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治療

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「さっきのがこの冒険のラスボス的な何かなのかな」
と織多さんが言うと、
「さあね、まーでも怪物や魔王を
倒しにきた訳でもないから、
あんなもんで済んでラッキーだったんじゃない」
とロベリオがさばさと言った。

移動台車へロベリオを強引に乗せて、
医療室に織多さんは向かった。

「何というか、あのヘタレがここに
下半身を晒して、乗っていたと思うと、
あんまりいい気分にはなれないね。おりた、歩くよ」

そんな抗議の声を無視して、進む織多さんだった。

医療室に到着すると、ロベリオは、
直ぐに患部の状況を確認され、部分麻酔を
打たれると腕を切開された。
腕の二本の骨は綺麗に折れていた。
腕は、筋肉で繋がっているだけの状態であった。
5本の指へ繋がる神経はどこまで生きているかは、
繋いだ後のチェックで分かることだろう。
患部と手術の状況を平然と見守るロベリオ。
付き添いの織多さんの方が失神しそうであった。

骨と骨が最新のプレートとボルトで接合され、
切開された部分が縫合される。
腕の内側と外側が切開されたため、
合計で70針近く縫合されていた。

「医療技術が如何に向上しようとも
最後は、人の腕次第なんですね」
と医療担当者の迅速な施術に感心する織多さんだった。

細い神経のいくつかは切断されていたが、
運よく、5本とも指は動くようだった。
切断された神経を繋ぐことは、現在の技術では
無理なようだった。

「まーラッキーだったよね。指もちゃんと動くし。
テーピングされているから、取り敢えず、動かせるけど、
プレートが貧弱だから、力はかけられそうにないかな」

「ロベリオさん、無理は禁物です。安静にしてください」

「ぷぷっ、君も軍から派遣されているから、
判っているでしょ。
軍属でも諜報部がどんな訓練をしているか。
この程度で動けなくなるような訓練はしていないよ」
ロベリオは椅子から立ち上がると、
軽く左腕を振り回し、よしっと一声、出すと、
医療室を退室しようとした。
その行動が余りにも自然だったために織多さんは、
一瞬、普通に見送ってしまうとことだった。

「ちょっ、ここで大人しくしていてください。
加賀見さんと副船長は何とかしますから」
と我に返った織多さんがロベリオの腰を
引っ張って、ベッドに強引に引き入れた。

「すみませんが、ロベリオをお願いします」
と織多さんが頭を下げて、足早に医療室を出て行った。

「腕が麻酔から回復したら、あなたも出て行って大丈夫です。
人数が減ったとはいえ、これからスリープモードに
入るための各員の健康チェックをしなければなりませんから」
と医療担当者は笑いながら、言った。

「ふん、まあ、プロの意見は聞くことにしますよ」
めずらしく不貞腐れたような表情で、
ベッドに横になるロベリオだった。

 通路を走る副船長は、カーリンによって、
捕捉されていた。
モニターに映る副船長の姿は滑稽であった。
ヨタヨタとふらつきながら、動く副船長の足音は、
モニター越しに聞こえるが、彼の呼吸音を
全く拾うことが出来なかった。

「あれだけふらついて、口を開いているのに
呼吸音が拾えないなんてあるのかしら」
疑問を感じるカーリンだった。
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