起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

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森の獣 1章 稲生編

夜の会話

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「ううっ、身体が気だるいし、汗が気持ち悪い」
稲生は、ぶつぶつと独り言を言いながら、宿舎に戻った。
戻ると直ぐに水で身体を拭うために練兵場に向かった。

途中、運悪くリンに出会ってしまった。
「おい、稲生、臭いぞ。何をしていたのだ!
それと、何故、そんなにやつれているんだ。
まったく、明日から森への行動だと言うのに大丈夫か?」
続けて、リンは、他のメンバーに行程等々を
説明し、連携に関しては、時間もないので、
大まかに決めたと言った。

稲生は、おざなりな返答をして、その場を後にした。
リンが心配そうに虫とかなんとか言っているような気がした。

行水をして、少しすっきりとした稲生は、
部屋に戻り、明日から始まる討伐に備えることにした。
獣に関する背後関係については、生き延びたときに
考えることにした。

部屋に戻ると、所在無げにベッドに
座っているリンがいた。
彼女の脇に妙な色をしているどろどろとした
スープのようなものがあった。
「やあ、稲生。明日からのために
なるべく体力が回復できるように作って来たぞ。
以前に食べたものとは、ちょっと食材は違うが、
効果は保証するよ」
稲生を見て、満面の笑みで答えるリン。
その笑顔を見ると、稲生は、その料理を
拒否することができなかった。

リンが差し出すと、稲生は、自分でぱくりと一口、
食べながら、スープを改めて見ると、
蝗の足らしき残骸をいくつか発見した。
苦い、良薬口に苦しとは、よく言ったものだ、苦かった。
稲生はそう思いながらも二口、三口と続けて食べた。

「リン、これは独特な味付けですね」
と稲生はリンに話した。

「そうだ。この国の人は食べ慣れない料理だからなー。
だが身体にはいいぞ。まあ、蝗を擂り潰して、色々とね。
最後は、魔術的付加をして、塩で味を調整したのだ」
とリンは、自慢げに話した。

「リンは、この国の出身ではないのですか?」
と稲生は何気なく聞いてみた。

「ん?いや、生まれも育ちもこの国だが?
前に話さなかったっけ?ただし、他国にはそれなりに
行ったことがあるけど」

「そうでしたね」
稲生は、短く返答し、食事を再開した。

「稲生の表情からすると今回の料理は、
どうやら美味しいようだな。
行軍はきついぞ。稲生、早く身体を休めて寝ろ。
それと、まあ、なんだな、我が国の事情に
巻き込んでしまって、すまぬ。
あなたは、絶対に死なせないから」
リンは、申し訳なさそうな表情で、
ぺこりと頭を下げた。
冷徹に見せようとしても根本は、
真面目でおっちょこちょい、
そんな彼女の本音がこれなのだろう。

「まあ、何かの縁ですから、
死なないように頑張りましょう」
気の抜けるような返事を飄々と稲生は返した。

稲生は、元の世界であのまま、
無味乾燥な生活をしながら、歳を重ねるより、
遥に充実した生活をしていると実感していた。
死は、どこにいても必ず訪れる。
ならば、全力でそれに抗ってみようではないか!
そんな意思を持って、明日からの行軍に望めそうだった。

「リン、頭を上げてください。
結構、感謝している点もあるのですよ。
お互い、まずは、生き延びましょう」
稲生は、優し気なまなざしでリンを見つめて言った。

「そっそうだな。あの獣には、どうも妙な点が多い。
討伐が成功しようがしまいが、その後の調査を
手伝ってもらうぞ」
リンが勢い込んで話した。

「はい、了解しました。私の故郷へ
戻る方法にも協力して頂きますよ」
稲生は、そう言って、さて、寝ますかとリンに伝えた。

「おやすみ、稲生」
とリンは伝え、部屋を後にした。

稲生は、先ほどまで別の女を抱いて、
楽しんでいた余韻より、リンの気遣いの
余韻に浸っていた。
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