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森の獣 1章 稲生編

チンピラ撃退

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「おいおい、てめーなに黙ってんだよ。また、漏らしたのかよ」
一人の守備兵に胸のあたりのシャツを掴まれ、凄まれる。
前世界でこの状況なら、稲生は、ちびるくらいはしたかもしれない。
稲生は掴んでいる相手の手首を掴み、ゆっくり力を加えた。

「おっおおーてめー離せよ。糞がぁ」
と絶叫し、その男は、右手で稲生の頬を殴りつけた。

 稲生は、格闘経験もなければ、喧嘩にも縁のない生活を送っていた。
そのため、男の拳の動きは、目で追うことはできがた、避けることができなかった。
周りを囲む守備兵がざわつく。

「おっお前は何なんだよ。腕を離せよぉー」
 
 稲生は、無言で右足を振り上げ勢いよく男の両足を薙ぐと、
男は、背中を大地に叩きつけられた。
沈黙が、場を支配し、大地に転がっている男のせき込みが、練兵場に響く。

 稲生は、想像以上の結果に固まってしまい、その場に立ち尽くしている。
「助けませんか?彼を」
ぼそりと稲生が一言。

 その言葉によって、呪縛から解放されたように
守備兵たちが倒れている男を助け起こす。
「さすがは超常の力をお持ちの召喚者様。
さぞかし気持ちいいでしょうなー」
倒れていた男を支え、守備兵たちが罵声を浴びせながら、
練兵場を後にした。

 年配らしき守備兵の一人が
「彼らにも問題はありますが、召喚者様といえども少々、
やりすぎでは?流石に査問にかけたりはしないでしょうね」

 絡まれたはずなのにいつの間にか悪者の立ち位置になっている稲生は、
無言でうなずいた。どの道、この世界の法令や保安機構が
よくわかっていないため、稲生は、被害を受けようともどうすることもできず、
泣き寝入りになってしまう。

 先ほどの騒ぎで、気分を削がれため、部屋に戻り、ベッドに横になった。
「いくらなんでもあれはないだろう」全くあずかり知らぬところで、
恨みを買っているとしか思えない彼らの対応。
身に覚えがないため、対処のしようもない。
 ドリアム以外にも話を聞いてみるかな。
そう思案すると、無一文で町に向かうことにした。
町に行くことに何かドリアムに言われたような気がするが、
稲生は、聞かなかったことにした。
宿舎を出て、町並みを見渡し、稲生は思った。

「お店で何も買えない」
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