護衛にと譲らず、
同行する事になったアルバンであったが、
意外に旅を楽しんでいるようだった。
「そうですね。確かに作為的な感じはします。
どうも悪い方へ誘導されている気がします」
とアルバンも賛同した。
同じ場所で起きた事件の話であっても
「魔物が現れて、人々を襲っていた。
多くのけが人が出た」と
「魔物が現れて、人々を襲っていた。
しかし、王朝の将軍が倒した」
では、人々の印象が変わる。
どちらも事実だが、稲生の耳に入った噂は、
圧倒的に前者のようなものが多かった。
「内政のことに思いを巡らしても仕方ありません。
執政官殿の手腕に期待するしかありませんね。
次の町に宿泊して、帝都を目指しましょう」
と稲生が言うと、アルバンは久々の宿が
嬉しいのかにこりと笑って、
「了解いたしました」と言った。
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