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森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

過熱する議論

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 特に誰にも見送られるわけでもなく、
九之池一行は、帝都を後にした。
向かう先は、キリア王朝。
これといった重要な目的が
あるわけではなかったが、
この世界の旅は常に危険を伴っていた。

「このまま何事もなく、
到着するといいのですけどねぇ」
と馬車の後方でルージェナに話しかける九之池だった。

「そうですね。依頼を受けたとはいえ、
できればあの妖精もどきにはなるべく
関わり合いたくないですよね。
素材の得ることができる魔獣あたりがたまに
出る程度ですと助かります」
とルージェナが答えた。

 九之池が馬車から外を見ると、
才籐が馬を中々、巧みに操っていた。
メープルは、胸をゆらしながら、
馬を走らせていた。
時節、才籐がメープルを盗み見しているのか、
頭が前方から左側のほうへ動いていた。

小休止に入ったとき、才籐がめずらしく、
真面目に話し掛けてきた。
「おっさん、ここまでの旅で
いくつかの村や町を経由してきたけど、
なんか雰囲気がどもこ悪くね?」

「うーん、感じが悪いというか、
なんというか、こう不満が溜まっているというか。
活気に満ちているとか、ほのぼのしているような
感じじゃないですよね」

「そう、なんか明確に悪いって感じじゃなくて、
ちょっとした不満が重なって、
不機嫌になっているって感じか」
と才籐が付け加えた。

「あっ分かります。なんというか喉の奥に魚の骨が
刺さったような、むず痒いようなのが
積み重なったいいようのない気持ち悪さ。
どうもイライラしている人や
むすっとしている人が多かったですよね」
とルージェナも感想を述べた。

「この街道沿いはどこもそんな感じですね。
次の町で少し詳しく状況を確認しましょう」
とメープルが言った。

 街に到着すると、やはり、人々の雰囲気が
総じてあまり良くなかった。

「なあ、司祭、なんか帝都のお偉いさんが
税率を上げたとか、賦役を突然、
課したとかない?」
と才籐がメープルに尋ねた。

「いえ、私の知る限りではそう言うことは、
聞いておりませんが。
それに現在の帝は、武に偏っているとはいえ、
そのような愚かなことを
許す人物ではありませんよ」
とメープルがはっきりと答えた。

「まっ確かにあの帝は、そんなんを
許すような感じじゃねーよな。
となるとこの微妙な雰囲気はなんなんだろうな」
と才籐が疑問をていした。

「才藤さん、それに気のせいか、
帝都から離れれば、離れるほど、
雰囲気が悪くなってきてません?」
と九之池が言うと、

「九之池が気付くくらいなら、
みんな気づいているだろうよ。
いつ頃からこんな感じかわからないが、
我が国から帝都の間ではこんなことはなかったな」
とエドゥアールが言った。

つまり、帝都からキリア王朝に近づくにつれて、
雰囲気が悪くなっているということであった。

「キリアが何かしらの干渉をしていると?
まー無いわな。確かにあの国には、
強烈な神象兵器と武将がいるけど、それだけだな。
兵数と国力が違いすぎるわ。
確か今は、和平を結んでいるはずだぞ」
と才籐が言った。

「才藤さんはキリアと矛を
交えたことがおありなのですかな?」
ヘーグマンが尋ねた。

「あるよ。小規模な戦だけどね。
国境線のありがちな紛争だよ。
神象兵器の武具の使い手が
参陣してきた時点で、戦は終いになったけどね」

「へえぇー神象兵器ですか!
なんか魔法の武器みたいですね。
なんか付与されてそう。
ヘーグマンさんの大剣のようなもですかね」
と九之池が興味を示した。

「太古の神々の武具を象形した精製されたもの、
今の技術では再現できない神秘の武具です。
私の大剣より格はおそらく上でしょう」
とヘーグマンが説明すると、
九之池はそのファンタジー的な説明に
大いに感動したのか、
「是非とも拝見したいですね。
できれば、僕もそんな由来のある武器か
防具が欲しいもです」
と言った。

「ってかこのメンバーでも
かなりの武具が揃っているじゃん。
司祭の右腕、ヘーグマンさんの大剣、
ルージェナのイヤリング。
ここまで武具が充実しているグループも
なかなかないんじゃね」
と才籐。

「しかし、伝説の武具と比較するとやはりな。
噂ではよく聞くが、実際はどの程度のものなのだろうか」
とエドゥアール。
「実際に司祭は見たことあるんだろ?
どうだった?」
と横道に逸れた会話が続いていた。

「すみません、その結局のところ、
この町で何かの調べ事をするのでしょうか?」
とルージェナが恐る恐る高名な武器について
熱く語り合う男どもとエドゥアールに話しかけた。

「えっ、調査?とりあえず、宿に泊まって、
まったりしてから考えようよ。
あまりこの旅の目的と関係ないし」
と今の会話にそうとう熱がこもっていた九之池は、
当初の話をすっかりと忘れていた。
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