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優先順位

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加賀見は、管理センターに到着するや否や
副船長の瞳孔をモニターに拡大させて映した。
瞳孔は、焦点が定まらず、クルクルと忙しく動いていた。

「かがみ、これは、もしかして」
カーリンの言葉を遮り、加賀見が指示を出した。

「カーリンさん、全員にスーツの着用を
するようにアナウンスを。急いで」
カーリンも事の次第を理解しているのか、
急ぎ、館内放送を流し、サバイバルスーツに
着替えるために移動した。
他の職員も急ぎ、移動を始めた。
加賀見は、管理センターに一人残された。
そこで、副船長の行先を逐次、チェックしていた。
彼の行先に加賀見は、当てがあったために
その場で捕獲、拘束するつもりであった。

「織多さん、聞こえますか?
聞こえていれば、一旦、その場に止まってください」
加賀見は、単独行動をしている織多さんに話しかけた。
別のモニターに薙刀を持って、移動中の織多さんが
確認できた。

そのモニターで織多さんが止まったことが確認できた。
「はい、聞こえています、どうぞ」
織多さんの声が返ってきた。

「副船長はもはや、人ならざるモノとなっています。
恐らくですが、行先は、二人の元管理者が
拘束されている独居房かと。
あの場所が副船長から最も近く、液体を
得やすいと思います。
管理センターのメンバーが戻り次第、
私も向かいます。
合流するまで、織多さんはそこで待機してください。
くれぐれも単独行動は避けてください」
加賀見は織多さんに指示を出すと、
センターのオペレータが戻ってくるのを待った。
一分、一秒が非常に長く感じられた。
副船長は全く変化の無い速度と動作で動いていた。
まるでプログラムされた機械のような挙動に
加賀見は言いようのない恐怖を感じていた。
彼が向かう先はほぼ独居房のエリアと断定できた。
管理者二人を何とか助けたいが、
加賀見は不測の事態に備えて、ここを
離れることができなかった。
罪を犯した二人を救うのでなく、法に則り、
地球で裁くために二人を死なせたくなかった。

「かがみ、あの二人はもう、死んでいるわ。
副船長の管理者権限によってね。
勘違いして、色々と呪いの言葉を
あなたに残して死んだわ。
あの部屋には、開錠されて
二つの死体が残っているわ」
戻ってきたカーリンが加賀見の後方から手を伸ばし、
部屋の状況を表示した。
そこには、加賀見へのメッセージなのか、
血で書かれた文字と死体が二つ転がっていた。

加賀見は背中にカーリンの形の良い胸を
感じていたが、流石にこの事態では、
身体は反応してもそちらに意識が向かうことはなかった。

「尾賀さんの方は、通路から完全に
遮断された状態になっていますか?
あの死体、血文字の咀嚼が
吸収されるのは仕方ないとしても
尾賀さんは、なんとか助けないと」

「一応、密閉性は高いはず。
ガスが部屋を充満しても通路には流出していないから。
只、助けたいなら、一応、安全のために彼女にも
サバイバルスーツを持っていく必要があると思うわ」

既に一着、準備済みなのか、
カーリンが加賀見に手渡した。

「ありがとうございます。尾賀さんを
救出したら、あのエリアへのドアを
全て閉鎖してください」

加賀見が依頼すると、カーリンは、
頷いて、加賀見と入れ替わった。

「独居房に入った瞬間、あの部屋を閉錠するわ」
カーリンが動き出した加賀見に声をかけた。

乗船前に何度も繰り返された災害時緊急活動の
訓練を加賀見は思い出していたが、
あてはまるものが思い出せずにいた。

流石に副船長が下半身を晒しながら、
船員を襲うかもしれないなど、想像だにしていなかった。

織多さんと合流し、直ぐに今後のプランについて説明をした。
「うーんうーん、わかりました。
死者を冒涜するような後ろめたさを感じますが、
先ずは生き残ることに前向きになりますから」
織多さんは、自分自身を納得させるように言うと、
加賀見と一緒に行動を開始した。

独居房の扉を力任せに叩きつける副船長、
肉片が飛び散り、骨が露出し、一部砕けているが、
お構いなしに殴りつけていた。

「なんておぞましい光景。
加賀見、扉を開けて、アレを誘い込むから」

カーリンがモニターで状況を確認し、扉を開けた。
扉が開くのを確認すると、ソレは、部屋に入り、
飛散した肉片や血を舐め、咀嚼し始めた。

加賀見と織多さんは、尾賀のいる独居房に到着していた。
「あら、加賀見に織多ね。どうしたのかしら?」
外部の情報が遮断されているため、
尾賀は、全く状況を把握していないが、
織多さんの得物を見て、非常事態であることは、
瞬時に把握したようだった。

「尾賀さん、説明は後です。
直ぐにここでサバイバルスーツに着替えてください」

加賀見が急かす様に言うと、尾賀はためらいもなく、
その場で、上着を脱ぎ棄てた。
露わになる彼女の下着姿。
ロベリオやカーリンと違った色気のある肢体に
加賀見は、一瞬、状況を忘れて、凝視してしまった。
尾賀はくすりと笑い、
「加賀見、今は、非常事態ではないの?」
と言った。

「はっはあ、人は死を身近に感じると
生殖本能が刺激されますから、
これは仕方のないことです」
とこの場にそぐわない回答を粛々と答えてしまった。
何故か無言で薙刀が加賀見の首筋の辺りを
ウロウロしていた。

尾賀はその答えが可笑しかったのか、着替えながら、話かけた。
「加賀見は今、非常事態と違うことで
死を身近に感じているでしょう。
全く緊張感のない二人ね」

「はっ、これは違います。
場違いな行動に加賀見さんが
移らないように少し牽制しているだけです。
他意はありませんっ」
力説する織多さんだった。

「ふふふっ、加賀見も流石にこの場で
3Pを求める程、馬鹿じゃないわよ。
優先順位をきちっと決めているわ。
まあ、身体の反応は別としてもね」
 
 着替え終わった尾賀が加賀見に
必要以上に近づき、どうするのか尋ねた。

「このエリアから、撤収します。
近くに異形種だろうと思わしきモノが
うろついています。急ぎましょう」

加賀見が二人を急かして、移動を始めた。
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