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ブレない心

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加賀見と織多さんはいつの間にか
眠りについていた。
加賀見は目覚めると、気だるそうに欠伸をした。
隣では、いまだに織多さんが、寝息をたてていた。
頬を軽く人差し指でつつくが何の反応もなかった。
薄暗い部屋で起き上がり、彼女が起きないように
明りを灯さず、静かに下着を履き、
デスクのPCを立ち上げた。
そして、溜まっていた日報の作成を始めた。

パチパチとしつないにキーボードを
たたく音が響いた。
世界は、キーレスタイプが主流を占め居ていたが、
加賀見にとってキーボードのタッチ感は好ましかった。
フォーマットに則り、作業時間、残業時間、
作業内容、作業結果、備考を埋め、
書類の作成が完了した。
一息ついて、織多さんの方を向くと、
いつの間にか後ろから覗き込んでいたが、
その表情は驚きで占められていた。

「かっ、加賀見さん、ちょっと、まあ、
何て言うか、ブレませんね」

どうやらこのことを言っているのだろう。
「織多さん、ブレないでなく、
これは会社から指示された業務ですから。
作成が遅れようともなんでもいいから、
作成しなければなりません。
でないと頂けるものも頂けませんよ」

下着姿の織多さんを眺めて、
むくむくと下半身が盛り上がるが、
本日の作業を進めなければならないと思い、
溢れる性欲を抑えて、部屋を明るくして、服を着始めた。

「織多さんも早く服を着ましょう。
軽く食事を取ったら、管理センターに向かいましょう」
と織多さんに促した。突然、明るくなった部屋に驚き、
下着姿の織多さんは慌てて、服を着始めた。

管理センターに二人が到着すると、
ロベリオとカーリンがいた。
加賀見は念のため、確認をした。
「まさかと思いますが、徹夜ですか?」

カーリンが作業している手を休めずに答えた。
「作業しながらで申し訳ありません。
お二人が退室した後に事後処理を
済ませて、交代しました。
睡眠を取りましたでの先ほど私たちも
管理センターに戻ってきました。
今のところ、順調に航海しています」

「お二人は、性欲処理を
済ませてからのご出勤ですねー。
顔がしおしおですよ、船長。
どんだけお楽しみだったことやら」
冗談にしては、声に棘があるように加賀見は感じた。
しかし、加賀見は如才なく答えた。
「いえいえ、ぐっすりと寝ていましたよ」

「あーいらつく答えだなー。まあ、いいけどね。
それよりここに来ると言うことは、何か頼み事?」

「ええ、可能ならば、副船長の管理していたデータを
拝見したいのですが」
加賀見が要望を説明した。
ロベリオとカーリンにはそれの意味するところが
直ぐに分かったのだろう。

「かがみぃー、まあ、可能だけど。
さてさて、私もそれに同行してもいいかな?
船長の指示なら、カーリンも拒否できないしねー」
どうやら、こちらの動きを待っていたのか、
先ほどとは打って変わって、表情が柔らかくなっていた。

「加賀見さん、尾賀さんはどうするんですか?」
織多さんが加賀見に尋ねた。

ロベリオは少し眉間に皺を寄せて、
織多さんを見つめたが何も言わなかった。

「では、副船長の部屋をチェックする前に
医療室に顔を出すことにしましょう。
出来るかどうかは別として、尾賀さんの希望を
念ため、聞いてから、どうするか検討しましょう」

加賀見はそう言うと、カーリンに
副船長のパスワードとIDの解析をお願いした。
加賀見たちが副船長の部屋の前に到着する頃には、
連絡出来るとのことだった。
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