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森の獣 1章 稲生編
交渉術
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「うまっこの肉、うまっ」
稲生は、客もまばらな飲食店らしき店で、
串に刺された肉と果汁酒を注文し、
満面の笑みで食事をしていた。
周りの幾人かの客の噂話に耳を傾けると
もうすぐ来る将軍と獣のことばかりであった。
別段、惹かれる話はなかったが、この件に関する
住民の興味の高さがうかがい知れた。
程よくお腹が膨れて来たために
前払い制のため、店員に声をかけ、お店を後にした。
稲生の目的地は、ギルド協会であった。
様々な組合を統括し、活動の拠点と
なっている建物には、稲生の目的と
する荷役に類するギルドもあるだろう。
そのものずばりではないが、それに近しものとして、
商会ギルドと冒険者ギルドがあった。何度か話を持ち掛けても
向かう先のリスクから、どうも紹介を躊躇しているようであった。
ロビーで、「こまったなぁ」
独り、呟くと、それに反応するかのように
16歳くらいの男性が声をかけてきた。
「雇いませんか?どんなことでもします。
ギルドには属していませんので、
直接の契約で大丈夫です。
その分、お安く、一日、屑鉄貨92枚で
毎日お支払いをお願いします。
今日からでも大丈夫です。
もちろん、魔術印による契約もします」
稲生は、多分、自分が何度かギルドを
出入りして、交渉が難航していると見て取られ、
声をかけてきたのだろうと思った。
そして、屑鉄92枚と雇用者にとって、
費用算出が面倒くさいがゆえに雇用者から
銅貨1枚にと申しださせる価格に
していることに気づいた。
稲生に選択肢は、ほとんどないため、
話をしてみることにした。
「あなたの思惑にのるのも少々、
しゃくですが、明日から、一日銅貨1枚で
話を聞いていただけますか?」
稲生が荷役の件を話すと、青年は蒼ざめた顔で、
戦闘には参加できないと念を押して、契約をした。
「ノーブルといいます。家名はありません。
よろしくお願いします」
稲生は、無言で銀貨一枚を手渡した。
ノーブルは、理解できかねるといった表情で
「えっこれは?一体?」
「森へ入るから、服装等をそれで整えてください。
それと10日分の費用です。
護身用のナイフ位は、準備してくださいね」
「へへっ、ありがとうございます。」
明日の待ち合わせに関して、
ノーブルに伝え、宿舎に戻った。
宿舎に戻り、部屋に入るなり、
「遅いっ。どこをうろうろしていた」
とリンがヒステリックな声で話しかけてきた。
「えっ」
様々な疑問が湧き、彼女を見ると、
酷くやつれた表情であったため、
ひとまず、話を聞くことにした。
「いえ、来るべき獣との戦の準備を私なりに」
リンは食いつく様に聞いてきた。
「そっそうか!して、どのような策を
講ずる予定なのか?
内容如何では、力を貸すことも
藪嵩ではないぞ。早く話せ」
稲生は、これほど、余裕のない人間には
全てを話してもろくなことにならないと思い、
ごく一部を棒読みのように話した。
「薬草による身体強化とできれば、
魔術による身体強化の掛け合わせで、
獣の目を傷つけたこのカッターナイフの
一撃で倒します」
リンは、この言葉によって、感情が一気に怒りに傾いた。
「ってか、それだけかよ。無理だっ。絶対に無理だろ。
おまえ、死ぬ気だろ。無駄死して、迷惑かける気だろう。
昨日の温情を仇で返すとはこのことかっ!」
カッと目を見開き、一気呵成にまくし立てるリン。
これが鬼の形相と言うやつかと稲生は、
思いつつ、リンが落ち着く様に更に適当に続ける。
「つっ続きがあります。どうやら獣は私を認識しています。
私を囮にして獣を誘い出して、周りを弓兵で取り囲みます。
私が獣の注意をひいた瞬間、弓を一斉に放ち、
その直後、将軍様のお力を用いて、一撃で獣を倒します。
そうです、弓と同時に網も一緒に投擲しましょう。
獣の動きを少しでも阻害しましょう」
前に似たようなことをした気がしたが、
リンは、いたくこの策に感じ入ったようで、
稲生の手をとり、上下に振り回す。
「さすがは召喚者だ。稲生は、腕っぷしでなく、
知恵者であったか。
明日の会議では、ぜひともその策を
提案させてもらおう。
そうだ、もう夜だし、稲生は、町に酒なり女なり、
楽しんで来い。私は、今の策をもっと検討しよう」
リンは、にこやかに微笑むと、執務室に戻っていった。
稲生は、「だましたつもりはないのです。
ごまかしただけです。許してください」
と心の中で謝罪し、夜の街に向かった。
稲生は、客もまばらな飲食店らしき店で、
串に刺された肉と果汁酒を注文し、
満面の笑みで食事をしていた。
周りの幾人かの客の噂話に耳を傾けると
もうすぐ来る将軍と獣のことばかりであった。
別段、惹かれる話はなかったが、この件に関する
住民の興味の高さがうかがい知れた。
程よくお腹が膨れて来たために
前払い制のため、店員に声をかけ、お店を後にした。
稲生の目的地は、ギルド協会であった。
様々な組合を統括し、活動の拠点と
なっている建物には、稲生の目的と
する荷役に類するギルドもあるだろう。
そのものずばりではないが、それに近しものとして、
商会ギルドと冒険者ギルドがあった。何度か話を持ち掛けても
向かう先のリスクから、どうも紹介を躊躇しているようであった。
ロビーで、「こまったなぁ」
独り、呟くと、それに反応するかのように
16歳くらいの男性が声をかけてきた。
「雇いませんか?どんなことでもします。
ギルドには属していませんので、
直接の契約で大丈夫です。
その分、お安く、一日、屑鉄貨92枚で
毎日お支払いをお願いします。
今日からでも大丈夫です。
もちろん、魔術印による契約もします」
稲生は、多分、自分が何度かギルドを
出入りして、交渉が難航していると見て取られ、
声をかけてきたのだろうと思った。
そして、屑鉄92枚と雇用者にとって、
費用算出が面倒くさいがゆえに雇用者から
銅貨1枚にと申しださせる価格に
していることに気づいた。
稲生に選択肢は、ほとんどないため、
話をしてみることにした。
「あなたの思惑にのるのも少々、
しゃくですが、明日から、一日銅貨1枚で
話を聞いていただけますか?」
稲生が荷役の件を話すと、青年は蒼ざめた顔で、
戦闘には参加できないと念を押して、契約をした。
「ノーブルといいます。家名はありません。
よろしくお願いします」
稲生は、無言で銀貨一枚を手渡した。
ノーブルは、理解できかねるといった表情で
「えっこれは?一体?」
「森へ入るから、服装等をそれで整えてください。
それと10日分の費用です。
護身用のナイフ位は、準備してくださいね」
「へへっ、ありがとうございます。」
明日の待ち合わせに関して、
ノーブルに伝え、宿舎に戻った。
宿舎に戻り、部屋に入るなり、
「遅いっ。どこをうろうろしていた」
とリンがヒステリックな声で話しかけてきた。
「えっ」
様々な疑問が湧き、彼女を見ると、
酷くやつれた表情であったため、
ひとまず、話を聞くことにした。
「いえ、来るべき獣との戦の準備を私なりに」
リンは食いつく様に聞いてきた。
「そっそうか!して、どのような策を
講ずる予定なのか?
内容如何では、力を貸すことも
藪嵩ではないぞ。早く話せ」
稲生は、これほど、余裕のない人間には
全てを話してもろくなことにならないと思い、
ごく一部を棒読みのように話した。
「薬草による身体強化とできれば、
魔術による身体強化の掛け合わせで、
獣の目を傷つけたこのカッターナイフの
一撃で倒します」
リンは、この言葉によって、感情が一気に怒りに傾いた。
「ってか、それだけかよ。無理だっ。絶対に無理だろ。
おまえ、死ぬ気だろ。無駄死して、迷惑かける気だろう。
昨日の温情を仇で返すとはこのことかっ!」
カッと目を見開き、一気呵成にまくし立てるリン。
これが鬼の形相と言うやつかと稲生は、
思いつつ、リンが落ち着く様に更に適当に続ける。
「つっ続きがあります。どうやら獣は私を認識しています。
私を囮にして獣を誘い出して、周りを弓兵で取り囲みます。
私が獣の注意をひいた瞬間、弓を一斉に放ち、
その直後、将軍様のお力を用いて、一撃で獣を倒します。
そうです、弓と同時に網も一緒に投擲しましょう。
獣の動きを少しでも阻害しましょう」
前に似たようなことをした気がしたが、
リンは、いたくこの策に感じ入ったようで、
稲生の手をとり、上下に振り回す。
「さすがは召喚者だ。稲生は、腕っぷしでなく、
知恵者であったか。
明日の会議では、ぜひともその策を
提案させてもらおう。
そうだ、もう夜だし、稲生は、町に酒なり女なり、
楽しんで来い。私は、今の策をもっと検討しよう」
リンは、にこやかに微笑むと、執務室に戻っていった。
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