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森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

バルザース帝国、再び

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バルザース帝国の帝都に到着すると、
才籐は、開口一番で
「ふう、やっと野営の拙い飯から解放されるっ!
おっさん、今夜は呑みに行くぞ」
と言った。

「駄目です。少なくとも明後日の夜まで、
あなたにはそんな余裕はないでしょう」
と才籐の後方から、冷酷な声が聞こえてきた。

「司祭、そりゃないだろうよ。
報告会は、明後日だろう」
と才籐は司祭の意見に異を唱えた。

「今日からの報告会に備えなさい」
とにべもない返事をする司祭だった。
才籐は諦めたのか、何も言わずに馬を
進めているが、彼から漂う雰囲気には、
不満がだだ洩れだった。

宿に到着し、メープルと才籐と別れた。
彼らにも事務処理や報告等があるため、
再び、会うのは少なくとも明後日、
以降になるようだった。

「さてと、今回はここに長期逗留する必要がないな。
前回の事件に関しては、渉外担当が
既に終わらせているし、あの二人に挨拶を
済まして、ベルトゥル公国へ向かう。どうだ?」
とエドゥアールが宿の応接間で予定を話した。

「ふうううううぅぅぅ、エドゥアールさん?
それでは私が報告の内容を纏める時間が
あまり取れなさそうではありませんか?
そもそもどのくらいのここへ
逗留する予定ですか?」
と九之池が不満を伝えると、エドゥアールは、
「まてまて、おまえは、ここまでの旅路で
まったく纏めていないのか?
まっまさか、馬車の後方で
ゴロゴロしていただけなのか?」
その後、ぶつぶつとあり得ないあり得ないと
連呼ししていた。

「まあ、次の準備も含めて
7日ほど滞在しましょうよ」
と九之池が主張すると、

「そうですな、そのくらいが妥当なところでしょう」
とヘーグマンが賛成した。

「まっまあ、そのくらいなら、納得の範囲内だな。
おまえのことだから、30日とか
言いそうだったからな。
なら、明後日の朝にお前の報告を聞くとしようか。
ルージェナ、悪いが、手伝ってやってくれ。
明後日まで、各自で過ごすでいいな」
と言い、エドゥアールは部屋に向かった。

「ふむ、ではわたくしも部屋で
休ませて貰いましょうかな。
明日は、エドゥアールと共にベルトゥル公国の
出張所に顔を出してきますので」
と言って、ヘーグマンも部屋に戻った。

「九之池さん、どうしますか?」
とルージェナが尋ねた。
この国には特に知人や友人が居る訳でもなく、
九之池も部屋でごろごろしようと考えていると、
「もし、お時間があるのでしたら、
ビルギットさんのお店に行ってみませんか?」
とルージェナが誘った。

部屋でごろごろ過ごすのも魅力的だったが、
九之池は、数少ない知人に旅の無事を
報告するのもいいかなと思い、了解した。
若干だが、社会性がこの旅で成長した九之池だった。

「うーん、思ったより歩くなあ。
こんなに遠かったっけ?」
と人ごみの多さに辟易して、不満を
だらだらと述べていた。
ニッポンにいた頃から、人混みは
なるべく避ける様にしていた九之池には、
この賑わいで溢れている市場を歩くことは苦痛であった。

「この時間帯ですと、人が多いために
自分のペースで歩けないから、余計に疲れますよね」
とルージェナが九之池の意見に賛同した。

市場の賑わいを抜け、閑散とした雰囲気の
街並みの一角に相変わらず暗い雰囲気で
来訪者を拒絶するかのようなドアの店があった。
そして、何故かその雰囲気に反して、
賑やかというか、罵り合いというか、
そんな会話が店外まで聞こえてきた。

「だーかーらー、なんで毎度毎度、値上げする訳?」

「ふむ、それはだな、君の成長を
思ってのことなのだよ」

「違うだろうがぁー絶対に前回の探索で
金欠になったからだろう」

「あの魔石を使っている限り、
武術の幅が広がらぬだろう。
才籐、お主がそれに頼らぬように
心で泣きながら、この金額を
提示しているのだよ」

「まてまて、今、ニヤッとしたよな?
絶対、にやりとしたよな」

「お客様、ご依頼をしないのであれば、
出て行って頂けませんか?営業の邪魔っ」

店の外でその会話を聞いている二人は、
入店するタイミングを逸してしまい、
顔を見合わせていた。

「九之池さん、どうしよう。
私、あんまりお金を持ってきていませんよ」
とルージェナがお金の心配をする。

「いや、僕も今回は貸せる余裕はないよ。
ベルトゥル公国に戻ったら、
また、ギルドのミッションで稼がないと」
と困ったような顔で九之池が言った。

「とりあえず、入店しましょうか」
とルージェナがドアを開けた。

「才藤さんは、ビルギットさんが相当、
好きなんですね。
帰国後、直ぐに顔を出すとか、凄いんぁ」
と九之池がルージェナに話しかけると、
「でも話をしているのが、値引き交渉のですと、
その気持ちも伝わりにくいかもしれませんね」
とくすりと笑うルージェナだった。

九之池はうんうんと頷いて、
ルージェナの後に続いて、入店した。
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