上 下
140 / 251
森の獣 2章 召喚されたけど、獣が討伐されていたので、やることないから、気ままに異世界を楽しんでみる

説教

しおりを挟む
 二人の野盗は、剣と槍でルージェナに襲いかかった。
ルージェナは彼らの攻撃を避けた。
九之池は、馬車より外の状況を呆然と眺めていた。
動けない。どうしても動けない。
ここが安全な訳ではないのに動けなかった。
ただただ、眺めているだけだった。

 「九之池さん、馬車に隠れください」
と野盗二人と対峙しているルージェナが叫んだ。
ルージェナが一瞬、九之池に目を取られた瞬間、
槍の先端がルージェナの左肩を突き刺した。

「よっしゃー!女、取った!」
と言って狂喜する野盗。
槍の穂先に即効性の毒でも塗ってあったのか、
その場にルージェナは、うずくまってしまった。
そして、そのルージェナのローブを掴み、
力任せに振り回して、地面に叩きつけた。
ルージェナの反応が鈍いと分かると野盗の二人は、
九之池の方に向かってきた。

ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、
九之池の頭の中がその光景を何度も再生していた。
立ち上がると、ころりと馬車より落ちた。
野盗は、九之池を蹴り上げて、反応を確かめた。
蹴られた九之池は、仰向けになった。
九之池の眼は、ルージェナを捉えていた。
「九之池さん、九之池さん、にげて」
絞り出すような声でルージェナが言いい、
そのまま、意識を失った。

その声が聞こえた九之池の中で何かが蠢いた。
そして、肌が鈍い赤銅色に変わりはじめ、
身体中に高い熱がこもり、頭に二本の角が生え始めていた。
九之池は、石を握り、すさまじい速度で、
弾ける様に立ち上がり、手に持った石を振り上げて、
野盗の頭をたたき割った。
もう一人の野盗が剣を振り上げた瞬間、
九之池は、石を投げつけた。
胸にこぶし大の穴が開いた野盗はそのまま、
倒れた。二人とも即死だった。
九之池は、ルージェナに近づき、
そのまま、力尽き、近くに倒れた。

大半の死傷者を出して、野盗の群れは、逃散した。

「やれやれ、暗いですが、あの二人を馬車に乗せて、
この場を離れますかな。
とりあえず、近くの検問所まで走りますかな。
エドゥアール、あの二人の介護を頼みます」
とヘーグマンは、言った。
「この連中はどうしますか?
まだ、息のある奴を連れて、事情を聴きだしますか?」

「無駄です。ここに残された連中は、
もはや回復の見込みはありません。
検問所の兵に事情を話して、
それなりの対応して頂きましょう」

「九之池のほうは、前に何度かこの状況を
見ているから、大丈夫かと思いますが、
こちらの娘の方は厄介ですね」
とルージェナを観察して、エドゥアールが言った。

「麻痺毒でしょう。捕まえて、売るなり、
楽しむなりを考えていたのでしょうな。
検問所で薬師に相談しましょう。
左肩の処置をよろしくお願いします」
と言って、ヘーグマンは、出発の準備を始めた。

翌日の5刻の頃に九之池は検問所の
ベッドで目が覚めた。
隣で苦しそうに寝ているルージェナが眼に入った。

九之池はその姿に眼を背け、頭を抱えていると、
ルージェナが絶え絶えに声をかけてきた。
「九之池さん、ごめんなさい。
また、たすけられちゃった。ごめんなさ」
と言って、苦しそうにまた、眼を閉じた。

九之池はその姿を見ていると、自分の弱さを
見せつけられているようで耐えられなくなり、
この部屋から逃げ出そうとした。
そして、ドアの方に目を向けるとヘーグマンがいた。

「逃げることはかないませぬ。
あなたの能力やひとなりは、我が公国の高官たちに
広く知られています。
公国初の召喚者として多くの高官に観察さているのですよ。
そして、無能で不必要と彼らは判断しています」

「ううっ」
としか九之池は言えなかった。

「大公は彼らの反対を押し切り、
今回の件を進めました。
そしてシリア様は、あなたが他の召喚者と
会うことで刺激を受けて、停滞している公国に
何かをもたらすことを期待しています」

「もしも逃げようとしたり、
期待に沿えなかったら?」
九之池は思い切って聞いてみた。

「私の判断で、あなたを倒します。
昨夜のあの異常な力を発揮されると私でなくば、
倒せないでしょうから。
それは、シリア様より仰せつかっていますので。
その年齢で変わるのは難しいでしょうが、
変わりなさい。
この世界であなたが逃げ出す場所などは
ないのですから」
諭すようにヘーグマンは、九之池に言った。

九之池は、ルージェナを見ながら、頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...