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森の獣 1章 稲生編

打ち合わせの途中で

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「ううっ頭が痛い、痛すぎる」
毎度のことながら、お酒のせいで
翌朝が辛い、稲生であった。
頭が痛いなか、稲生は、リンが起こしに
来るのをベッドで待つべきかどうか迷っていた。

しばらくまよっていると、
ドアをノックする音が聞こえた。
稲生は、高鳴る鼓動を抑えつつ、
「どうぞ」と伝えた。

ドアが開くと、そこには、
何故かドリアムがいた。
稲生は、何とか平静を保ちつつ、
ドリアムに問いかけた。
「おはようございます、ドリアムさん。
何か用事でしょうか?」

ドリアムは、申し訳なさそうに
「リン様の代わりに本日の予定を伝えにきました。
本日、4刻半の時より、獣討伐についての
会議をはじめるとのことです。
ちなみにリン様は、よくわかりかねますが、
お顔を真っ赤にして、伝えてきてくれとのことでした」
にやにやしながら、事務内容を
伝えるドリアムであった。

稲生は、なんとなく残念な気持ちで、
「了解しました」とドリアムに伝えた。
ドリアムは、にこやかに一礼すると、
部屋を去っていった。

会議では、獣をおびき出すために
稲生を囮にすることを中心として、
細部を詰めていった。

稲生は、獣を討伐されないと、
故郷への帰還の方法も探せないと判断し、
大筋で協力することとした。
もちろん、できる限りの安全を
確保することを求めてであるが。

一刻ほど過ぎたころ、守備兵が報告に現れた。
「町に20名ほどの武装集団が来訪しています。
隣国バルザース帝国の者とのことです。
代表者のような者が、責任者に面会を
希望しています。いかがいたしますか?」

「ふん、大方、遠路遥々、やって来た獣討伐の
報酬目当ての傭兵集団だろう。まあいい、通せ」
とエイヤが指示を出した。

しばらくすると、3名ほどが入室して来た。
「代表者が3名とは、
まとまりのない集団だな」
開口一番、エイヤが冷笑する。

「名を名乗る前に皮肉ですか。
キリア王朝は随分と礼節亡き、
野蛮なお国なのですね」
白っぽいローブを来た女性が皮肉で返す。
何度か、口撃の応酬が続いたが、
とりあえず休戦し、お互いに名を交わす。

稲生は、事の成り行きにまかせつつ、
彼らの様子を観察する。
主に話していた女性はどうやら神官のようだ。
リン以上のプロポーションを持つ彼女を
どうしてもチラ見してしまう。
ワイルドは、遠慮なくガン見して、
眼福、眼福と言っている。
もう一人は、長身猫背で酷くやせており、
眼光が窪み、頬がこけていた。
あまりお近づきになりたくない雰囲気であった。

最後の一人は、常に憎しみの表情だ。
よくあんな顔をしていられるなと感心する稲生であった。

 神官をチラ見していると、リンと目があった。
鬼の形相でこちらを睨み付けている。
隣国の面会者がいるのに、よくあんな顔を
していられるなと感心する稲生であった。

 主にエイヤと神官が話し合いを
しているが、要約すると、獣の討伐を
先にどちらがするかと言うことらしい。
彼らは、本国の外交ルートから
討伐の許可状をキリア王朝から
得ているようだった。
 最終的にエイヤは許可状に重きをおいて、
10日ほど彼らに討伐の時間を与えた。
それまでに討伐できねば、その後は、エイヤ・ワイルド
両雄の下で改めて、討伐に向かうことにした。

「ありがとうございます、シン将軍。
ところで、先ほどから、こちらを
チラチラと見ている男性が一名ほど
いらっしゃいますが、彼が今代の召喚者でしょうか?」
とくすくすと笑いながら、尋ねてきた。

エイヤは、頭をかかえ、ワイルドは
がははっと豪快に笑い、リンは憤怒の形相で、
ドリアムは、うつむいて笑いを堪えて、
各々、様々な表情をした。

突然、話を振られた当の稲生は、
なんと答えるべきかわからず、
生唾を飲み込み、自己紹介をした。
稲生といいます。以後、お見知りおきを。
周囲からは、召喚者の立ち位置にいる
説明を受けました」
それなりに綺麗な女性であるが、
容姿より稲生は、どうしても
目線が胸に向かってしまう。

「ふふっ、正直な方ですね。
後ほど、お食事を取りながら、お話でも?」
と神官職にあるその女性から
お誘いがあった。

「駄目です。彼には、そのような
余裕はありません。明日も明後日もです。
あなた方もわかっているでしょう」
余裕ない表情で何故かリンが代弁する。

「ふふっ、仕方ありませんね。
町で偶然、お会いできることを
楽しみにしています」
余裕を持って答える神官。
その後、いくつかの確認をして、
彼らは宿に戻っていった。

稲生は、リンの言葉を聞いて、
今日からそんなに忙しくなるのかと
暗澹たる気分になった。
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