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森の獣 外伝"才籐さんの何気ない一日"
夕方
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「わかった、わかった。それで、
今日はどんな用件で来たのだ?」
ビルギットが興奮する才籐をなだめる様に優しく言うと、
「いや、今日は用件というか。
そう、今日、皇子と手合わせしたんだけど、
互角とは言えないけど、かなりいい線いってたぜ」
と自慢げに話す才籐だった。
その言葉に胡散臭げな視線を送るビルギット。
おもむろに立ち上がると、薄暗い店の中を
静かな足取りで才籐の方に向かい、トンと身体預けた。
「えっと、ビルギットさん?」
突然の行為に戸惑う才籐だったが、
何とか右腕を彼女の背中に回して、抱きしめる。
「ふっ」
そんな声が愛おしいと思えるエルフの
口から聞こえた。
そして、脇腹辺りを透き通るような白く綺麗な拳が
軽く何度も小突いた。
そして、男は、その場で跪いた。
「ふう、才籐。嘘をつくなら
もう少しましな嘘をつけ。
虚勢を張る必要はない。
まあ、確かに手合わせの後で、
ここに歩いて来られるようなら、
少しは成長したのだろう」
とにまにましながら、ビルギットが言った。
「ううっ、ビルギットさん。
痛みを和らげる魔石か薬草を売ってください」
と痛みに顔を歪めて、懇願した。
ビルギットは、その場にただづむ才籐の服を
託しあげて、暗がりのなかでも
はっきりとわかるくらいの青あざに
すり潰されている薬草を塗りつけた。
「ぐうううぅー」
と痛みに耐えられず苦悶の呻きをあげる才籐だった。
「この程度で、しっかりせぬか。
痛みを和らげる効果も含まれているから、
効くまで少しその場で我慢しなよ。
まあ、今まで比べたら、確かに打ち込まれた数も
減っているようだな」
容赦なく患部に薬草を
力強く塗りつけるビルギットであった。
しばらくすると、才籐は立ち上がり、
「ありがとな、ビルギット」
と礼を伝えて、話を続けた。
「皇子から聞いたんだけど、
レズェエフ王国との戦が結構な規模に
なるってことらしいけど、何か聞いている?」
「うーむ、噂程度にはな。
大手の魔術屋に相当な数の魔石発注があったそうだ」
と同業の繁盛をうらやむエルフだった。
「ビルギットが懇意としている貴族から
特に何もない?」
「ふん、あのぼんくらどもは、
貴婦人がたを喜ばせるような魔石くらいしか発注せぬよ。
まあ、皇子がかなり高額になる魔石を
発注してきたから、噂は本当なのだろうな。
才籐、出征するのか」
若干の憂いを込めた表情でビルギットが尋ねた。
その表情に見惚れていた才籐は慌てて、
「さあな。でも皇子は、召集がかかるようなことを
匂わせていたから、出征することになるんじゃね?」
と答えた。
才籐は、念ために幾つかの魔石を発注して、
ビルギットを夕食に誘うが、製作が忙しいらしく、
断られてしまった。
だらだらとビルギットの店で過ごすつもりだったが、
製作の邪魔と店を追い出されてしまった。
その後、ドアにクローズの札が掲げられていた。
陽は傾き始めたとは言え、まだまだ、明るく、
才籐は宿舎に戻り少し遅い昼寝をすることにした。
今日はどんな用件で来たのだ?」
ビルギットが興奮する才籐をなだめる様に優しく言うと、
「いや、今日は用件というか。
そう、今日、皇子と手合わせしたんだけど、
互角とは言えないけど、かなりいい線いってたぜ」
と自慢げに話す才籐だった。
その言葉に胡散臭げな視線を送るビルギット。
おもむろに立ち上がると、薄暗い店の中を
静かな足取りで才籐の方に向かい、トンと身体預けた。
「えっと、ビルギットさん?」
突然の行為に戸惑う才籐だったが、
何とか右腕を彼女の背中に回して、抱きしめる。
「ふっ」
そんな声が愛おしいと思えるエルフの
口から聞こえた。
そして、脇腹辺りを透き通るような白く綺麗な拳が
軽く何度も小突いた。
そして、男は、その場で跪いた。
「ふう、才籐。嘘をつくなら
もう少しましな嘘をつけ。
虚勢を張る必要はない。
まあ、確かに手合わせの後で、
ここに歩いて来られるようなら、
少しは成長したのだろう」
とにまにましながら、ビルギットが言った。
「ううっ、ビルギットさん。
痛みを和らげる魔石か薬草を売ってください」
と痛みに顔を歪めて、懇願した。
ビルギットは、その場にただづむ才籐の服を
託しあげて、暗がりのなかでも
はっきりとわかるくらいの青あざに
すり潰されている薬草を塗りつけた。
「ぐうううぅー」
と痛みに耐えられず苦悶の呻きをあげる才籐だった。
「この程度で、しっかりせぬか。
痛みを和らげる効果も含まれているから、
効くまで少しその場で我慢しなよ。
まあ、今まで比べたら、確かに打ち込まれた数も
減っているようだな」
容赦なく患部に薬草を
力強く塗りつけるビルギットであった。
しばらくすると、才籐は立ち上がり、
「ありがとな、ビルギット」
と礼を伝えて、話を続けた。
「皇子から聞いたんだけど、
レズェエフ王国との戦が結構な規模に
なるってことらしいけど、何か聞いている?」
「うーむ、噂程度にはな。
大手の魔術屋に相当な数の魔石発注があったそうだ」
と同業の繁盛をうらやむエルフだった。
「ビルギットが懇意としている貴族から
特に何もない?」
「ふん、あのぼんくらどもは、
貴婦人がたを喜ばせるような魔石くらいしか発注せぬよ。
まあ、皇子がかなり高額になる魔石を
発注してきたから、噂は本当なのだろうな。
才籐、出征するのか」
若干の憂いを込めた表情でビルギットが尋ねた。
その表情に見惚れていた才籐は慌てて、
「さあな。でも皇子は、召集がかかるようなことを
匂わせていたから、出征することになるんじゃね?」
と答えた。
才籐は、念ために幾つかの魔石を発注して、
ビルギットを夕食に誘うが、製作が忙しいらしく、
断られてしまった。
だらだらとビルギットの店で過ごすつもりだったが、
製作の邪魔と店を追い出されてしまった。
その後、ドアにクローズの札が掲げられていた。
陽は傾き始めたとは言え、まだまだ、明るく、
才籐は宿舎に戻り少し遅い昼寝をすることにした。
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