プレス作業員の日常

ゆうた

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朝編

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 スマホの目覚まし音が部屋に響き、康太はもぞもぞと布団より起きた。
あーあーもう5時20分か。顔を洗い、歯を磨く。寝ぐせは直さない。
どうせ、ヘルメットをかぶれば、髪は潰れるし、
セットするだけ無駄と考えていた。
 ジャージを着ると、冷蔵庫から、菓子パンと野菜ジュースを
取り出し、アパートを後にする。この間、約10分。起きて、
出勤まで10分間、いかに無駄がないというか、身だしなみを
犠牲にしているのだろう。
 契約の作業員は、その会社の社員とは
別ものとここの会社は、考えているため、
契約社員の通勤中の身だしなみなんぞ会社の人間は、
気にしていないため可能なことだった。

 風をきって、自転車で会社まで走ると、
到着するころには十分に目が覚めていた。

 駐輪場の横の喫煙スペースには、既に作業着に
着替えた社員が何人か煙草をすっていた。

「おはようございます」
康太が挨拶すると、幾人かは、
気だるそうに「おはよう」と返してきた。

 康太は、ひとまず、更衣室に向かい、出勤ボタンを押し、
着替え始めた。ささっと、着替え、喫煙スペースのところで、朝食を食べ始めた。

「今日も暑くなりそうだな。スポットクーラーと扇風機じゃ、
きつよ。冷房設備くらい設置してくれんかねぇ」
一人の工員が話すと、保全課員の道谷さんが、

「そうなると機械も助かるんだけど、無理しょ。
電気代いくらかかると思ってんのよ。
天井が、高いから、設置する台数めっちゃ必要だし」
と力説していた。

道谷さんは、康太に気づき、声をかけてきた。
「康太、機械の調子どうだ?あんまり面倒起こすなよ」
「昨日は、特には。引継ぎノートに何か書いてあるかもしれませんね」
むむっと唸り、煙草を吸い終えた道谷さんは、室内に戻っていた。
「いやぁ最近、導入された生産管理のせいで、トラブル時間とか計上しやすくなって、
結構、上から言われているらしいよ」
同じシフトで働く富永さんが教えてくれた。

「あの最近、始まったあれですか」
と康太は相槌を打った。

「あれのせいで、俺らオペレータの生産状況か、
生産数とかわかるようになったらしいで。
それ見て、上も人事評価しているらしい」

 生産実績の手書きがなくなり、より正確に生産数を管理し、
誰がどのくらい生産し、どのくらい生産準備を
手際よくやっているか数値化できるようになっていた。
 仕事が効率化され、楽になったことで康太は、これに不満はなかった。
しかし、人事評価となると、上長にゴマすりながら、
昇格しているしょうもない人間が多いこの会社で
どこまで機能するやらと康太は思った。
そして、いままで時給があがっていないためか、
契約を切られなければ、どうでもいいやと思う康太であった。

 始業の5分前になり、各々が自分の持ち場へ慌ただしく動き出した。
管理職がまだ、出勤していなためか、工場内のルールは
あってなきようなものである。日焼けしたポスターの
「工場内は、落ち着いて行動しましょう」
が妙にむなしく康太に感じられた。

 そして、変わり映えのない一日が始まり、終わる。
何も身に付かず、一人者で過ごし、歳だけを重ね、終わる人生。
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