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上司の詰問

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渡航船ミラーワールド109号の機械系の
保守メンテナンスの管理者は、足早に
ロベリオの作業現場に向かった。
 サバイバルスーツに着替えもせずに
探索者エリアに出向き、作業の進捗を
詰問するつもりだった。

 作業現場に着くや否や眼に
入った加賀見に声をかけた。

「貴様、何をぼんやりとしている。
作業工程は、遅れ気味なんだぞ。
その意味が分かっているのか?
ああっ、ぼんやりとした顔しやがって、
突っ立て、何をしている。
お前の仕事は作業者の尻を私姦することかっ!
ああん?答えろ」

 先ほど会議での副船長の意味することを察して、
余裕がなくなってしまった男だった。
工期が延びれば、それだけ、エネルギーを消費する。
そして、帰還のための人数を
削減しなければならなくなる。
 当初の計画通りに進めば、現在の生存者は
帰還できるが、遅れが大きくなれば、修正を
施さなければならない、帰還者の数を。
余裕のない計画表を作成したつけが現れ始めていた。

 加賀見は突然の男の出現に面食らっていた。
いらぬ刺激を与えることを避けるために
男が黙るのを待った。

「かがみぃー、装置停止して」
とロベリオが加賀見に伝えた。

 その指示を受けると加賀見は電源を
切らずに装置を一旦、停止させた。
 電源の入り切り回数を減らして、
起動時の消費電力を抑えるためであった。

「ふぅー熱い熱い、一旦、休憩ね。
替えのシャツを取ってー」
と言うと、サバイバルスーツを腰まで下ろした。

 加賀見がシャツをロベリオに渡すと、
シャツの交換を始めた。
 そこに二人の男がいる事を全く気にせずに
上半身をロベリオは、露わにした。

 加賀見は先ほど放出しきったのか、
アレが無反応であったが、傍の男は、
ロベリオをガン見して、鼠径部を
もぞもぞとさせていた。

「ロベリオ君、はぁはぁ、進捗はどうかね?
予定通りにイキそうかな?
そこに突っ立ている男で役に立たないなら、
はぁはぁ、別の者をサポートに回すが?」
と若干の呼吸を乱しながら、提案をする。

「はぁ?あんたねぇ、作業が可能なのは、
かがみぃの持ち込んだ機器のお陰だよ。
それに計画?予定?やっと作業が進み始めたじゃん。
計画の修正をまだしてないの?馬鹿なの?
役に立たないなら、まだしも、現場を不快に
してどうすんのさ。あんた、ここに残りたいの?」
と冷たい目線でロベリオの直近上位の上司と
思わしき男に罵声を浴びせた。

 男は真っ赤になって何かをロベリオに
言おうとしたが、ぐっとこらえた。
 ここでロベリオに業務をサポタージュされたら、
地球に帰還すること叶わず、野垂れ死にすることが
男にはわかっていた。
 そして、同じ保守系であるが、自分に
この修理をするスキルがないことは分かっていた。

 男は真っ赤な顔で媚びる様に
「そっそうか、ロベリオ。
しっかり頼むよ。加賀見君、しっかりと
彼女のサポートを頼むよ」
と言って、装置の側の移動台車に
掛けてあるタオルを何気なく手に取った。

 タオルの一部にぱりぱりに乾いた
肌触り悪いところがあった。

 男は何気なく汗を拭こうと顔近づけると、
イカ臭い臭いが鼻を刺激した。

「むっ、これは」
彼も男であった。それが何を示すか、瞬時に理解した。
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