起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

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森の獣 1章 稲生編

獣の咆哮

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「全軍、これより獣討伐に出陣する。
今回の戦をもって、獣を始末する」
エイヤがそう、中央広場で整列している兵士に
向かって宣誓した。

その直後、ワイルドが雄叫びをあげ、
それにつられるように兵士たちが咆哮した。

映画のワンシーンのような光景に
ノーブルが感動した様子で、軍を見つめていた。
そして、この軍を一目見ようと、朝から中央広場に
集まった民衆もまた、兵士の咆哮に唱和した。
稲生もまた、高揚した気分になり、
これから望む困難な戦いへの不安が幾分、和らいだ。

「ふむ、久々の戦じゃな」
と興奮気味のノルド。

「うまく、兵士の不安を除いたものだのう」
と冷静な解析をするメリアム。

「稲生様に多幸あれ」
と祈りを捧げるメープル。

「・・・」
無言で瞑想しているドルグ。

ドリアムが稲生に近づき、
「ご武運を。これは、虫よけのアミュレットです。
森の中では、意外と虫からの被害がありますので、
どうぞお使いください」
と渡してきた。

「ドリアムさん、最初から最後まで
お気遣いありがとうございます。
戻れたら、一杯、奢ります」
稲生は、感謝の意を示して、頭を下げた。

「こちらこそ、色々と勉強になりましたし、
どのようなお酒を頂けるか楽しみにしています」

そんな挨拶を交わし終えたあたりで、
エイヤから全軍に行軍の指示が飛んだ。

半日も進むと、稲生は、かなりの疲れを感じた。
元々、身体能力は格段に向上していたが、
体力はさほど向上していないため、仕方のないことであった。
他のメンバーは特に疲れを感じている様子はなかった。
また、魔物や魔獣は、兵の数に恐れてかほとんど現れず、
現れても人数に驚き、逃げ出していた。

昼食のために行軍が停止して、
稲生は、大きく息を吸って、その場に座り込んだ。
それを気遣うようにリンが、稲生へ水を差しだし、
隻腕のメープルは、稲生の真横にピタリと座り、
悔しそうにしていた。

「稲生様、昨日からもてき到来ですね」
余裕のあるノーブルが稲生に話かけてきた。

稲生は水を飲みながら、「バカ、余計なこと言うな」
と素の言葉遣いでノーブルを叱りつけた。

「まあ、返答できなるなら、まだ、大丈夫そうだな。
稲生、最初の宿営地までは、倒れてくれるなよ」
ノーブルの話をかき消すようにノルドが言った。
リンとメープルは牽制しあっており、特に何も
追及してこなかった。

休憩が完了し、行軍が再開されようとしたとき、
森の奥より、凄まじい咆哮が聞こえてきた。
その咆哮は、死を連想させるような響きでなく、
獣と人間の殺し合いへの歓喜と始まりを
伝えているようだった。
全軍が一瞬にして緊張し、各々の武器を手にした。
エイヤは、ワイルドに軽く手ぶりで指示すると、
ワイルドが大声で話し出した。
「獣め、粋なことする。
バルザース帝国の姑息な将軍どもより、
よっぽど正々堂々しておるな。
こちらも奴に応えるかな。全員、耳を塞げ」

ワイルドがそう言うと、深く深呼吸をし、
メープルとドルグが祈り始めた。
深呼吸の後、ワイルドが、森全体に
響き渡るかのごとく、獣に勝るとも劣らない咆哮をあげた。
稲生は、この咆哮を聞き、将軍もまた、
人の規格を外れる者であると感じた。

 ワイルドの咆哮を兵士たちが聴くと、
落ち着きをとりもどしたようだった。
エイヤが、「宿営地に向かう。そして、次の日に
召喚者を囮に獣を討伐する」
と伝え、進軍を再開した。
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