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疑惑

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 加賀見らが部屋を出て行った後、
部屋に副船長と事務局員の二人が残った。
「加賀見という輩、このままにしておくのは
どうかと?どうも我々に不信感を持っているようですが」

「そうですね。ありそうですね。
ただ、今は、まだ、様子を見ましょう。
他にも不信感を抱いている者はいますよ。
少し死亡者のペースが早過ぎましたね。
それに従順な探索者だけでは、
つまらないですから」
と薄笑いを浮かべて、副船長は答えた。

「はっ、確かにその通りです。
少しは気骨のある人物がいる方が刺激になります。
我々には落ち度はありませんし」
と事務局員が答えた。

「ふふっ、そうですね、我々は何もしていませんからねぇ。
まあ、どの航海でも現れる反乱分子の芽が
彼の周りに集まってくれると助かるのですけどねぇ。
さてさて、我々も本来の業務に戻りましょうか」
と軽く右手を挙げて、副船長は、部屋を後にした。

加賀見と織多さんは、ミッションの成功を祝して、
食堂でささやかな祝杯をあげていた。

「加賀見さん、あんまり驚かせないでください!
昨日から、驚きっぱなしですっ!」
ちょっと、頬を膨らませて、抗議する織多さん。

「すみません、ただ、ちょっと、妙な気がしましたので。
事務局ともめてもいいことはありませんので、
以後、気を付けます」
と神妙な面持ちで加賀見は、答えた。

「まー加賀見さんのことですから、
何かお考えがあってのことだと思いますけど、、、
確かに今際の際の言葉にしては、変ですけど。
混乱していたんですかね」
むーと言う感じの表情で織多さんが考え込んでいた。

「約10日で3割近くの人間がなくなっています。
過去の探索に比べて、恵まれている方かと思いますが、
色々と考えてしまって。少し考え過ぎなのかもしれません」
と加賀見は、織多さんを安心させるように話した。

「えっもしかして、事務局が何かを
誘導したとか考えてたんですかー。
それは、あるんですかね。
そこは信頼しませんと、探索自体が
無理になりませんか?」

「確かにそうですね。そんなことをする
メリットも掴めていない今は、単なる空絵事
でしかありませんね」。

「加賀見さーん!もしですよ、事務局に
メリットがあれば、あり得ると
考えているんですか!」
ありえないといった表情で答える織多さん。

「事務局のメリットの内容によりますが、
少なくとも我々がここで亡くなれば、
膨大な保険金が企業や遺族におります。
その分配が事務局員にもあるとか。
もしくは、可能性は低いですが、
異形種に人を捧げれば、何かしらの恩恵が得られるとか。
利益次第ではやりますよ。
この多鏡面世界にいる限りは、どうとでもなりますからね」

「ひええーそんなことを
考えていたんですかー。そんなことですから、
うなされて、ソファーから転げ落ちて、
寝言で呻いているんですよ」
織多さんは、何故か頭をなでなでしてくる。

「織多さん、これは一体?」
加賀見は不思議そうに尋ねた。

「えっと、昨日、あんまりに歯ぎしりと
寝言が酷かったので、頭をなでなでしたら、
収まりましたので。
まーその後、離れるとすごく寝相が悪くて、
そこかしこにぶつかっていたので、
スリープボックスに放り込みました。
二人ですと、ちょっと狭かったですね」
にこにこしながら、答える織多さん。

「すみません、そんなに寝相や寝言が
酷いとは思っていませんでした」
と平謝りする加賀見。

織多さんは笑いながら、
「まーあれで、よく会社の机で寝ていられますねー。
周りに迷惑ですよー。
戻ったら、よく寝れる漢方でも紹介しますね」
と言った。

「会社の机では、熟睡しませんので、
そんなことにはなっていませんよ。
ですが、漢方は紹介して頂けると助かります。
今日はゆっくりして、明日からまた、
探索計画を進めましょう」
と加賀見は言い、戻ってもまた、
織多さんに会える可能性があることを嬉しく思った。

 彼らが、帰航するまで、あと、718日。
その約束を実現するにはそれだけの日数を
生き延びなければならなかった。

 そんな彼らの様子を管理センターの監視モニターから、
薄笑いを浮かべて、副船長が覗いていた。
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