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 翌日、加賀見は、管理者専用会議室に出向くと、
追放される者たちについての説明を受けた。
その内容は、事後承諾であって、加賀見の意見が
反映される類のものではなかった。

「以上だ」
と一人の管理者が説明を結ぶと、加賀見を見た。
そして、一仕事が終わった後の優雅な一時のつもりか、
熱いコーヒーを口に含んだ。

加賀見は頷くしかなかった。
上位者の決定事項に対して、意見しても
己の立場を悪くするだけであって、
この状況では得策でないと判断したためだった。

にやにやした表情を崩さない副船長が加賀見に話かけた。
「加賀見君、特に意見のなさそうですね。
彼らもこの世界で、十分に活躍してくれましたし、
温情措置としては充分じゃないでしょうか?」

「はあ、私は、今の意見に賛成ですが」
と気のない返事をする加賀見であった。

「おい、貴様、何だその気のない返事は!
不満でもあるのか。あるなら、言え。
副船長もお前に意見を求めただろう」
といきり立つ一人の管理者。
典型的な阿諛追従を好むタイプだった。
加賀見が積極的に賛成し、賛辞をおくらなかったため、
不満でもあるかのように捉えて、責め立てていた。

 消えても消えても現れるステレオタイプの
クソ管理者、加賀見はうんざりした。
それも戻るまでの辛抱と割り切るように努めた。

「まあまあ、加賀見君に覇気のないのは、
今に始まったことではありませんから、
あまり気にするのは止めましょう」
副船長が取りなしているのか貶しているか
分からないような仲裁をした。

「まっまあ、副船長がそう言うなら。
おい、加賀見、ここに残るメンバーに残す物資の一覧だ。
確認して、サインしろ」

 既にここにいる管理者は、サイン済みだった。
複写式でない直筆のサインか、加賀見は心の中で呟いた。
手に取り、よくサインを見るとどうも
心なしか副船長のインクだけ薄いような気がした。

「すみません、ペンを準備していません。
お手数ですが、副船長、サインしたときに
使ったペンをお持ちでしたら、
貸していただけないでしょうか?」

管理者たちは、加賀見の要望に特に疑問を持たず、
口々に馬鹿にしたような発言を呟いていたが、
副船長だけは、目を細めて、加賀見を見つめ、
無言でペンを加賀見に渡した。

 加賀見は、一字目を書き、注意深く、
慎重に紙面に描かれた副船長の字のインクと比べた。
同じような感じであった。

「さっさと、しろ。字も碌にかけないのか、お前は!愚図が。
それとも内容に不満でもあるのか?」
一人の管理者が内容を精査されていると
誤解して、怒鳴りつけた。

「すみません、直ぐにサインします」
と加賀見は言うと、なるべく紙に筆圧が
かからないようにして、サインをした。
副船長は、終始無言であったが、
加賀見のサインが終わり、その筆跡を見ると、
眉間に皺を寄せた。
加賀見は、何気ないふうを装って、
そのペンで自分の服にインクを滲ませた。

「加賀見君、一体、私のペンで何を
しているのですかっ!まったく何のつもりですか。
さっさと、その汚らしいインクを
ここで落としなさい」
副船長が突然、厳しい声で加賀見を叱責した。
周囲は驚いたが、人様の私物でいたずらをするとは、
とんでもない奴と呆れていた。

 「はっはあ、すみません」

「ここに熱湯があるから、
それで早く落としなさい」
と言って、副船長は、準備されているポットから、
カップにお湯を注いだ。

加賀見は従わざるを得なかった。
熱湯でインクの汚れを拭き取った。

「拭ったタオルもここに置いていきなさい。
これは万が一にも異形種をここの区域に
誘い込まないための処置をするためです」
誰もがこの地では反論できない理由を
副船長が言うと、周りの取り巻きは、賛成の意を示した。

加賀見は無言で従った。

「では、本日の午後、予定通り彼らを
この区域から出発し、外部にて探索を継続して貰う。
以上で本会議を終了する」
と一人の管理者が宣誓すると、各々、退出した。

加賀見が最後に退出しようとすると、
出口付近にいた副船長が遮り、
無防備な加賀見の腹部に拳を打ち付けた。
「ふん、小賢しく立ち回るな。
言っておくが、あまりに目に余るようだったら、次はないぞ」
顔を歪ませ、加賀見の耳元で囁き、
更に加賀見の腹部に膝蹴りを見舞った。
そして、通路の奥に消えていった。
その場に蹲り、加賀見は、あのひょろい副船長の
強烈な二撃に評価を改めていた。
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