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生死の境目

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加賀見と織多さんは、4時間ほど更に
睡眠を取り、起きた。
そして、加賀見が放り投げておいた物資の回収に向かった。

「織多さん、二人分の5日ほどの食料と水が
入手できるはずです。それと元宮さんの遺品の中の食料と
織多さんの手持ちの食料で7日程度は、
何とかなります」
と加賀見が説明した。

「その間に少なくとも母船に到着して、
何とかしないといけないんですね」
と言って、織多さんは、ごくりと唾を飲み込んだ。

「そうですが、厳密には、スターテクノロジーズの
物資を入手するのに恐らく1日、そして、そこから、
母船の不時着した場所までに4~5日程度と予想しています。
体力を保ちつつ、移動しなければなりませんが、
ギリギリの日程になります」
と加賀見は見解を述べた。

「その前にミラーワールド109号が再度、
離陸したら、どうなるんですか?」
とあまり考えたくないことだが、織多さんは
最悪の状況に関して、質問をした。

「終わりです。行方不明もしくは死亡認定されて、
保険が適用されて、受取人に保険金が支払われます」
と加賀見が抑揚の変わらぬ声で説明をした。

「えっと、そちら側でなく、私たちです。
やはり、餓死というですかね?」
と織多さんが恐る恐る尋ねた。
加賀見は軽く頷くと、更に見解を追加した。

「ぎりぎりまで抗いますが、
限界が来たら、薬を渡します。
そうすれば、苦しまずにです。
そして、サバイバルスーツを
脱がずに亡くなれば、死体をこの世界の住人に
弄ばれることもないでしょうね。
スーツが風化するころには、恐らく私たちも
風化しているでしょう」

織多さんは、項垂れて、無言になったが、
歩みを止めることもなく、加賀見について行った。
二人は半日ほど歩き、加賀見が
放り投げた付近に到着した。
加賀見は、超広範囲探索器で
詳細の場所のチェックを始めた。

「織多さん、こっちです。
私にあまり遠投能力が無くて、良かったです。
あそこにありますよ」
と言って、森をかき分けて、入手に向かった。

「私も一緒に行きますから、待ってください」
と織多さんが言って、加賀見の後方を
警戒しながら、同じ方向へ向かった。

「ふう、これで、まず、第一段階は
クリアーですよ、織多さん」
と加賀見は努めて明るく言った。

「これで、半日、余裕が出来ましたね。
加賀見さん、不時着した場所は、超広範囲探索器で
分かるんですか?」
と織多さんが尋ねた。

「船は登録されていますが、
恐らく大体の方向しかわかりません。
探査範囲外の可能性があります。
船の墜落していく軌跡が記録されているはずですので、
その方向に向かいましょう」
と加賀見が説明して、物資の中身を確認した。

食料と水分補給用のパック、携帯容易な銃器、
サンプリング採取用の容器、サバイバルナイフ。
加賀見は、食料とパック、銃器以外を
その場に廃棄して、織多さんと自分の
バックに仕分けをして、担いだ。

「加賀見さん、そろそろ、一日経ちますが、
入手した液体に異形種が反応しませんかね?」
と織多さんが心配した。

「その点は何とも言えませんね。
ですが、スターテクノロジーズの水分補給パックは、
このおしゃぶり部分を吸うと
染み出してくるタイプのようですね。
これなら、素早くバイザーを開けて閉めれば、
大丈夫かと思いますが」

「確かに。これって、飲み過ぎにもなりませんし、
唇に含んで吸い上げるって便利ですね」
と織多さんが感心して、パックを見た。

「吸い上げるだけでなく、舌先や舌全体で
上手く舐め回すとより良いです。
刺激されて、唾液が分泌されますから、
より少ない水分摂取で済みます。
手で押さえ、持つことが出来ませんが、
奥まで咥え込まないようにしてください。
ごぼごぼ、むせますので」
と加賀見が説明をした。

「加賀見さん、はじめて使うのに
良く知っていますねー」
と感心する織多さんだった。

「ええまあ、それと最初に
力強く吸い上げないでください。
ゆっくりと先端から、舌で湿らせてから、
吸い上げるようにしてください」
と織多さんを指導した。

「はいっ!加賀見センセイの
言ったようにのちほど、やってみます」
と織多さんが元気よく返事をして、
パックをリュックに閉まった。


「ふむ、いい返事だ。じゃあ後でなく、
わたしの前にしゃがみなさい。
ほら、そこにしゃがんで顎を上げて、ごらん」
と加賀見は疲れが溜まっているためか、
どうも欲望を抑制できずに
ついついそんなことを言ってしまった。

「へっ?加賀見さん、どういうことですか?」
と周囲の温度が恐らくだが、10℃ほど
下るような冷たい口調で織多さんが応じた。

「すみません、冗談です。さっ、歩きましょう」
と背筋に悪寒の走る加賀見であった。

「加賀見さん、昨日から、ちょっと度が過ぎますよ。
あまりに続くようでしたら、色々と覚悟し下さいね」
と前を進み加賀見に織多さんが冷たい口調で伝えた。
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