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 副船長のコンピュータを開き、
様々な資料の閲覧を加賀見は始めた。

「ふーむ、予想通りと言うか、
幾社かの企業を残して、世間に話題を提供して、
実利は事務局が独占するつもりだったみたいですね。
消去の方法は、あの副船長や管理者の
嗜好だったようですね。
現地での差配に任せるとなっていますよ」

かなり早い段階で打ち合わせが
進んでいたようだった。
この文面からすると、渡航前から大枠の内容は
決まっていたと考えられると加賀見は判断した。

「加賀見さん、これって、元々、生きて戻れるのは
数人だったってことですか?」
後ろから覗き込みながら、織多さんが憤っていた。

「多分、いくつかの方針が渡航前に
決まっていたんでしょうね。
この星の詳細情報を提供して、最終的に
どの方向性でいくか地球から指示が
あったと考えるのが妥当ですよ。
まあ、消去の方法は現地に
一任されていたようですけど」
加賀見はため息をついた。
読み進めているとふと、気になる点があった。

「んんっ?現地での長期期間によるフィールドワーク。
もしかして、あそこに何人かを
残しているということですか?」

織多さんはその言葉に絶句してしまった。
救援が来れるかどうか分からないあの地に
残るなんて、正気の沙汰ではなかった。
日々、減っていく食料、水、そして、いつ何時襲われるか
分からない緊張感、織多さんは、自分なら
耐えられないと思った。

「おりた、そんなジト目で睨まないでよ。
話を持ち掛けたのは事務局側だけど、
かがみぃと違って、契約した企業の面々は、
与えられたタスクをこなしているよ。
それに十分な装備、資材等々が準備されているから」

ロベリオの話を聞きながら、加賀見は、ロベリオが
自分と織多さんを取り込みたい理由が
垣間見えたような気がした。

今後、本格的に始まる調査、開発の後に
生じる権益のイニシアチブ争いが既に始まっていた。
企業は、今回の渡航前に既に精査すれば、
他地域から買収、合弁、提携といった手段で
取り込まれていたことが判明するだろう。
そして、事務局員にも各地域から賄賂、恐喝、
ハニートラップ等々の触手が伸びていると判断した。

加賀見の歪む表情を見て、
ロベリオがニマニマしながら、話した。
「船長はねー、他地域と太いパイプがあったのかもね。
確実に言えるのは、始末された事務局員は、
他地域とのエージェントと接触が確認された者だよ。
当然、加賀見の選別した面々もそうだよ。
あっ、もちろん完璧に誘導して選ばせるのは、
無理だから、人数を多くしたんでしょ。
始末したうち二人は、違っていたけどね。
副船長にとってはどうでも良かったんでしょ」

加賀見は心臓の動機が早くなるのを感じていた。
苦痛を感じている訳でもないはずであったが、
表情が歪んでいるのが分かった。

「ふううぅーいいね、いいね、その苦悶の表情。
興奮しちゃう。かがみぃ、ここでしようよ」
ロベリオが人差し指を加賀見のうなじに這わした。

「はぁはぁ、では、あのエネルギーが
不足するというのはブラフだったと言うことですか?」

「ぷぷっ、かがみぃらしくもない。当たり前でしょ。
高々、何人か始末したくらいでエネルギー不足が
解消されるようなことありえないしょ。
しかもそんなギリギリで運行とかリスクあり過ぎ。
内心、分かっていたくせにー。
心証を少しでも良くするために受けたんでしょ。
まー副船長も死んじゃったし、黙っておけば、別にいいじゃない」

会話の内容が織多さんの理解の範疇を超えてしまったようで、
呆然とした表情で口が開いていた。
加賀見はこれほどまでに呆然とした表情を見たことがなかった。
生き残った以上、この沈没船から、どう上手く利益を
絞り出し、逃げ出すかに注力するしかなかった。

「くっ、ロベリオさんは、こんなイベント船でなく、
本格的な調査船をこの地区から出航させないことが
目的なんですね」
息を乱し、苦悶の表情を浮かべながら、
加賀見が確認を取るかのように尋ねた。

「さあねーそれはどうかな?
ご想像にお任せしますよ。
それよりかがみぃ、随分と苦しそうだね。
おりたが満足させられなかったのかな」
ズボンのベルトがいつの間にか緩められ、
加賀見の竿が開放されたかのようにそそりたっていた。
竿の裏を彼女の爪がゆっくりと這っていた。
加賀見の呻き声で我に返った織多さんだったが、
最初に目に入ったのは、加賀見の背中から抱きしめて、
右腕がデスクの下に潜り込み妙な挙動を
しているロベリオだった。

「はっ?一体何を?ロベリオ、離れなさい」

先ほどの話は一体どこへ、全然、関係ないことを
言い出す織多さんだった。
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