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森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

のほほんと考える

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ヘーグマンがあと少しで帝都に到着すると、
九之池に声をかけてきた。
「まず、アンカシオン教の本部に向かいます。
ここの本部に接点を持っておくことは、九之池さんに損はないでしょう」 

何かと声をかけてくれるヘーグマンの言葉に
九之池は「はい」と返事をした。

ルージェナの左肩も随分と良くなり、
最近は自分で薬を塗れるくらいに回復していた。
そのことを九之池は残念に思った。
ルージェナの治療を通じて、
自分の持つ「無の境地」のスキルを思い出し、
何かに活用できないかたまに考えていた。

帝都は高い城壁と水堀に街全体が囲まれていた。
水堀の水はゆったりと流れており、水は濁っていなかった。

「でかっ!なにこれでかっ!
公都よりめっちゃでなくない?」
とルージェナに話しかけた。
「それはそうですよ。バルザース帝国は大国ですから。
大国はどこもこんな感じですよ」
とにこやかに答えた。

「うん、水攻めだ!周りを堤防で囲んで
水を際限なく水堀に送れば、自然に降伏するね」
と自慢げに昔、どこかで聞いたような話を
ルージェナに話した。

前から、罵声が飛んできた。
「あほう、堤防を作っている最中に城壁から、
攻撃されて、それどころではないわ。
それにこの広さを堤防で覆うとか、
一体、いくらかかると思っているんだ!
むしろ、水で囲うなら、兵で囲って
街の飢えを待つのと同じだろう」
エドゥアールが言った。

「うぐっ、確かに」
深く考えもせずに言ったことだったので、
九之池は反論できずに言葉に詰まった。

「発想は面白いですよね。
お金があれば、できそうですね。
寒い時期に水や氷を
得意とする魔術師を集めて、
雨がたくさんふれば、できるかもしれませんね」
とルージェナがフォローした。

「その発想で、老公の若かりし頃、
城を落城させていますよ。雨季の終わり際に
水で城を囲み、確か城壁の一部を破壊して、
城内に水を流入させました。
城内には死傷者が多く、暑い時期だったので、
城内で疫病が発生したようです。
開城したとき、城内は凄まじい臭気に
覆われていたようですよ。
あまりの惨状に老公もその戦術を使いませんし、
まねるものいないようですな」
とヘーグマンが補足した。

「それは疫病を誘発させるためにわざと、
城内に水を流し込んだのですか?」
と九之池が尋ねた。

「はて、それはわかりません。
餓死するか病死するかの状況のようでしたから。
ただ、そのとき、老公は、これは実験だと
言ったそうです」

九之池は老公と呼ばれた人物が
戦国時代の有名な戦術を魔術によって
再現したかったのだろうかと思った。
同時代の人間には、
実行できないことだろう。
多分、生まれ育った時代が
違うのだろうと思うことにした。
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