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森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

からーい

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 九之池は、ルージェナが宿に戻ると、
一緒に教団本部に向かった。
そして、食堂のテーブルの上の毒々しい赤みを
帯びた魚に出会った。
鼻をつく香辛料の香り、
これは唐辛子のようなもので味付けしているに違いない。

「あのメープルさん、
これって物凄く辛いやつでは?」
九之池が恐る恐る尋ねた。

「そうですよ。魚全般は
こうやって味付けします。
臭みと魚に付着する呪いを
逃散させるためです。
どうぞ、頂いてください」
自信にありげに話すメープルであった。

おそらく魚の呪いとは、微生物や虫のことであろう。
昔からの知恵というやつかなと九之池は予想した。
しかし、見るからに辛そうなこの匂い、
ルージェナは大丈夫なのだろうかとチラ見すると、
何ともなさそうな感じで見ていた。

「こちらでは、結構、辛くするんですね。
ちょっとびっくりしましが、美味しそうですね」
とルージェナが話した。

メープルが各皿に取り分け、
九之池は恐る恐る口に含んだ。
むっ、むっむっ、水が欲しいが言葉にならない。
辛いというより、痛い。
味覚というより、痛覚を
刺激されているような気がしてならなかった。
隣を見るとルージェナも同じように
むーむーと可愛らしく鳴いている。
メープルは二人を不思議そうに見て、
特に何も言わずにむしゃむしゃと食べていた。

一人の司祭らしき女性が無言で
二人に水の入ったコップを手渡してくれた。

「ううっ、からひー。無理ぽ」
「メープルさん、辛すぎます」
二人は、お礼も言わずにまず、感想を叫んだ。

「えっ、そうですか?そうなんでしょうか?
どうも才籐と同じリアクションですね。
アルコールとの相性なんて、すごくいいのに」
とメープルが言うと、
「メープル、他国の方に振舞うときは、
辛さを抑えろといつも言っているだろうに、ったく」
と司祭らしき女性が言った。

「お水、どもです」
と九之池。
「ありがとうございます、助かりました」
とルージェナ。

「お言葉ですが、ルナリオン様、
我が国の食文化の一端を召喚者様に
味わって頂くのも大切な事では?」
とメープルが言うと、
「それで、不快感を持たれたら、困るだろうよ。
少し食べやすくしてはと言っているのだよ」
とデリアが言った。そして、続けた。
「ルナリオン・デリアと言います。
バルザース帝国アンカシオン教の
教区長をしています」

「九之池と言います。ベルトゥル公国からキリアへ向かう途中です」
とりあえず、九之池は挨拶をした。
「ルージェナ・ダルフォンソです。
九之池さんの従者として、この旅に同行しています」
ルージェナは若干、緊張気味に答えた。
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