247 / 251
森の獣 1章 稲生編
獣の咆哮
しおりを挟む
「全軍、これより獣討伐に出陣する。
今回の戦をもって、獣を始末する」
エイヤがそう、中央広場で整列している兵士に
向かって宣誓した。
その直後、ワイルドが雄叫びをあげ、
それにつられるように兵士たちが咆哮した。
映画のワンシーンのような光景に
ノーブルが感動した様子で、軍を見つめていた。
そして、この軍を一目見ようと、朝から中央広場に
集まった民衆もまた、兵士の咆哮に唱和した。
稲生もまた、高揚した気分になり、
これから望む困難な戦いへの不安が幾分、和らいだ。
「ふむ、久々の戦じゃな」
と興奮気味のノルド。
「うまく、兵士の不安を除いたものだのう」
と冷静な解析をするメリアム。
「稲生様に多幸あれ」
と祈りを捧げるメープル。
「・・・」
無言で瞑想しているドルグ。
ドリアムが稲生に近づき、
「ご武運を。これは、虫よけのアミュレットです。
森の中では、意外と虫からの被害がありますので、
どうぞお使いください」
と渡してきた。
「ドリアムさん、最初から最後まで
お気遣いありがとうございます。
戻れたら、一杯、奢ります」
稲生は、感謝の意を示して、頭を下げた。
「こちらこそ、色々と勉強になりましたし、
どのようなお酒を頂けるか楽しみにしています」
そんな挨拶を交わし終えたあたりで、
エイヤから全軍に行軍の指示が飛んだ。
半日も進むと、稲生は、かなりの疲れを感じた。
元々、身体能力は格段に向上していたが、
体力はさほど向上していないため、仕方のないことであった。
他のメンバーは特に疲れを感じている様子はなかった。
また、魔物や魔獣は、兵の数に恐れてかほとんど現れず、
現れても人数に驚き、逃げ出していた。
昼食のために行軍が停止して、
稲生は、大きく息を吸って、その場に座り込んだ。
それを気遣うようにリンが、稲生へ水を差しだし、
隻腕のメープルは、稲生の真横にピタリと座り、
悔しそうにしていた。
「稲生様、昨日からもてき到来ですね」
余裕のあるノーブルが稲生に話かけてきた。
稲生は水を飲みながら、「バカ、余計なこと言うな」
と素の言葉遣いでノーブルを叱りつけた。
「まあ、返答できなるなら、まだ、大丈夫そうだな。
稲生、最初の宿営地までは、倒れてくれるなよ」
ノーブルの話をかき消すようにノルドが言った。
リンとメープルは牽制しあっており、特に何も
追及してこなかった。
休憩が完了し、行軍が再開されようとしたとき、
森の奥より、凄まじい咆哮が聞こえてきた。
その咆哮は、死を連想させるような響きでなく、
獣と人間の殺し合いへの歓喜と始まりを
伝えているようだった。
全軍が一瞬にして緊張し、各々の武器を手にした。
エイヤは、ワイルドに軽く手ぶりで指示すると、
ワイルドが大声で話し出した。
「獣め、粋なことする。
バルザース帝国の姑息な将軍どもより、
よっぽど正々堂々しておるな。
こちらも奴に応えるかな。全員、耳を塞げ」
ワイルドがそう言うと、深く深呼吸をし、
メープルとドルグが祈り始めた。
深呼吸の後、ワイルドが、森全体に
響き渡るかのごとく、獣に勝るとも劣らない咆哮をあげた。
稲生は、この咆哮を聞き、将軍もまた、
人の規格を外れる者であると感じた。
ワイルドの咆哮を兵士たちが聴くと、
落ち着きをとりもどしたようだった。
エイヤが、「宿営地に向かう。そして、次の日に
召喚者を囮に獣を討伐する」
と伝え、進軍を再開した。
今回の戦をもって、獣を始末する」
エイヤがそう、中央広場で整列している兵士に
向かって宣誓した。
その直後、ワイルドが雄叫びをあげ、
それにつられるように兵士たちが咆哮した。
映画のワンシーンのような光景に
ノーブルが感動した様子で、軍を見つめていた。
そして、この軍を一目見ようと、朝から中央広場に
集まった民衆もまた、兵士の咆哮に唱和した。
稲生もまた、高揚した気分になり、
これから望む困難な戦いへの不安が幾分、和らいだ。
「ふむ、久々の戦じゃな」
と興奮気味のノルド。
「うまく、兵士の不安を除いたものだのう」
と冷静な解析をするメリアム。
「稲生様に多幸あれ」
と祈りを捧げるメープル。
「・・・」
無言で瞑想しているドルグ。
ドリアムが稲生に近づき、
「ご武運を。これは、虫よけのアミュレットです。
森の中では、意外と虫からの被害がありますので、
どうぞお使いください」
と渡してきた。
「ドリアムさん、最初から最後まで
お気遣いありがとうございます。
戻れたら、一杯、奢ります」
稲生は、感謝の意を示して、頭を下げた。
「こちらこそ、色々と勉強になりましたし、
どのようなお酒を頂けるか楽しみにしています」
そんな挨拶を交わし終えたあたりで、
エイヤから全軍に行軍の指示が飛んだ。
半日も進むと、稲生は、かなりの疲れを感じた。
元々、身体能力は格段に向上していたが、
体力はさほど向上していないため、仕方のないことであった。
他のメンバーは特に疲れを感じている様子はなかった。
また、魔物や魔獣は、兵の数に恐れてかほとんど現れず、
現れても人数に驚き、逃げ出していた。
昼食のために行軍が停止して、
稲生は、大きく息を吸って、その場に座り込んだ。
それを気遣うようにリンが、稲生へ水を差しだし、
隻腕のメープルは、稲生の真横にピタリと座り、
悔しそうにしていた。
「稲生様、昨日からもてき到来ですね」
余裕のあるノーブルが稲生に話かけてきた。
稲生は水を飲みながら、「バカ、余計なこと言うな」
と素の言葉遣いでノーブルを叱りつけた。
「まあ、返答できなるなら、まだ、大丈夫そうだな。
稲生、最初の宿営地までは、倒れてくれるなよ」
ノーブルの話をかき消すようにノルドが言った。
リンとメープルは牽制しあっており、特に何も
追及してこなかった。
休憩が完了し、行軍が再開されようとしたとき、
森の奥より、凄まじい咆哮が聞こえてきた。
その咆哮は、死を連想させるような響きでなく、
獣と人間の殺し合いへの歓喜と始まりを
伝えているようだった。
全軍が一瞬にして緊張し、各々の武器を手にした。
エイヤは、ワイルドに軽く手ぶりで指示すると、
ワイルドが大声で話し出した。
「獣め、粋なことする。
バルザース帝国の姑息な将軍どもより、
よっぽど正々堂々しておるな。
こちらも奴に応えるかな。全員、耳を塞げ」
ワイルドがそう言うと、深く深呼吸をし、
メープルとドルグが祈り始めた。
深呼吸の後、ワイルドが、森全体に
響き渡るかのごとく、獣に勝るとも劣らない咆哮をあげた。
稲生は、この咆哮を聞き、将軍もまた、
人の規格を外れる者であると感じた。
ワイルドの咆哮を兵士たちが聴くと、
落ち着きをとりもどしたようだった。
エイヤが、「宿営地に向かう。そして、次の日に
召喚者を囮に獣を討伐する」
と伝え、進軍を再開した。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる