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森の獣 1章 稲生編

リン、戻る

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「何事もなく過ぎるなー」
ドリアムに忠告を受けた後、
稲生は、宿舎内と練兵場で過ごしていた。
 午前中は、一般的な文字を自分なりにリストを作成し、
読めるようになるように勉強し、
午後は、体力の向上と投擲の練習に努めていた。
 共に劇的に向上することはなかったが、2、3日続けると、
稲生は手応えを感じ始めていた。
恐れいたようなこともなく、平穏な日々を過ごせた稲生であった。

 練兵場でのトレーニングを行っていた5日目の午後、
稲生をドリアムが呼びに来た。
「王都より、リン様がお戻りになりました。執務室にご一緒ください」
稲生はうなずくと、ドリアムの後に続いた。

 ドリアムがドアをノックすると、中より、「入れ」との声がした。
「リン様、稲生を連れてまいりました。
彼の日常に関しては、先ほどの報告通りです」

リンは、「余計なことは言わぬことだな、君は業務に戻り給え」
とドリアムに伝えると、彼は無言で退室した。

「早速だが、稲生。それで、何か召喚者としての特異能力はみつかったのかな?」
稲生は、ドリアムよりある程度、自分のことに関して報告がされていることから、
自分の見解を正直に述べることにした。

「そうですね、リン。この世界の一般的な守備兵より、
身体能力が高いことですね。残念なことに体力が続きません。
ただし、これは今後のトレーニングで改善できるかと。
それと、投擲による遠方からの攻撃能力に秀でているかと。
現状で認識できているのはこの二点です。あの、以上です」

リンは、瞳を閉じつつ、稲生の発言を聞いていた。
「ああ、すまぬ。君の話とドリアムの報告書から、考え事をちょっとね」
リンは瞳を開けて、稲生をみつめて、話を続けた。
「その二点に加えて、君は気づいてないようだが、祈りや魔術でない高い回復力、
この世界への理解力の速さ。過去の召喚者に比べると
低い能力であるがないよりましか」

「はあ」
稲生は、気の抜けた返事をしてしまった。
「まあ、良い。数日後にまた、獣を狩ることになるだろう。
稲生にも参加してもらう。拒否は認めない」

稲生は、その話に一瞬、頭が真っ白になった。
そして、なぜ、何事もなく過ごせたのかを理解した。
また、獣の贄にされることをだれもが知っていたからだ。

「稲生、君にも戦う準備があろう。数日後に王都より、軍が到着する。
それまでにこの金で、色々と準備してくれ。
まあ、なんだな、何に使ってもよいから、後悔しないように使ってくれ」
能面のような顔になって語るリンから、金貨や銀貨の入った革袋を投げ渡された。

稲生は何の表情も読み取れぬリンへお礼の言葉を述べて、執務室を後にした。

「彼にとって、この地で亡くなるのは、無念だろうな。まあ、仕方ないか。
我々も召喚できる人物を選べないのだから、、、」
リンは、呟き、獣を倒す算段の検討を始めた。

 数日後、1000名の兵卒と共に国柱たる将軍職に連なり、
神の力を模すると称される神象兵器の担い手が二人、
王都より到着することになる。

 稲生は、部屋に戻り、このお金とリンの言葉に思いを巡らす。
これって、死亡フラグの立っている人への餞別?とりあえず、明日、町で買い物だ!
色々と考えることをやめて、夕食を取ることにした。
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