起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

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森の獣 3章 諸国動乱の刻。暗躍する者たち編

会戦(才籐)

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バルザース帝国本陣に諸将が集合していた。

「これは、嵌められたかもしれませんね」
と冷静な口調で皇子が隣にいる才籐に話かけた。

才籐は、戦の陣について素養がほとんどないため、
どこに問題があるかよく理解できず、
適当に頷くしかなかった。
素人目には、ほぼ倍に近い兵力で
レズェエフ王国の軍を囲むように
展開しているバルザース帝国が
有利なように才籐には思えた。

「ふむ、釈然としないようですね。
一見、レズェエフの軍を包囲殲滅せんとしているように
見えますが、帝国軍が意図してとった陣ではありません。
小さい戦闘を繰り返し行っていた過程で
お互いの本軍が相まみえた時、再編成を行う時間を
レズェエフが与えずに突出してきましたから」
と皇子が説明すると、バルザース帝国の誇る
帝国騎兵団の一翼を担う将軍が補足した。

「左右のバランスが悪い、左軍の数と質が著しく劣る。
レズェエフの意図は、中央をいかに
薄くすることであったのだろう。
そして、今のところ、それは成功している」

才籐は、馬上から肥沃な大地を見渡して、
ため息をついて、言った。
「やつらが派手に略奪やら虐殺を
したのもそのためか。やり方がきにいらねーな」

「やり方はどうあれ、いまのところ奴らの策に
上手く乗せられた。奴らの狙いは一つ。
帝国騎兵団の象徴たる皇子の首だ」
と将軍が断言した。
そう言った将軍の顔が怒りに満ちていた。
いかに小細工を弄すとも騎兵団を粉砕して、
皇子を討つなど、弱将・弱卒のレズェエフ王国に
舐められたとしか思えないのだろう。

「将軍、落ち着きない。何かしらあるのでしょうね。
我々を粉砕できる策か勇将がいるのでしょう」
と皇子は、レズェエフ王国の軍を見つめてそう言った。

才籐は、そんな皇子を見て、
この男に隙なく驕りなしと思い、少し安心した。

「バクティン将軍、先陣を命ずる。
全速前進でレズェエフの出鼻をくじきなさい」
大柄の男が目礼をすると、本陣を後にした。

「レズェエフの主力は湿地や沼地を
得意とする蜥蜴に騎乗した兵でしたね。
この平地では十分な力は発揮できませぬ。
そして、この気温、蜥蜴にはつらいことですね。
兵より先にばてそうですな」
と宮廷魔術師第4席の地位にあるヴェンツが評した。

ヴェンツの物言いに幾人かの将軍格の者たちが笑っていた。
皇子は鋭い視線をヴェンツに送り、無言で黙らせた。
笑っていた者たちも黙った。

「そろそろ、バクティン将軍が動きます。
遠距離による攻撃は必要ありません。
レズェエフの前線は粉砕されるでしょう。
後に続きなさい。
ヴェンツ、左翼と右翼にレズェエフの側面を
突くよう伝令を。
正面は我が軍の方が薄いがレズェエフの動きが止まれば、
包囲殲滅できるでしょう」
と言って、一息つくと、皇子は続けた。

「では、私も出ます。ヴェンツ、本陣を頼みます。
才籐さんは、後詰にまわってください」

才籐はこの言葉を聞いて、内心安心して、
粛々と従った。皇子を中心に各軍が動き始めた。

本陣から主だった将軍が去ると、ヴェンツは、
「レズェエフどもは一体、何を考えて、
こんな戦を始めたんだ。ったく」
とぐちぐちと愚痴をこぼし始めていた。

 才籐は主戦場となる方に目を凝らしていた。
大地を震わす馬蹄の響き以外、聞こえる音はなく、
戦端はまだ、開かれていないようだった。
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