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森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

会見完了

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 予定より2日ほど長く九之池たちは
稲生と面会をした。
メープルが誰よりもご機嫌だったことは
言うまでもないが、九之池もまた、
さほど苦痛には感じなかった。

「才藤さんも言うほど、あれですね、
稲生さんのことを嫌っていませんよね」
と九之池が言うと、

「けっ、あの野郎、ちょっと早くこの世界に
召喚されて、『森の獣』を討伐したからって、
少し調子にのり過ぎで、俺にあーだこーだー言うから、
むかつくんだよ」
と不貞腐れたように言った。
他にも何か隠しているようだったが、
九之池は面倒事に巻き込まれるのは
苦手なため黙っていた。

「まあ、しかし、稲生さんは、
本当に冒険者になるんですかね」
と九之池が別の話題を振ると、

「ないない、絶対にない。
リンさんが稲生と離れて過ごすとかあり得ないから。
大変だったんだぞ、以前、稲生と司祭の逢引疑惑が
持ち上がった時、リンさん、衰弱で死にそうに
なってたんだからな。
冒険者なんて、どこぞで野垂れ死にしても
おかしくないようなことを稲生が始めたら、
気が気でなくて、生活できなくなるわ」
と才籐が言った。

 あのダークグリーンの髪と瞳、
そして、すらりとした肢体の魅力的な女性に
そこまで愛される稲生に一体、
どういう魅力があるのか皆目見当もつかぬ九之池だった。

「それより、おっさん、これからどうするの?
リンさんの言っていたこともあるだろうしな」
と才籐が尋ねた。

「うーん、どうしよう。本当に老公の魂が
不死を求めて、彷徨っているとか言われてもね。
あのもどきがその手下って話でしょ?なくない?
それにルージェナのこともあるし、
面倒事はあまり関わりたくないな」
と率直な感想を述べた。

「っても老公の器に見合う魔物ってか
化け物が棲んでいるのは、おっさんだけじゃん。
俺や稲生は、しょぼいから、大丈夫そうだし。
気儘にしていても訳わかんねえ技能者が
接触してくるんじゃね」

「まあ、なるようになりますよ。
それより、ルージェナの血脈を残さないと。
炎の魔術でもかなり特異なものらしいからね」
と九之池がどうしたもんかなとため息をついた。

「はあぁ?おっさん、しっかりしろよ」
と言って、部屋に戻っていた。

その頃、稲生とリンは、寝室で
九之池について話していた。

「稲生、九之池に棲んでいる化け物あれは、
何と呼ばれているんだ?」

「鬼といいます。妖怪の中でも非常に強い力を持ち、
地位も高いです。
彼の先祖のどこかで、人と交わったのでしょうね。
彼の内に潜むあの力は、老公の器に足るに十分でしょうか?」
と稲生は尋ねた。

「十分だな。しかし、年齢と容姿が老公の好みに
合わぬだろうよ。
あの3人のエンジニアがそこまで考慮するとは思えぬ」
とリンが言うと、

「そうですか、そうなりますと、彼ら3人と
接触するには九之池と行動を共にした方がいいでしょう。
冒険者として、彼にしばらくついて行きます」
と稲生が意見を言うと、

「やだ、だめ、絶対だめ。却下、以上」
と物凄い真剣な表情でリンが言った。

「リン、それでは話が進みませんよ」
と稲生が諭すように言った。

「絶対にダメー。2人の子供が可愛くないの?
それに私もっ!メープルに任せとけばいいの。
それにメリアムさんに伝えれば、
上手くやってくれるはず。
あの土いじりはどうするのよ」
と駄々をこねるリン。

「あれは、大丈夫ですよ。
指示をアルバンに出しておきますから」
と稲生が優しく言うと、

「メープルと逢引するつもりでしょ。そうでしょ。
九之池さんどうこうは、単にあの一行に
ついて行く理由でしょ」
と不貞腐れて、とんでもないことを
主張しだすリンだった。

「あまり困らせないでください、リン」
と困ったように言う稲生。

「じゃあ、行かないでよ」
とぶすっと返すリン。

「わかりました、わかりました。
では、メリアムさんに連絡を取っておきましょう。
確かに私では、荒事が生じても
九之池さんの役に立てそうにありませんからね」
と言ってリンの頭を撫でた。
出会った頃から、あまり変わらぬ二人であった。
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