起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣

ゆうた

文字の大きさ
上 下
218 / 266
森の獣 1章 稲生編

交渉術

しおりを挟む
「うまっこの肉、うまっ」
稲生は、客もまばらな飲食店らしき店で、
串に刺された肉と果汁酒を注文し、
満面の笑みで食事をしていた。

周りの幾人かの客の噂話に耳を傾けると
もうすぐ来る将軍と獣のことばかりであった。
別段、惹かれる話はなかったが、この件に関する
住民の興味の高さがうかがい知れた。
程よくお腹が膨れて来たために
前払い制のため、店員に声をかけ、お店を後にした。

稲生の目的地は、ギルド協会であった。
様々な組合を統括し、活動の拠点と
なっている建物には、稲生の目的と
する荷役に類するギルドもあるだろう。

そのものずばりではないが、それに近しものとして、
商会ギルドと冒険者ギルドがあった。何度か話を持ち掛けても
向かう先のリスクから、どうも紹介を躊躇しているようであった。
ロビーで、「こまったなぁ」
独り、呟くと、それに反応するかのように
16歳くらいの男性が声をかけてきた。

「雇いませんか?どんなことでもします。
ギルドには属していませんので、
直接の契約で大丈夫です。
その分、お安く、一日、屑鉄貨92枚で
毎日お支払いをお願いします。
今日からでも大丈夫です。
もちろん、魔術印による契約もします」

稲生は、多分、自分が何度かギルドを
出入りして、交渉が難航していると見て取られ、
声をかけてきたのだろうと思った。
そして、屑鉄92枚と雇用者にとって、
費用算出が面倒くさいがゆえに雇用者から
銅貨1枚にと申しださせる価格に
していることに気づいた。

稲生に選択肢は、ほとんどないため、
話をしてみることにした。
「あなたの思惑にのるのも少々、
しゃくですが、明日から、一日銅貨1枚で
話を聞いていただけますか?」

稲生が荷役の件を話すと、青年は蒼ざめた顔で、
戦闘には参加できないと念を押して、契約をした。
「ノーブルといいます。家名はありません。
よろしくお願いします」

稲生は、無言で銀貨一枚を手渡した。

ノーブルは、理解できかねるといった表情で
「えっこれは?一体?」

「森へ入るから、服装等をそれで整えてください。
それと10日分の費用です。
護身用のナイフ位は、準備してくださいね」

「へへっ、ありがとうございます。」

明日の待ち合わせに関して、
ノーブルに伝え、宿舎に戻った。

宿舎に戻り、部屋に入るなり、
「遅いっ。どこをうろうろしていた」
とリンがヒステリックな声で話しかけてきた。

「えっ」

様々な疑問が湧き、彼女を見ると、
酷くやつれた表情であったため、
ひとまず、話を聞くことにした。

「いえ、来るべき獣との戦の準備を私なりに」

リンは食いつく様に聞いてきた。
「そっそうか!して、どのような策を
講ずる予定なのか?
内容如何では、力を貸すことも
藪嵩ではないぞ。早く話せ」

稲生は、これほど、余裕のない人間には
全てを話してもろくなことにならないと思い、
ごく一部を棒読みのように話した。

「薬草による身体強化とできれば、
魔術による身体強化の掛け合わせで、
獣の目を傷つけたこのカッターナイフの
一撃で倒します」

リンは、この言葉によって、感情が一気に怒りに傾いた。
「ってか、それだけかよ。無理だっ。絶対に無理だろ。
おまえ、死ぬ気だろ。無駄死して、迷惑かける気だろう。
昨日の温情を仇で返すとはこのことかっ!」

カッと目を見開き、一気呵成にまくし立てるリン。

これが鬼の形相と言うやつかと稲生は、
思いつつ、リンが落ち着く様に更に適当に続ける。
「つっ続きがあります。どうやら獣は私を認識しています。
私を囮にして獣を誘い出して、周りを弓兵で取り囲みます。
私が獣の注意をひいた瞬間、弓を一斉に放ち、
その直後、将軍様のお力を用いて、一撃で獣を倒します。
そうです、弓と同時に網も一緒に投擲しましょう。
獣の動きを少しでも阻害しましょう」

前に似たようなことをした気がしたが、
リンは、いたくこの策に感じ入ったようで、
稲生の手をとり、上下に振り回す。

「さすがは召喚者だ。稲生は、腕っぷしでなく、
知恵者であったか。
明日の会議では、ぜひともその策を
提案させてもらおう。
そうだ、もう夜だし、稲生は、町に酒なり女なり、
楽しんで来い。私は、今の策をもっと検討しよう」

リンは、にこやかに微笑むと、執務室に戻っていった。

稲生は、「だましたつもりはないのです。
ごまかしただけです。許してください」
と心の中で謝罪し、夜の街に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...